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Clinical Question

要 約

現時点で世界的にコンセンサスの得られている変形性股関節症の明確な診断基 準は存在しない.大規模な疫学調査においては,いくつかの X 線学的病期分類や 最小関節裂隙幅,米国リウマチ学会の基準などが診断基準として主に用いられて いる.

解 説

診断基準とは,医師や医療機関の間での治療成績や転帰の比較検討,種々の疫 学調査などのために,できるかぎり均質な患者を対象とするために作られた基準 である.多彩な全身症状を呈する膠原病などのリウマチ性疾患には,明確な診断 基準が設定されていることが多く,それが日常診療において重要な役割を果たし ている.それに対し,変形性股関節症(股関節症)に関しては,日常診療において 診断基準が必要となることは比較的少ない.通常,疾患に関する臨床あるいは疫 学に関する研究を行うにあたっては,明確な診断基準のもとに患者の選択がなさ れるべきであるが,股関節症に関しては,世界的にコンセンサスの得られている 明確な診断基準が存在していないため,大規模な疫学調査などにおいてはいくつ かの X 線学的病期分類などが診断基準として適用されているのが現状である.

海外においては,米国リウマチ学会(ACR)基準,Kellgren and Lawrence grade

(K/L グレード),Croft modification of K/L grade(Croft グレード),最小関節裂 隙幅(minimal joint space:MJS)などが疫学調査において診断基準として使用さ れている.またわが国においては,上記の基準に加え,日本整形外科学会変形性股 関節症病期分類も診断基準として使用されることがある.これらのうち,大規模 な研究結果からの明確な根拠に基づき設定されているものとしては ACR 基準が ある1)

ACR 基準は,股関節痛を訴える種々の患者の臨床的所見をもとに,股関節症の 診断において感度と特異度の組み合わせが最も高くなる臨床的所見を導き出し た研究結果から設定されている.股関節痛があり,かつ①赤血球沈降速度(ESR)

20 mm/ 時未満,②大腿骨頭あるいは寛骨臼の骨棘形成,③関節裂隙の狭小化,の 3 項目のうち 2 項目以上が該当するもの,となっている.臨床所見と X 線所見を組 み合わせてあるため,疫学調査などの大規模な研究には不向きで,より臨床的な 研究向きの基準といえる.ESR の項目が入っていることにより,関節リウマチな どの炎症性疾患との鑑別には有用である.内科的疾患の診断基準に最も近い内容 であるが,厳密かつ大規模な研究結果をもとに設定された割には信頼度が低いと の報告もある2)

一方,K/L グレード,Croft グレード,MJS などは,X 線所見を唯一の診断根拠

節裂隙幅であり裂隙幅を数値化したものである.これらの基準は,症状や機能障 害を加味したものでなく,X 線像だけで調査が可能であるため,大規模な疫学調 査には使いやすいという利点がある半面,無症候性である X 線学的な股関節症を 含んでしまうという問題がある.また鑑別診断の参考にはならない.ただし,MJS は症状や機能障害との相関が比較的高く,検者間での再現性も高いとされ,診断 基準の指標としては有用である2-5).また K/L グレードは,予後予測因子として有 用である5)

わが国で従来から使用されている日本整形外科学会の病期分類は,日常診療に おいて診断基準的な役割も果たしており,一部の疫学調査では,K/L グレード,

Croft グレードと同様に診断基準として用いられている6, 7).しかしながら,これ もあくまで X 線学的な病期分類であるため,もともと症状や機能障害を加味した ものではないこと,前股関節症というわが国特有の概念を含んでいるため,診断 基準として採用する場合は寛骨臼形成不全や発育性股関節形成不全の遺残変形を 異なった概念で扱っている海外との整合性がないなどの問題がある.

股関節症の診断基準が必要となる状況は疫学調査や一部の臨床研究のみに限ら れ,必ずしも実際の日常診療において診断基準が必要ではないのが現状である.

そのため明確な診断基準は存在せず,あいまいな状態になっている.世界的にコ ンセンサスの得られた統一基準を設定することは,股関節症の研究面で大きな意 義があるが,すべての目的に合致する唯一の診断基準を作成することは実際のと ころ困難である.たとえば,治療結果に関する研究であれば,疼痛や機能障害など の項目が診断基準の中に含まれるべきであり,疫学調査などでは X 線評価が最も 重要になるため,K/L グレードや Croft グレードのような X 線学的病期分類が基 準として使いやすい.より診断に重点を置いた基準を目指せば,鑑別診断および 除外項目の範疇などを設定する必要がある.また,診断基準における寛骨臼形成 不全や発育性股関節形成不全の二次性変形性股関節症の位置付けをどうするかも 重要である.わが国あるいは世界の現状にあった診断基準を考えるにあたっては,

上記の内容について十分な検討が必要であり,それらを明確にしたうえで,診断 基準としての信頼性,妥当性を評価する研究も必要である.

