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関節温存術について

わが国の変形性股関節症(股関節症)は寛骨臼形成不全に起因する例が多く,骨 切り術を中心とする関節温存術は股関節症治療体系のなかで大きな役割を果たし てきた.代表的な関節温存術として,寛骨臼回転骨切り術・寛骨臼移動術,Chiari 骨盤骨切り術,臼蓋形成術,大腿骨内反骨切り術,大腿骨外反骨切り術,関節鏡下 手術,筋解離術が挙げられる.関節固定術は厳密には関節温存ではないが,人工股 関節全置換術(THA)以外の術式としてここに挙げる.関節温存術はそれぞれに 異なった適応と目的を持っており,若年で病期が進行していない場合には症状緩 和に加えて病期進行予防を目的とした根治的な手術が適応される.一方,病期が 進行して根治的な手術が困難な場合には,将来的な THA を視野に入れた症状緩 和が目的とされる(図 1).本ガイドライン初版では上記 8 術式について,各術式の 特徴と有効性を網羅的に記載し,股関節症の Q&A として読者の期待に応えてき たと思われる.

しかしながら 2008 年の初版発刊以後,診療ガイドラインの方向性も大きな変化 を遂げている.具体的には「益と害のバランス」が重要視され,エビデンスの質ば かりでなく,患者の希望も考慮して,治療の助けになるものを目指している.初版 では「個々の術式の効果や意義」は十分に記載されているものの,「ある状況(患者)

において治療方法選択の助けになることを目的」にしたものではなかった.本改 訂版では,ある状況下で医師と患者の治療選択をより具体的にサポートできるこ とを目標とした.具体的には関節温存術を考えるうえで最も重要な「患者年齢」と

「股関節症病期」の 2 つの因子を組み合わせて,「青・壮年期の進行期変形性股関節 症に有用な関節温存術は?」など 4 つの clinical question(CQ)を設定し,それぞ れにおける治療の推奨度,および術式別の術後成績を示している(表 1).病期は 前股関節症・初期股関節症(前・初期股関節症)と進行期・末期股関節症の 2 つに 分け,年齢も青・壮年期と中年期以降の 2 つに分けた.青年期・壮年期・中年期の

前股関節症 初期股関節症 進行期股関節症 末期股関節症

内反骨切り術

外反骨切り術

(±臼蓋形成術)

臼蓋形成術単独 Chiari 骨盤骨切り術

(±外反骨切り術)

寛骨臼回転骨切り術

・寛骨臼移動術 関節鏡下手術 筋解離術 関節固定術

図 1 各関節温存術および関節固定術と既往となる股関節症病期

実線矢印は一般的な適応を示し,点線矢印は患者年齢や関節適合性などを加味して決める適応

を示す.

年齢は概ね,青年期(15 ~ 25 歳),壮年期(26 ~ 44 歳),中年期(45 ~ 64 歳)を目 安としている.

わが国における関節温存術の現状と本ガイドラインで取り上げた術式

前股関節症・初期股関節症(前・初期股関節症)に対する手術として寛骨臼回 転骨切り術・寛骨臼移動術,Chiari 骨盤骨切り術,臼蓋形成術,大腿骨内反骨切り 術が主な術式として挙げられる.そのなかで内反骨切り術は寛骨臼形成不全に対 する標準的術式として施行され,多くの成績が報告されている.しかしながら,近 年の寛骨臼回転骨切り術・寛骨臼移動術の普及に伴ってその適応は著しく減少し た.実際,文献収集の段階で 2006 年以降に発表された成人股関節症に対する内反 骨切り術の報告はなかった.そのため,本ガイドラインでは内反骨切り術につい ては記載しておらず,詳しくは初版を参照いただきたい.筋解離術と股関節固定 術についても同様の理由で割愛した.

現在,寛骨臼を含む骨片を外方に移動させ,大腿骨頭の被覆を増加させる寛骨 臼回転骨切り術・寛骨臼移動術が前・初期股関節症に対する標準的術式として普 及している.寛骨臼回転骨切り術・寛骨臼移動術,periacetabular osteotomy など が代表的術式として挙げられ,ここでは寛骨臼回転骨切り術・寛骨臼移動術と総 称する.前・初期股関節症に対しては長期においても安定した術後成績が数多く 報告されており,初版においても本術式のみは推奨 Grade を B とした.進行期・

末期股関節症に対する術後成績は安定しておらず,その適応は意見の分かれると ころである.

Chiari 骨盤骨切り術は,寛骨臼形成不全に対して関節包直上の高さで腸骨を内 板まで直線状に骨切りして股関節を含む末梢側を内方に移動させる手術である.

これにより股関節にかかる負荷を軽減させることができ,かつ近位骨片が関節包 を介して荷重を分散し,亜脱臼を防止することが可能となる.前股関節症から末 期股関節症まで幅広い適応範囲を持つが,特に骨頭変形が強く,寛骨臼回転骨切 り術・寛骨臼移動術の適応になりにくい進行期・末期股関節症に大腿骨外反骨切 り術と併用することで有力な選択肢となる.

臼蓋形成術は腸骨より採取した骨を寛骨臼荷重部関節包上に移植し骨性臼蓋を 形成する手術である.寛骨臼回転骨切り術・寛骨臼移動術や Chiari 骨盤骨切り術 に比べて低侵襲ではあるものの,寛骨臼形成不全の程度の強い例や亜脱臼を呈し た例の術後成績が不安定であり,その適応はごく限られている.

外反骨切り術は骨頭を外反させることによって,荷重部をより骨頭内側に移動 させ,内側の骨棘も含めた新たな骨頭荷重面と臼蓋内側関節面との関節適合性を

患者年齢 前・初期股関節症 進行期・末期股関節症

青・壮年期

CQ1 CQ2

中年期以降

CQ3 CQ4

持たせることを目的とする.わが国では進行期・末期股関節症に対する手術とし て広く行われている.寛骨臼形成不全の強い例に対しては臼蓋形成術や Chiari 骨 盤骨切り術などと併用される場合が多い.

近年,大腿骨寛骨臼インピンジメント(femoroacetbular impingement:FAI)

に対する関節鏡視下での寛骨臼縁切除,関節唇処置,および大腿骨頭頚部移行部 の形成術が多く行われるようになった.しかしながら,FAI を股関節症の範疇に 含めるか否かは議論の分かれるところであり,本ガイドラインでは 7 章において 独立して FAI を概説している.そのため,関節温存術における関節鏡下手術は進 行例における関節唇部分切除やデブリドマンを記載するにとどめた.

以上,本章では「患者年齢」と「股関節症病期」の 2 つの因子を組み合わせて 4 つ の CQ を作成し,術式として寛骨臼回転骨切り術・寛骨臼移動術,Chiari 骨盤骨切 り術,臼蓋形成術,大腿骨外反骨切り術,関節鏡下手術を取り上げた.本章では治 療のアウトカムを①臨床成績の改善,②病期の進行抑制,③人工股関節全置換術 への移行の 3 点に絞り,さらに定性的・定量的システマティックレビューを加え て,その有効性・有用性を定量的に表現した.また,報告の多くは幅広い年齢,病 期に対して行われた治療成績であり,CQ 間で同一の報告を採用していることも 少なくない.本章では文献を一括して章末に記載し,エビデンスは最初に記載さ れたページを参照することで重複を避けた.最後に,関節温存術は画一的なもの ではなく,治療者の経験や技術に依存するところも少なくない.本章の記載はあ くまで治療指針の 1 つとして,読者の日常診療に役立つことを望む.

1 青・壮年期の前股関節症・初期変形性股関節症

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