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使役的動作主・道具 VS. 原因

ドキュメント内 博士学位論文(東京外国語大学) (ページ 71-74)

1. 先行研究・本研究の意義、位置づけ

2.7. 同一動詞を語根とする派生名詞のペア

2.7.1. 意味の差の観察された同語根ペア

2.7.1.2. 使役的動作主・道具 VS. 原因

また、同じ語彙的使役動詞を語根とする両接辞による派生名詞のペアも確認されている。

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そうしたペアの多くでは、-dor 派生名詞が使役的動作主・道具を、-nte 派生名詞が原因を表 すという規則的な意味の対比が観察された。

例えば動詞 excitar には、西和中によると、「感覚・組織などを刺激する」、「興奮させる」、 そして電気工学における「励磁する」という語義がある。そして、この excitar から派生し た名詞 excitador には、本研究で使用した二種類の辞書は「励磁機」という意味があるとし ている24。この励磁機は動作主が意図して、コイルなどに磁気を帯びせるために使用する装 置であることから、本論における分類では使役的道具となるだろう。一方、同じくexcitar お よび -nte 接辞からなる excitante は、「興奮剤」、「刺激物」を表す際に用いられる。これら の広い意味合いでの物質が「励磁機」と異なるのは、動作主の関与なく、対象を興奮させ、

刺激する点である。以上の点から、excitante の表す対象は道具ではなく、原因に該当するも のであると考えられる。このように、両接辞は、外項に動作主・道具および原因を外項にと る語彙的使役動詞に付加された際には、-dor が動作に対するコントロールを持つもの、つ まり動作主と道具を、-nte はコントロールをもたない原因を編入する。この「分担関係」が みられるのは excitador/exticante のペアだけではない。

「物理的に刺す」という動作や「舌を刺すような痛み」のような比喩的な意味での「刺す」

までを広く表す動詞 picar にも同種の分担がみられる。Picador の語義としては「闘牛にお けるピカドール」、「つるはしを使う鉱夫」を西和中、DRAE はともに記載している。いずれ も意図的に「刺す」という行為を行っていることから使役的動作主と考えられるだろう。ま た、picador には「包丁」、そして女性形 picadora には「肉挽き機」という使役的道具を表 すケースもあるとされている。一方で、picante は唐辛子のような「刺激物全般」を指すと される。動作主の関与なく、単独で、目的語相当の対象に刺激を与えていることから、原因 といえる。

「冷却・冷蔵する」という動作を表す refrigerador/refrigerante の間にも同様の分担が観察 される。Refrigerador は「冷却装置」、「冷蔵庫」といった道具相当の対象を表す一方で、

refrigerante は「冷却材」という典型的な原因相当の対象を表す。このほかにも、refrigerante

には「蒸留器の冷却槽」という一見、道具のように思われる意味もある。しかしながら、冷 却槽とはつまるところ、蒸留器に組み込まれている冷水を貯めた容器である。構造上、冷却 槽とは、動作主が蒸気を冷却するために主体的に使用するものではなく、それ自体で、冷却 効果を果たす。従って、本論における分類基準によれば、原因に該当するものである。こう した周辺的なケースも仮説から説明可能であり、その妥当性を支えている。

先にみた secador/secante のペアの間にも、同種の分布がやはりみられる。上述の通り、

secador は「ドライヤー」や「乾燥機」という使役的機械を表すものである。そして、secante

には先に見た通り、乾性油のような、再帰動詞から派生したと思われる対象を表す用法があ

24 西和中にのみ「興奮した人」という再帰形、excitarse から派生したと思われる語義が掲載されている。

しかしながら、excitador がこの意味で用いられている実例は確認できたなかったため本論の分析対象から 捨象した。

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る一方で、「吸い取り紙」という原因相当の対象を表す。このように、ここでも -dor は道具、

-nte には原因という対比が見られる。

「溶かす」、「融合させる」という動作を表す fundir からなる fundidor/fundente のペア内 の意味の差異もこれまでにみた意味の分布に従うものである。すなわち、fundidor は「製錬 工」や「鋳造者」といった意図的に fundir という動作を行う使役的動作主を、fundenteはそ うした動作主を表すことはなく「溶剤」という原因相当の対象を表すものである。

動詞 purgar は「排出する」という動作を表すものであり、-dor による派生名詞 purgador は「排水装置」という道具を表す。その一方で、-nte による purgante は「下剤」という原 因相当の対象を表す。

「スープなどのあくをとる」、および、「泡立てる」という動作を表す espumar からなる

espumador/espumante にも同種の対立が見られる。まず、espumador であるが、これは専ら

「あくをとる人」という意味合いで用いられると両辞書にはある25。つまり、-dor は動詞

espumar に付加された際には使役的動作主を編入する。一方の espumante は「泡立て剤」と

いう原因相当の対象を表す。

動詞 fulminar には「電撃する」、「感電死させる」、「爆発させる」という意味がある。

Fulminador はこの動詞に対するコントロールを持つ外項を編入し、「怒鳴りつける人物」、

「脅しつける人物」という動作主を表す。また、テレビゲームにおいて「電撃を発し、敵を 感電させる剣」を表すために、 fulminadorが用いられていることを確認している26。こちら は本論における分類基準によれば、使役的道具となるだろう。-nte による fulminante は「雷 管」や「起爆薬」という原因相当の対象を編入している。

以上、外項に動作に対するコントロールを持った対象、およびコントロールを持たない対 象の両方をとりうる語彙的使役動詞によるペアをここまでに分析した。多くの両接辞によ る派生名詞がそうであるように、ここで見た派生名詞の多くも多義的であった。しかしなが ら、その意味は自由に、不規則に分布しているのではなく、-dor であれば使役的動作主・道 具 (+CON, +CAU) を、-nte であれば原因 (-CON, +CAU) を優先的に編入するというルール があると考えられ、このルールに沿う形で派生名詞の意味は決定されていると考えられる。

そして、語根動詞は潜在的に、動作主も原因も問題なく外項とすることができるのにもか かわらず、-dor は動作主・道具を、-nte は原因を編入しているという事実からはやはり、両 接辞の外項の編入を左右する要因は CON と CAU という二種類の素性の値の組み合わせ とする本稿の仮説を支持するものでもある。

25 辞書には記載がないものの、昨今ではespumadorは泡だて器やプロテインスキマー(水槽に微小な泡を 発生させる装置)という使役的道具を表すために用いられることをコーパスから確認している。Para el que no haya visto nunca un sump este es uno de los muchos diseños que hay para acuarios marinos, lo que aparece en el número 18 es un skimmer o espumador de proteínas y en acuarios de agua dulce que yo sepa no se usa. (es TenTen)

26 Cf. https://us.battle.net/d3/es/item/fulminator

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