Clinical Question
要 約
変形性股関節症と鑑別を要する疾患として,①変形性股関節症以外の股関節疾 患,②変形性股関節症と類似した疼痛を呈し得る股関節以外の疾患,が考えられ る.
解 説
①股関節疾患
股関節痛を呈する代表的な疾患は変形性股関節症(股関節症)であり,非炎症性 で,関節軟骨に変性があり,周囲の骨と滑膜組織に変化が生じ関節の変性が起こ る状態で,関節裂隙は狭小化する.わが国では寛骨臼形成不全に起因する二次性 股関節症が大半であり,女性に多い.一方で,股関節症と鑑別を要する疾患とし て,大腿骨頭壊死症,関節リウマチおよび類縁疾患,感染性疾患,腫瘍性疾患およ び腫瘍類似性疾患,大腿骨近位部骨折や大腿骨頭軟骨下脆弱性骨折,股関節唇損 傷などが挙げられる1, 2).
• 大腿骨頭壊死症
大腿骨頭に無菌性,阻血性の壊死を生じる疾患で,特発性と続発性の大腿骨頭 壊死症がある.特発性大腿骨頭壊死症にはステロイドやアルコールが誘因となる 症例のほか,これらの誘因のない狭義の特発性大腿骨頭壊死症が含まれる.続発 性大腿骨頭壊死症は外傷後や放射線照射後などに発生する.そのため,診断には 病歴の聴取が重要となる.骨壊死が発生しただけでは疼痛を伴わないが,大腿骨 頭が圧潰すると疼痛が生じる.病状が進行すると,寛骨臼側の変性も生じ二次性 の股関節症となる.初期の診断には MRI が有用で,T1 強調像での帯状低信号像が 特徴的であり,X 線所見で変化のない早期から診断可能である.X 線所見での変化 としては,帯状硬化像や軟骨下骨の骨折を示す crescent sign が重要である.
• 関節リウマチおよび類縁疾患
関節リウマチは進行性の全身性の炎症性疾患で,滑膜の増生によって関節に慢 性炎症を生じ,関節破壊に至る.股関節の罹患頻度は 10%前後であり,関節リウ マチの罹病期間が長い症例や病勢のコントロールが不良な症例に股関節の罹患が 多いとされている.関節リウマチにおける股関節破壊は,まず内上方に向かい,最 終的には寛骨臼底突出症に至るのが特徴である.
• 感染性疾患(化膿性股関節炎)
成人では小児に比してまれではあるが,免疫不全や腎不全,糖尿病,副腎皮質 ステロイドの使用,抗癌薬の使用,放射線治療などでリスクが上昇する.症状と して代表的なものは高熱,激しい疼痛,可動域制限などであるが,定型的なもの はない.診断が遅れると予後不良であり,早期の正確な診断が重要である.X 線像
関節炎が疑われる際には,X 線透視下もしくは超音波ガイド下に関節穿刺を行い,
早期の対応を必要とする.
• 腫瘍性疾患および腫瘍類似性疾患
まれではあるが,好発年齢や好発部位,特徴的な X 線所見をもとに,常に鑑別を 念頭に置くことが重要である.補助診断としては,CT 検査・MRI 検査・骨シンチ グラフィーなどが有用である.具体的には骨巨細胞種,滑膜性骨軟骨腫,腱滑膜巨 細胞種,軟骨肉腫,転移性骨腫瘍(前立腺癌,乳癌,甲状腺癌,肺癌など)が鑑別と して挙げられる.
• 大腿骨近位部骨折,大腿骨頭軟骨下脆弱性骨折
大腿骨近位部骨折は骨粗鬆症を有する高齢者に多く見られる骨折である.外傷 歴や X 線像から診断が容易なことが多いが,初回の X 線像で骨折がわからない不 顕性骨折もあり,その場合は MRI が診断に有用である.また,強度が低下した骨 に生理的な外力が加わって起こる大腿骨頭軟骨下脆弱性骨折もあり,特に骨粗鬆 症の高齢女性で鑑別が重要である.特徴的な画像所見としては,X 線像では正常 もしくは大腿骨頭の圧潰が見られ,MRI では大腿骨頭から頚部の骨髄浮腫,T1 強 調像で関節面と平行か蛇行する低信号像を呈する.しばしば急速に関節破壊が進 行する例もあり,人工股関節全置換術(THA)に移行する例が多い.またその MRI 所見から,大腿骨頭壊死症との鑑別も重要となる.
• 股関節唇損傷
寛骨臼形成不全や大腿骨寛骨臼インピンジメントなどの骨形態を有する症例で 多いとされるが,これらの骨形態変化がない症例もある.診断には,股関節痛の発 症機転に関する問診や身体所見,また画像検査として放射状スライス MRI が有用 とされる.
