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ストック・オプション公正価値単価の評価方法

第6章  ストック・オプションに関する公正価値評価の問題

第4節  ストック・オプション公正価値単価の評価方法

理的側面から説明される289。合理的側面から見ると、ストック・オプションには譲渡制限 があり、市場で売却ができないので、早期にストック・オプションを行使することになる。

また、心理的側面としては、株価が過去1年間における最高値を超えた時に、従業員等は オプションを行使する傾向があることが実証的に示されている290。

 このようなストック・オプションの早期の権利行使が日本企業でも確認されるならば、

算定時点から権利行使期間の中間点までの期間を予想残存期間として価値算定を行うこと は、残存期間が長いほど、オプション価値が高くなるので、本来計上すべき費用よりも多 額の費用を計上することになる。このように、ストック・オプションの早期権利行使は過 大に費用を計上するおそれがあるので、この特徴をモデルに組み込むことは重要であると

思われる。

 日本では、ストック・オプション制度の導入から約10年を経過したにすぎないので、ス トック・オプション制度の実態が明らかとされていない。こうした早期の権利行使は米国 企業の実態からの考察であり、日本企業の実態については今後詳細な調査が必要となるで

あろう。

 ブラック=ショールズ・モデルにおけるこれらの仮定はほとんどの場合、オプショ

ン価値を過大評価する方向に作用する。大量のストック・オプションを付与しているIT 産業などの米国企業からは、ブラック=ショールズ・モデルを使用すれば、オプション価 値が過大評価され、純利益が不当に低く抑えられるとの懸念が示されている292。

②二項モデル(格子モデル)の適用

 二項モデルは、将来の様々な時点における予想株価を表す格子やディシジョンツリーを 構築することにより、オプションを評価するモデルである。つまり、オプションの価値は、

このツリーの各格子点や各枝により決定される。「格子」にデータを投入するために、企業 は異なるそれぞれの節に関するボラティリティ、配当、リスクフリーレートについての情 報が必要となる。また、早期権利行使や権利確定後のオプション終了などといった、従業 員の行動についての情報を定量的に推測し、モデルに取り込むことも可能である293。

 二項モデルでは、ブラック=ショールズ・モデルのような、高度な数学的テクニックを 使わずに計算を行うことができるが、計算に時間がかかるのが難点である。

図表6−3 ブラック=ショールズ・モデルと二項モデルの違い

ブラック=ショールズ・

cfル

二項モデル

ボラティリティ 一定 変化

リスクフリーレー

一定 変化

配当 一定 変化

行使パターン 無視 考慮

行使期日 一定 モデルにより予測

(出所)池谷120051,2頁を加筆修正。

(2)三浦他による分析の考察

 三浦他[20061では、具体的に様々なモデルを用いて、日本企業を対象に、公正価値単価の 算定を行っている294。そこで、その公正価値単価の算定結果より、各モデルによるストッ

ク・オプションの公正価値評価について考察する。

 この分析で三浦他[2006]では3社を取り上げている。A杜は一般的な行使価格のストッ

292 r谷[2005]、1頁参照。

293KPMG[2004],p.3参照。

294 O浦他[2006]では、この公正価値評価において、株価条件を公正価値単価に織り込む場 合と、ストック・オプション数で調整する場合において、どのような数値差が算出される かの分析を行っている。それによると、株価条件をストック・オプション数で調整するこ とにより算出される公正価値は、株価条件を公正価値単価に反映させることで計算される 公正価値よりも大幅に小さくなるとの結果が得られている。詳しくは三浦[2006]、23−24頁。

ク・オプションと行使価格1円のストック・オプションを同時発行している。B杜は重厚 長大型の製造業、C杜は新興のIT関連企業であり、3社は対照的な企業であるといえる。

 使用したモデルのうち、ブラック=ショールズ・モデルを用いてオプション期間終了日 に行使したものとして計算した「BSモデル(満期日行使)」、行使可能期間の中間点で行使

したものとして計算した「BSモデル(中間目行使)」、アメリカン・オプションとして考え る「二項モデル(格子モデル)」を取り上げる(図表6−4)。295

図表6−4 三浦他[2006]による公正価値単価の計算結果

A社 A社

(通常)

B社 C社

(1円)

付与日 2005/6/24 2005/6/24 2005/8/11 2005/5/12

付与数 2,600,000 538,000 502,000 4,000

付与日の株価(円)

