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同義的な同一語根ペア

ドキュメント内 博士学位論文(東京外国語大学) (ページ 76-80)

1. 先行研究・本研究の意義、位置づけ

2.7. 同一動詞を語根とする派生名詞のペア

2.7.2. 同義的な同一語根ペア

本研究で分析を実施したペアの中には、二種類の派生名詞が少なくとも本研究の分類基 準において同義的であると判断されたケースが少なからず存在した。本節ではそうしたペ アを詳しくみながら、その同義性に体系的な説明を与えることができるのかを検討する。

2.7.2.1. 両派生名詞が非使役的動作主を表すケース

前節では意味の違いの観察される同語根ペアを紹介した。そして、そうしたペアの語根動 詞の多くは使役的なものであった。

本節ではそれとは対称的な、少なくとも本研究における分類上は同義的であるペアを紹 介する。こうしたペアにおける語根動詞の多くは、非使役的な動詞である。具体的には 49 の同義的と考えられるペアのうち、 29 が非使役的動作主を表す派生名詞からなるもので あった。そして両者が同義的であるという点に関連していると思われるが、こうした最小対 を構成する二種類の派生名詞の使用頻度には大きな差があることは少なくない。この事実 は両者が高度に同義的であることを示唆するものでもあると考える。つまり、その同義性か らどちらか片方の派生名詞が余剰であると判断され、使用頻度が限定されるものと推測さ れる。具体的には以下のペアを参照されたい。括弧内の数字は、コーパス es TenTen におけ る両派生名詞の出現頻度を表す。全体的に出現頻度が高いため、単位は千とした。

cantor/cantante (共に「歌う人」を表す31 29/365)

visitador/visitante (共に「訪問者」、前者のみ「巡察官・視察官」を表す 16/554)

ayudador/ayudante (共に「助ける人、助手」を表す。前者のみ「牧夫頭の助手」を、後者 のみ軍隊の「副官」を表す。 0.3/74)

30 IT 用語は特に英語からの借用がおこりやすい。Browser, server は共に -dor と平行関係にある -er が使

用されていることも無関係ではないだろう。

31 ただし、cantor は特に民謡を歌う人物を表す。

76 reidor/riente (共に「笑う人」を表す 0.1 VS 0.3)

informador/informante (共に「情報を提供する人物」を表す。前者のみ、「新聞記者」を表

す 15/42)

gobernador/gobernante (共に「統治者」を表す 1373/202) atacador/atacante (共に「攻撃をする人物」を表す 0.5 / 62) votador/votante (共に「投票者」を表す 0.02/2000)

combatidor/combatiente (共に「戦う人物」を表す 0.01/64) practiacdor/practicante (共に「実践する人物」を表す 0.01/27) denunciador/denunciante (共に「告発者」を表す 0.4/44) contendedor/contendiente (共に「係争者」を表す 0.09/25) demandador/demandante (共に「原告」を表す 0.01/99) viajador/viajante (共に「旅する人物」を表す 0.04/6) denigrador/denigrante (共に「侮辱する人物」を表す 0.1/10) asaltador/asaltante (共に「攻撃する人物」を表す 0.1/34) danzador/danzante (共に「踊る人物」を表す 0.02/0.5) solicitador/solicitante (共に「申請者」を表す 0.02/115)

coadyuvador/coadyuvante (共に「寄与する人物・貢献する人物」を表す 0.005/5)

postulador/postulante (共に「集金をする人物32」を表す 1/1) querellador/querellante (共に「呻く人物」を表す 0.005/18)

comunicador/comunicante (共に「コミュニケーションをとる人」を表す 71/1)

rumiador/rumiante (共に「反芻する人物、動物」を表す 0.01/7)

anunciador/anunciante (共に「アナウンスをする人物」を表す 2/46)

consultor/consultante (共に「相談に乗る人物」を表す 200/0.6)

上記の動詞は基本的に、動作に対するコントロールを持ち、対象に対する使役性を持たな い有生物を主語とする。そして両接辞はともにこうした動詞に一定の頻度で付加され、先に 述べたような外項相当の対象、つまり、非使役的動作主を表す名詞を形成する。この事実は、

先に提案した両接辞の外項編入における制約と矛盾するものではない。先に紹介した制約 を再掲する。

-dorによる外項の編入

-dor は使役性とコントロールという素性のうち少なくともどちらかが陽性である外項 を編入する

a. 両素性が + である外項(道具・使役的動作主)を自由に編入

32 一見「使役的動作主」のようであるが、語根は通常、自動詞として用いられるため、非語彙的使役動詞 として分類した。

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b. 片方の素性のみが + である外項(非使役的動作主・非使役的道具・原因)を編入 c. 両素性が - である外項を編入しづらい(非動作主・内項相当の対象)

