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非動作主

ドキュメント内 博士学位論文(東京外国語大学) (ページ 56-59)

1. 先行研究・本研究の意義、位置づけ

2.4. 有生物

2.4.3. 非動作主

両派生名詞の表す有生物の中には語根動詞の表す動作に対してコントロールを持たない ものが存在する。こうした有生物を本研究では「非動作主」と呼ぶ。非動作主を表す名詞を 両接辞は派生することが確認されているが、分析によれば、 -dor 派生名詞がこうした対象 を表すことは稀である (表1参照)。従って -dor による非動作主の編入は制限されていると 推測される。次節以降では非動作主を表すそれぞれの接辞による派生名詞にはどのような ものがあるのかを提示する。

2.4.3.1. -dor派生名詞の表す非動作主

表1, 2に示した通り、 -dor による派生名詞の総数は -nte による名詞に比べ圧倒的に多

いにもかかわらず、こうした非動作主を表す -dor 名詞の数は同様の -nte 名詞に比べ少な い。しかしながら、そうした -dor 名詞が全く存在しないわけではない。以下の -dor によ る派生名詞は非動作主を表していると考えられる。

(12) morador, sufridor, ensoñador, apreciador, aborrecedor, odiador, habitador, sucesor,

conservador, amador, triunfador, perdedor, prometedor, tenedor, poseedor, soñador, merecedor, complometedor, poblador, favorecedor, consentidor

一見して分かる通り、このクラスの派生名詞は基本的に状態動詞からなる。そしてこのこ

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とは、 -dor による派生名詞が非動作主を表しにくいことと密接に関連していると思われる。

なぜなら「状態」とはその状態にある人や物の意思に関わらず成立するため、状態動詞の主 語相当の対象は状態に対してコントロールを持たない。そしてすでに指摘した通り、-dor は 原則的に、コントロールを持つ主語相当の対象を編入する接辞である。こうした理由から、

-dor による状態動詞の派生は困難であり、そのため、非動作主を表す -dor 名詞の数は限定

的なのだと考えられる。

(12) に挙げた例の他にも、一見状態動詞からなると思われる -dor による派生語は存在す

る。しかしこの場合、表される対象は語根の表す状態に対するコントロールを持つ有生物を 表すことに注意されたい。例えば、典型的には状態動詞と考えられる vivirからなる vividor は単に「生きている人物」ではなく、西和中によれば、「人生を謳歌する人」、「抜け目のな い人」、「要領のいい人」、「人にたかるもの」といった、「生きている」という状態に対する なんらかの意思性、コントロールを持つ人物を表す。同様に、動詞 conocer からなる

conocedor も単に何かを「知っている人物」ではなく、「専門家」、「目利き」、「通」(西和中)

を表す。Laca も vividor, conocedor には一定のコントロールが認められると述べている。

同様に、非対格動詞は実質的には -dorと結びつくことがない。このことも、非対格動詞 の主語が動作に対するコントロールを持たないことと関連していると説明できるだろう。

NGLE などで指摘されているとおり、一見、 -dor が非対格動詞に付加されているように思

われるケースも存在するが、こうした場合においては語根の非能格的再解釈が行われてい る: llegador(「到着する人」ではなく、「ラストスパートをかける人」を表す)。こうした派 生名詞は編入される対象が動作、状態に対してコントロールを持つと考えられることから、

表 2 では非使役的動作主として分類している。

このように、-dor 接辞が状態動詞、非対格動詞に付加されることは稀で、それはこれらの 動詞の主語には状態・動作に対するコントロールが認められないことによると考えられる。

そして更に、vivir のような基本的には状態動詞である動詞が -dor によって派生される際 には活動動詞化されることも示唆的である。 -dor による派生が成立するためには編入され る対象が語根動詞の表す動作に対してコントロールを有していることは重要な条件である ことが推測される。

2.4.3.2. -nte派生名詞の表す非動作主

一方、-dor による派生名詞と比べ、使役的動作主を編入することが著しく少ない -nteに よる派生名詞であるが、非動作主については、-dor に比べ、より自由に編入しているように 思われる。そうした名詞には以下のようなものがある。このことは、状態動詞の主語などの、

低い動作主性の対象と -nte の相性の良さを示すものであると考えられる。

(13) Amante, teniente, constituyente, residiente, habitante, hablante, integrante, exponente, oyente, ignorante, viviente, sobreviviente, creyente, participante, pretendente, superviviente,

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agonizante, penitiente, intolerante, ocupante, intrigante, pudiente, desobediente 16 , principiante, gestante, concurrente, vidente, conviviente, habiente, aspirante, imponente, reemplazante, contratante, semejante, interviniente

2.4.3.3. -nteの派生名詞の表す内項相当の対象

また、先行研究でも指摘されているように、-nte は -dor とは異なり内項相当の対象を編 入することも確認した。内項相当の対象とは、非対格自動詞や再帰動詞の主語に相当する対 象である。数は少ないものの、今回の調査では、そうした動詞を語根とし、かつ、有生の内 項相当の対象を表す -nte 名詞を七種、確認している。

(15) Descendente, ascendente, cesante, mutante, convaleciente, maleante, sudante

-dor 派生名詞にはない、こうした内項相当の対象を表す-nte 名詞は、この接辞が -dor に 比べ、低い動作主性指向の接辞であることを示唆している。

2.4.4. ―有生物を編入する接辞としての -dor と -nte ― まとめ

以上、有生物を表す両接辞による派生名詞を分析した。一連の観察、分析を通じてまずわ かったことは、両者の差異は Laca (1993) の主張とは異なり、単一のコントロールという素 性の有無によってのみ説明されるものではないという点である。すでに示した通り、 -nte による派生名詞の中には動作主を表すものが少なからずある。

そこで本研究では動作に対するコントロールを持つ有生物、本稿でいうところの動作主 をさらに、語根動詞の使役性の有無でさらに分類した。その結果、表 2 に示した通り、両 者の意味的な差異、すなわち、外項の編入のパターンの差異が浮き彫りになった。

まず、-dor が典型的に編入する一方で、-nte が極めて編入しづらい有生物は使役的動作 主という意味タイプに該当することも分かった。-nte の表す有生物の中にも、本研究におけ る基準のもとでは、使役的動作主として分類されるものがなかったわけではないが、その中 には解釈上の透明性が乏しいものや、使用頻度が極めて低いものがあり提示した分析結果 が示す以上に -nte による使役的動作主の編入は稀である。この点から、-nte は使役的動作 主の編入を制限された接辞であると考えられる。

次に、-nte が特徴的に編入する対象として、非動作主にあたる有生物、または内項相当の

有生物が挙げられる。これらの意味タイプの特徴はその動作主性の低さにある。そして、す でに示した通り、-dor がこうした対象を編入することは稀である。この事実も、両接辞を意 味的に区別するものと考えられる。

また、分析からは両者の類似点も明らかになった。両接辞は非使役的動作主であれば共に 生産的に編入するようである。

16 語根となる動詞は desobedecer であり、形態論的には不規則な派生である。

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