694 694 294 220000

行使価格(円)

729

1

294 242250

権利確定期間(年) 2.000 0.016 1.882 1.101 権利行使期間(年) 6.000 19.984 4.000 8.000

対象者(名) 91 26 42

リスクフリーレート(%) 0.894 1.899 O.839 1.142

配当利回り(%) 1.203 1.203 1.261 0.206

ボラティリティ(%) 48.539 44.320 35.247 85.800

17344

BS(満期日行使)(円) 308.43 544.91 88.08

5.95

14352

BS(中間日行使)(円) 257.29 614.51 74.37

6.85

二項モデル(格子モデル) 17417

317.43 692.87 90.13

(円) 2.16

(出所)三浦他[20061,22頁を加筆修正。

 行使価格1円のストック・オプションは、極端なイン・ザ・マネー状態であり、即時行 使が最適と考えられる。また、行使すれば株券を渡すという行為と大差がないので、計算 結果は株価とほぼ等しくなるはずであるが、満期日行使のBSモデルでは付与目の株価との 間に差が出てくる(BSモデル(満期日行使)=544.91円、付与目の株価=694円)。また、

BSモデルによると、全ての結果において、満期日か中間目が、つまり、行使日をいつに設

295 O浦[20061では、その他モンテカルロ法等を用いて公正価値単価を算出しているが、本 章では会計基準で触れられているブラック・ショールズ=モデルと二項モデル(格子モデ ル)の結果に焦点を当て、考察を行う。

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足するかにより、数値に大きな差が出てしまう。このようなブラック=ショールズ・モデ ルを適用することは理論的に考えて適切でないと考え〒三れる。

 また、ストック・オプションにおいては受給資格要件、業績条件、権利失効、早期権利 行使パターンや、権利行使停止期間等、ブラック=ショールズ・モデルには組み込むこと が難しい要素についても考慮する必要がある。

 ブラック=ショールズ・モデル、二項モデルの数値結果にも差があることから、企業が どのモデルを使用するかにより、企業間比較が損なわれるおそれがある。そのことからも、

多くの条件を組み入れることができる、柔軟性が高い二項モデルを使用する方が好ましい と考える296。また、国際的統一の観点からも、二項モデルを積極的に使用することが好ま しいと思われる。

第5節おわりに

 国際的統一化の流れと共に、日本でも会社法の施行と同時にストック・オプションを公 正価値で測定し、費用計上することが義務付けられることとなった。日本基準では特定の モデルを推奨していないので、企業がいかなるモデルを用いて公正価値を算出するかは、

企業の利益額に大きな影響を及ぼすことになる。また、どのモデルを用いる場合において も、モデルには多くの仮定条件が必要となるので、企業による数値操作の可能性は十分に 考えられ、必ずしも確実で客観的な企業実態を表す数値を提供できるとは断言できない。

 考察の結果、日本基準で例示されているブラック=ショールズ・モデルと二項モデルに 代表される格子モデルを比較した場合、算出されたストック・オプションの公正価値単価 に差が生じることがわかった。選択するモデルにより算出される数値に差が生じることで、

財務諸表の信頼性低下につながるおそれがある。ブラック=ショールズ・モデルは中長期 にわたるストック・オプションの利用に向かず、また、使用する要素を一定とすることな ど試算結果が理論的とはいえず、モデルに要素を組み込むことに限界がある。そこでスト ック・オプションの公正価値評価には柔軟に対応できる二項モデルを使用し、企業間の比 較可能性および国際的統一性を確保するのが好ましいと考えられる。しかし、二項モデル の柔軟性に富んでいるという特徴は、言い換えれば、公正価値測定に春意性を介入させ会 計数値を操作できるといえる点に注意しなければならない。つまり、公正価値に多くの要 素を反映させることができる二項モデルの使用には、測定を行う企業側のコンプライアン スを徹底する必要があるといえよう。

 会計基準で特定モデルを推奨していない状況の下、今後どのモデルを使用するにせよ、

オプション価格算定モデルを使用する際には、そのモデルの限界を知った上で、合理的な

296 O浦[2006]により分析されているモンテカルロ法は、二項モデルよりもさらに複雑な条 件を組入れ、公正価値単価を評価することができる。しかし、設定および適用が複雑すぎ

仮定や条件に基づいた公正価値評価を行うことが重要である。

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