解 説
変形性股関節症(股関節症)における患者教育には,股関節の解剖や疾患の理解,
生活環境の改善,日常生活動作の指導,杖や装具の指導,電話相談などによって患 者が再確認できる体制,および家庭での運動の指導などが含まれる.家庭での運 動の指導を運動療法と考えるならば,これを伴わない狭義の患者教育単独におけ る疼痛改善の効果などについての論文は少ない.一方で運動の指導を含んだ広義 の患者教育に関する論文2, 3, 5, 6)は多数存在し,患者教育は股関節症の術前・術後 の疼痛の緩和に関して有効とする論文1-4)が多い.しかし,教育の方法やツールが さまざまで統一されておらず,論文間での差異が存在するため,客観的な評価を 難しくしている.そのなかでも股関節の解剖,股関節症の解説,生活指導・運動指 導,治療法の解説は多くの論文で共通する教育項目となっている(表 1).また,い ずれも短期の経過報告であり,5 年以上の中・長期における評価報告はなされて いない.したがって,患者教育の長期的な有効性や病期の進行予防効果について は不明である.また,下肢の変形性関節症として股関節と膝関節の両部位をあわ せた報告が多く,股関節に限定された報告はほとんどないため今後の検討が必要 である.
患者教育(運動療法も含まれる)に関しては質の高いエビデンスがあり,推奨 Grade は A とする意見が多かったが,基準の割合には達しなかった.長期経過が 不明なこと,疼痛が緩和してからもその効果が小さい場合があること,および適 切な追加治療の時期を逸する可能性があることなどから,委員会としては,現在
表 1 患者教育の内容
著 者 股関節の 解剖
股関節症の 解説
生活指導
(体重管理)
運動指導
(平地歩行)
治療法の 解説
Hopman-Rock et al3) ○ ○ ○ ○
Heuts et al4) ○ ○ ○ ○
Fernandes et al5) ○ ○ ○ ○
Poulsen et al6) ○ ○ ○ ○
サイエンティフィックステートメント
●患者教育と運動療法プログラムを行った群は,行わなかった群より病識が向上し1), 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)使用量が減少2)して,疼痛および QOL が有意 に改善した3, 4).
●患者教育を行った群は,行わなかった群より周術期の不安および疼痛が少なかっ た1).
●その一方で,狭義の患者教育のみでは,疼痛緩和,機能改善,QOL 改善に有効であ るとするエビデンスはなかった5, 6).
エビデンス
●人工股関節全置換術(THA)待機患者 201 例のうち,了解の得られた 100 例を無作 為にリウマチ医,整形外科医,麻酔科医,理学療法士による 2 時間の教育を行っ た 52 例と行わなかった 48 例に分け,2 年間の追跡調査を行った.両群間で退院ま での期間や患者満足度には差を認めなかったが,教育を受けた群のほうが術前の 不安,疼痛が有意に少なく,術後の疼痛も有意に少なかった(HF10585,
EV level
Ⅱ).
●下肢変形性関節症(股,膝)252 例を,無作為に 126 例ずつ振り分けてコンピュー タを用いた教育を行った群と行わなかった群で追跡調査した.8 週の追跡調査 で WOMAC スコアは有意に教育群で改善し,NSAIDs 使用量も減少していた
(HF11375,
EV level Ib).
●下肢変形性関節症(股,膝)105 例を,運動プログラムを含めた教育を行った 56 例 と行わなかった 49 例に無作為に振り分けて追跡調査した.6 ヵ月の追跡調査で疼 痛,BMI,QOL が有意に教育群で改善していた(HF11382,EV level Ib).
●下肢変形性関節症(股 64.6%)297 例を,運動プログラムを含めた自己管理教育を 行った 149 例と行わなかった 148 例に無作為に振り分けて追跡調査した.3,21 ヵ 月の追跡調査で股関節の VAS には有意差は認めなかったが,WOMAC スコアは 教育群で改善していた(HF11405,
EV level Ib).
●70 歳未満で関節裂隙が 4 mm 未満,70 歳以上で関節裂隙 3 mm 未満,Harris hip スコアが 60 ~ 95 点の軽度から中等度の症状を有する股関節症患者 109 例に対 する無作為臨床試験を患者教育・運動療法併用群と患者教育単独群で行った.
WOMAC pain,stiffness,physical function スコア,SF-36,Physical Activity Scale for Elderly(PASE)を調査した.16 ヵ月以上のフォローアップで WOMAC pain に有意差はなかったが,WOMAC physical function は運動療法併用群で有意に改 善していた(H2F00391,
EV level Ib).
●股関節症患者 118 例を,患者教育(PE)単独施行群 39 例(以下 PE 群)と PE + manual therapy(MT)施行群 43 例(以下 PE + MT 群),非施行群 36 例[minimal control intervention(以下 MCI 群)]に割り付けした.PE 群は理学療法士が教育プ ログラムに基づいて教育を行った.PE + MT 群には PE に加えて医師と整体師が 週 2 回,6 週間の manual therapy(指圧,筋ストレッチング,関節可動域の拡大な ど)を行った.MCI 群にはホームストレッチング指導のみを行った.介入後 6 週に
おいて,PE 群は MCI 群と有意差はなかったが,PE + MT 群は MCI 群より有意な 疼痛改善を認めた(H2F00392,
EV level Ib).
文 献
1)
HF10585
Giraudet-Le Quintrec JS, Coste J, Vastel L et al:Positive effect of patient education for hip surgery:a randomized trial. Clin Orthop Relat Res 2003;(414):112-20
2)
HF11375
Edworthy SM, Devins GM:Improving medication adherence through patient education distinguishing between appropriate and inappropriate utilization. Patient Education Study Group. J Rheumatol 1999;26 (8):1793-8013)
HF11382
Hopman-Rock M, Westhoff MH:The effects of a health educational and exercise program for older adults with osteoarthritis for the hip or knee. J Rheumatol 2000;27(8):1947-544)
HF11405
Heuts PH, de Bie R, Drietelaar M et al:Self-management in osteoarthritis of hip or knee:a randomized clinical trial in a primary healthcare setting. J Rheumatol 2005;32(3):543-95)
H2F00391
Fernandes L, Storheim K, Sandvik L et al:Efficacy of patient education and supervised exercise vs patient education alone in patients with hip osteoarthritis:a single blind randomized clinical trial. Osteoarthritis Cartilage 2010;18(10):1237-436)