4. 両接辞による派生形容詞
4.3. 分析
4.3.2. 共通するコロケーション
Word Sketch Differences はこれまでに見てきたような、問題となる二種類の形容詞に固有
のコロケーションを検出するだけでなく、両者が共に一定の強度で結びついている語を検 出する。本章での目的に照らし合わせていえば、両形容詞が共に一定以上の頻度で修飾する 名詞も検出される。本章における分析では、そうしたタイプの名詞も確認された。本節では そうした両タイプの形容詞と一定の強度で結びついている名詞を紹介し、それがどのよう な意味タイプの名詞であるのかを紹介していく。
4.3.2.1. 原因
今回分析したペアの分析において、最も頻繁に観察された「両タイプの形容詞と一定の強 度で結びついている名詞」の大多数は語根の動詞にとって原因に相当する対象を表す名詞 であった。具体的には、両タイプの形容詞と一定の強度で結びついている 85 の名詞が得ら れ、その内の 60 の名詞が、語根動詞の表す動詞にとっての原因に相当する対象を表すもの であった。
cautivador/cautivante のペアには、特に、両タイプの形容詞によって修飾される名詞が多く
観察された。まずは以下の表を参照されたい。
149 表10. Cautivadorとcautivanteの修飾パターン
表内の白のセクション内の名詞は両形容詞によって修飾されるものである。セクション 内には十種類の名詞が挙げられているが、いずれもcautivarという動詞の原因に相当するも のである:melodía ‘メロディー’ / -dor: 4.0, -nte: 2.9, encanto ‘魅力、魔法’ / -dor:3.2, -nte:2.2, mirada ‘視線’/ dor: 3.5, nte:2.6, fragancia ‘香り’ /dor: 4.6, nte: 3.9, paisaje ‘景色’/ dor:3.1, -nte: 2.4, perfume ‘香水’/ -dor: 3.3, --nte:2.7, aroma ‘アロマ’/-dor: 3.4, --nte: 3.1, belleza ‘美貌’/ -dor:
3.6, -nte: 3.3, frescura ‘新鮮さ’/ -dor: 3.4, -nte: 3.5, prosa ‘散文’/-dor: 3.4, -nte: 4.0。
また、avasallador/avasallanteのペアにも、十種類の両形容詞によって修飾される名詞が検 出された。表11が当該ペアの分析結果である。
150 表11. avasallador とavasallanteの修飾パターン
そしてこのペアにおいても白のセクション内の名詞は andar を除き、いずれも原因相当 の対象を表すものである: pasión ‘情熱’, carisma ‘カリスマ’, triunfo ‘栄光’, poderío ‘権力’, prepotencia ‘権力の乱用’, irrupción ‘突入、急襲’, personalidad ‘人格’, modernidad ‘近代性’, globalización ‘グローバル化’。
このように、「両派性形容詞によって修飾される名詞」の多くは原因に相当する対象を表 すものであった。前章までの分析で、両接辞は派生名詞を派生する際に原因相当の対象を編 入することが明らかとなり、本節の分析の結果も、両接辞による派生形容詞は、それぞれ原 因相当の対象を表す名詞と一定の強さで結びついていることを示している。両接辞は本質 的に、原因相当の主語を編入、修飾しうるものであり、この点こそが両接辞の意味論的な共 通点であると考えられる。
表 12 内のペアにおいても、両形式の派生形容詞が同一の、原因相当の対象を表す名詞を 修飾することが確認されている。
151 表12. 両方の派生形容詞によって修飾される名詞
4.3.2.2. 非主語的用法
前節でみたように、両タイプの派生形容詞によって修飾される名詞の多くは語根動詞の 表す動作の原因に相当する対象を表す名詞であった (60/85)。
そして原因を表す名詞の次に多かったのが、語根動詞の主語に相当しない、抽象的な対象 を表す名詞である。次章で述べる通り、両派生形容詞が修飾する名詞は必ずしも、語根動詞 の主語に相当するわけではない。こうした名詞の修飾を本研究では、両派生形容詞の非主語 的用法として扱う。
例えば、ペア tranquilizador/tranquilizante における両形容詞は名詞 efecto を共に修飾する。
そしてこれらの efecto tranquilizador, efecto tranquilizante という名詞句における efecto は派 生形容詞の語根 tranquilizar の主語に該当するものではない ( ??un efecto tranquiliza algo)。
本章での目的はあくまでも、名詞派生接辞としての -dor, -nte の編入の傾向と、両接辞によ る派生形容詞の修飾パターンの相違を探ることであり、このような、両派生形容詞が名詞を 非主語的用法で修飾しているようなケースは主語的用法におけるものと同列に扱われるべ きではないだろう。こうした非主語的用法における両派生形容詞は次章以降で詳しく扱う。
4. 節では分析対象とした派生形容詞のペアにおいて、両形容詞から修飾されうる名詞を 紹介し、そうした名詞は基本的に、語根動詞の原因にあたる対象を表す名詞であることを指 摘した。この事実は、両接辞による派生形容詞は、原因相当の対象を表す名詞を問題なく修 飾できること、つまり、この点が両者の類似点であることを示唆している。
両接辞は原因相当の主語を排除しないという共通点は、両接辞による派生名詞の共通点 としても指摘されたものである。従って、本節で紹介した、両タイプの形容詞は原因相当の 対象を表す名詞を修飾するという事実もまた、前章までに提示してきた記述を裏付けるも のである。