-nteによる外項の編入

-nteは使役性とコントロールという両素性について + である外項を編入しない a. 使役的動作主・使役的道具(ともに+CON, +CAU)を編入しない

b. 片方の素性のみが + である外項(非使役的動作主・非使役的道具・原因)

を編入

c. 両素性が陰性である外項を編入する(非動作主・内項相当の対象)

非使役的動作主は素性のうえでは +CON, -CAU として分析されるものであり、いずれの 制約にも触れない。換言すれば、+CON, -CAU という意味的価値を持つ非使役的動作主の 編入は両接辞の意味上の共通点とすることができるだろう。このように、仮説からは両接辞 は共に非使役的動作主を編入することが予測されており、実際に同種の対象を表すペアが 少なからず確認された。従って先に紹介した 29 のペアは仮説の妥当性を補強するものと いえる。

2.7.2.2. 両派生名詞が原因を表すケース

上述の仮説によれば、非使役的動作主 (+CON, -CAU)のほかに、原因(-CON, +CAU)

にあたる対象も、両接辞はともに編入しうることになる。そして、本調査では実際に、同一 の動詞を語根とし、ともに原因相当の対象を表す両接辞による派生名詞のペアを確認して いる。

aglutinador/aglutinante(共に「接着剤」を表す 0.7/5)

relajador/relajante(共に「リラックスさせるもの」を表す 0.06/4)

causador/causante(共に「なにかを引き起こす人物、物」を表す 0.02/55)

atenuador/atenuante(共に「軽減させるもの」を表す 1/9)

こうしたペアの同義性もまた、すでに提示した仮説により説明可能であり、仮説の妥当性 を支持するものといえるだろう。

また、いずれのペアにおいても -nte による派生名詞の方が、圧倒的に出現頻度が高いこ とも興味深い。仮説によれば、 -nte にとっては原因相当の対象を編入することがその典型 的な機能であるが、これは -dor にとっては非典型的なものである。この使用頻度の差はこ の両接辞間のこうした差が反映されたものであると考えられる。

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2.7.2.3. 両派生名詞が非動作主を表すケース

上述の仮説からは -dor は動作・状態に対するコントロール、および使役性を持たない経 験者などの非動作主を表さないことが予測されるが、実際には数種類、そうした -dor 名詞 があることは表3で紹介したとおりである。

しかしながら、そうした -dor 名詞の多くには、同一動詞を語根とする -nte による競合 する派生名詞が存在する(例 sufridor/sufriente)。そしてこうした最小対は共に、非動作主を 表す同義的なものであるということができるだろう。こうしたペアには以下のようなもの がある。

oidor/oyente (共に「聞く人」を表す 3/48)

habitador/habitante (共に「住む人」を表す 0.09/883) sufridor/sufriente (共に「苦しむ人」を表す 1/0.8)

このように、oírとhabitar を語根とするペアにおいては圧倒的に、-nte 接辞による派生名 詞の方が、使用頻度が高い。Oidor については、古語で「裁判官」、「聴訴官」という極めて 固有性の高い意味合いでも用いられることがあり、こうした用例を除けば、「聞く人」とい う透明性の高い用例の数はさらに減少し、-nte 名詞との差が大きくなる。Sufrirのペアにつ いては -dor の方がやや生起数が多いが、-nte 名詞の生起数との差は大きなものではない。

従って、こうしたペアにおける生起数の差からいっても、-dor が非動作主を編入するの は稀なことであり、実際に非動作主を表す-dor 名詞は例外として考えられるだろう。

2.7.2.4. 両派生名詞が使役的動作主・道具を表すケース

先述の通り、-nte による使役的動作主・道具の編入は稀であるが、そうした対象を表す

-nte による派生名詞は存在しないわけではない。そのような -nte 名詞と、同じ動詞を語根

とし、同様の対象を表す -dor 名詞という同義的ペアも確認されている。

trinchador/trinchante(共に「肉切り包丁」を表す 0.06/0.06)

delineador/delineante (共に「デザイナー)を表す 3/1)

2.7.2.5. まとめ

2.7.2. 節では、同義的な同語根ペアを分析した。そうしたペアは 49 種類確認されたが、

そのうちの 29 種類は、両派生名詞が共に、非使役的動作主(+CON, -CAU)を表すという ものであった。この事実は、両接辞が共に、非使役的動作主を編入することのできる接辞で あることを示す。このタイプの対象の編入こそが両接辞の共通点であり、また、こうした同 義的なペアは仮説から十分に説明される。

また、今回分析したペアの中には両派生名詞が共に原因を表しているペアも確認されて

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いる。こうしたペアが存在することも仮説から予測され、同様に仮説を補強するものである。

ドキュメント内 博士学位論文(東京外国語大学) (ページ 76-80)