②股関節以外の疾患
股関節症の疼痛発現部位として最も多いのは股関節前面すなわち鼡径部である が,殿部や大腿前面,腰部,膝,下腿の痛みを訴える場合も少なくない.このよう な非典型的な疼痛の場合,股関節以外の疾患との鑑別も重要となる.また鼡径部 痛においても,股関節以外の疾患の可能性もある1-3).
整形外科疾患以外では,閉塞性動脈疾患や骨盤内臓器(生殖器など)の疾患など も鑑別として挙がることがある.
• 腰椎疾患
腰椎由来の疼痛として,殿部や大腿部,下腿の疼痛が生じることは多い.上位腰 椎の神経根症や,下位腰椎障害による腰痛の一部が内臓性の交感神経求心路を介 して非分節性に第 2 腰椎髄節に伝達されて殿部や大腿外側に関連痛を生じるとの 報告もある.
• 膝関節疾患
身体所見(膝関節の運動時痛や関節水症など)から比較的鑑別は容易である.問 診においては階段昇降時の疼痛発現が有用であり,股関節痛は昇段時,膝関節痛 は降段時に強いという特徴がある.
③その他
上記疾患に加え,比較的まれな疾患も含めると,痛みの部位と関連付けて図 1の ような疾患が挙げられる1-3).
エビデンス
●股関節痛の部位は,股関節前面や鼡径部,股関節後方や殿部,股関節外側の 3 つに 大別される.股関節前面・鼡径部痛の原因としては股関節症,股関節唇損傷,疲労 骨折や脆弱性骨折,化膿性股関節炎,大腿骨頭壊死症などが考えられる.一方で,
股関節後方や殿部痛の原因としては,梨状筋症候群,仙腸関節障害,腰部神経根 症,(頻度は少ないが)坐骨と大腿骨とのインピンジメント,血管性跛行が挙げら れ,また股関節外側痛の原因としては大転子症候群が挙げられる(H2H00064,
EV level C-Ⅲ).
●股関節痛の鑑別疾患は多岐にわたる.関節内の病態には,関節唇損傷,遊離体,関 節不安定性,骨頭靱帯断裂,軟骨損傷などがあり,関節外の病態には,腸腰筋腱炎,
腸脛靱帯炎,中殿筋および小殿筋炎,大転子滑液包炎,疲労骨折,内転筋損傷,梨
鼡径部,大腿 変形性股関節症 大腿骨頭壊死症
股関節炎(リウマチ疾患など)
化膿性股関節炎 股関節脱臼骨折 骨盤骨折腸腰筋膿瘍・腸腰筋血腫 腸恥滑液包炎
腰椎由来の神経根症 外側大腿皮神経の絞扼性障害 腫瘍人工股関節の弛み
腹筋下部損傷
腎結石・前立腺炎・副睾丸炎 大動脈瘤閉鎖・大腿・鼠径ヘルニア 恥骨炎
恥骨部恥骨骨炎・骨髄炎 腹直筋付着部炎 恥骨損傷膀胱炎
殿部外側転子部滑液包炎 中下位腰椎由来の関連痛 外転筋や外旋筋の腱炎
大腿前面と側面 大腿神経の絞扼性障害 外側大腿皮神経障害 血管の閉塞性病変
殿部・大腿・下肢 大腿神経障害 梨状筋症候群 仙腸関節炎 殿筋血腫坐骨部滑液包炎 坐骨結節の裂離骨折 陰部ヘルペス 虚血性疾患
腰椎椎間板ヘルニアによる 神経根症状
骨盤部腸腰筋膿瘍 仙腸関節炎 腸腰筋血腫
抗凝固療法・DVT 予防・血友病・外傷 女性科疾患
骨盤炎・子宮外妊娠・子宮内膜症 前立腺癌
大腿内側内転筋損傷 閉鎖神経絞扼性障害 膝からの関連痛
図 1 痛みの部位からみた鑑別診断
●椎間板性腰痛が 1 ヵ月以上持続する 33 例(男 23,女 10)に対して透視下に L2 神経 根ブロックを行い,15 分後の腰痛の程度,痛覚鈍麻の領域,姿勢による疼痛の誘 発時間と耐久時間を評価した.その結果,神経ブロック後全例で腰痛が軽減した.
針の刺入時に疼痛が腰部に放散したのは 23 例で,元の疼痛部位の痛覚鈍麻は 32 例 であった.痛覚鈍麻の領域は,腰部,殿部,大腿前外側であった(H2H00022,
EV level C-Ⅱ).
文 献
1)
H2H00064
Wilson JJ, Furukawa M:Evaluation of the patient with hip pain. Am Fam Physician 2014;89(1):27-342)
H2H00040
Tibor LM, Sekiya JK:Differential diagnosis of pain around the hip joint.Arthroscopy 2008;24(12):1407-21
3)