エビデンス

●股関節痛を認める 201 例(股関節症 114,対照群 87)の分析.対照群は股関節痛の ある患者群で,43%が関節リウマチ,残りは他の疾患.臨床的クライテリアを,① 内旋 15°以上で股関節痛があり,股関節の朝のこわばりが 60 分以下で,50 歳以上,

②内旋 15°以下で,ESR 45 mm/時以下か,屈曲 115°以下,のどちらかを満たす ものと定義し,臨床的クライテリア+ X 線学的クライテリアを,股関節痛と,① ESR 20 mm/時未満,②大腿骨頭あるいは寛骨臼の骨棘形成,③関節裂隙の狭小化 の 3 項目のうち 2 項目以上陽性のものと定義したところ,臨床的クライテリアで は,感度86%,特異度75%であり,ある程度感受性は高いが,特異性に欠けていた.

臨床的クライテリア+ X 線学的クライテリアでは,感度 89%,特異度 91%であっ た.大腿骨頭あるいは寛骨臼の骨棘形成が最も良い鑑別のクライテリアであった

(HF11871,

EV level C-Ⅱ).

●股関節症の診断基準として主に使われている基準(K/Lグレード,Croftグレード,

MJS,ACR 基準,Lane のインデックスなど)の妥当性,信頼性,適用性を比較した review では,最も信頼性が高く,股関節痛や可動域制限などの症状との相関性が 最も高いのは MJS であった.次いで K/L グレードと Lane のインデックスの信頼 性が高かった.Croft グレードは MJS,K/L グレードより信頼性と妥当性の点で低 く,ACR 基準はさらに低かった(HF11915,

EV level C-Ia).

●静脈性尿路造影を受けた 60 ~ 75 歳の男性 1,315 人の X 線像から 7 つの指標(①外 側関節裂隙幅,②上方関節裂隙幅,③内側関節裂隙幅,④ MJS,⑤最大骨硬化幅,

⑥骨棘サイズ,⑦ Croft グレード)を調べた報告では,MJS(1.5 mm 以下)が他の 指標と最も強く相関し,股関節痛とは MJS(1.5 mm 以下),骨硬化幅(6.5 mm 以上)

と Croft グレード(4 以上)が相関していた.MJS は検者間,検者内再現性が良好で あり,最も良い指標であった(HF11869,

EV level C-Ib).

●コペンハーゲンに住む 3,807 人を対象とした股関節痛と X 線所見との関連の調査.

股関節症の診断基準として K/L グレード(2 以上),Croft グレード,(3 以上),MJS

(2.0 mm 以下)を採用し,股関節痛との関連を比較したところ,股関節痛と最もよ く相関したのは MJS(2.0 mm 以下)であった(HF10117,

EV level C-Ib).

●ロッテルダムに住む3,585人のコホートを対象にX線像,股関節痛,下肢機能障害,

人工股関節全置換術(THA)への移行の有無を調査し,K/L グレード,MJS,Croft グレードの信頼性と妥当性を検討.症状との相関は K/L グレードと MJS で高く,

THA の最も良い予測因子となるのは K/L グレードであり,K/L グレードが最も 良い指標であった(HF10230,

EV level C-Ib).

文 献

1)

HF11871

Altman R, Alarcon G, Appelrouth D et al:The American College of Rheumatology Criteria for the Classification and Reporting of Osteoarthritis of the Hip. Arthritis Rheum 1991;34:505-14

2)

HF11915

Reijman M, Hazes JMW, Koes BW et al:Validity, reliability, and applicability of seven definitions of hip osteoarthritis used in epidemiological studies:a systematic appraisal. Ann Rheum Dis 2004;63:226-32

3)

HF11869

Croft P, Cooper C, Wickham C et al:Defining Osteoarthritis of the Hip for Epidemiologic Studies. Am J Epidemiol 1990;132:514-22

4)

HF10117

Jacobsen S, Sonne-Holm S, Soballe K et al:Radiographic case definitions and prevalence of osteoarthritis of the hip. A survey of 4151 subjects in the Osteoarthritis Substudy of the Copenhagen City Heart Study. Acta Orthop Scand 2004;75:713-20

5)

HF10230

Reijman M, Hazes JMW, Pols HAP et al:Validity and reliability of three definitions of hip osteoarthritis:cross sectional and longitudinal approach.

Ann Rheum Dis 2003;63:1427-33

6)

HJ11346

吉村典子,森岡聖次,笠松隆洋ほか:地域住民の股関節間隙値の性,年齢別分布.

日骨形態計測会誌 1994;4:107-12

7)

HJ11596

斎藤昭,菊地臣一:変形性股関節症の疫学 1,601 例の病院受診者に対する調査.

臨整外 2000;35:47-51

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