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無生物

ドキュメント内 博士学位論文(東京外国語大学) (ページ 59-65)

1. 先行研究・本研究の意義、位置づけ

2.5. 無生物

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59 この役割について以下のように述べている。

[...] instrumento en sentido estricto: designan todo tipo de aparatos, utensillos, herramientas, máquinas o pares de tales artefactos según la función que éstos cumplen (en este sentido son la contraparte inanimada de los sustantivos personales clasificantes).

(Laca 1993: 197)

このように通常、なんらかの目的に使用されるために作られた人造物が道具とみなされ る。道具は無生物であるが、道具が使用され、動作が実行される際には常に動作主のコント ロールが介在するという点は本論を進めていくうえで極めて重要である。この介在性につ いて、 Luján (2010) は以下のように、道具と動作に対するコントロールの関係について述 べている。

As opposed to Agents, Instruments are prototypically inanimates and can be controlled. This second trait seems to be more salient in Instruments than the lack of animacy, given that inanimate entities that cannot be subject to control rarely show up as Instruments.

(Luján 2010: 164)

Laca (1993) も明言こそしていないものの、道具とコントロールを併せて考える立場をと

っていたと考えられる。同著者は、-dor を高い頻度で道具を編入する接辞であることを指 摘し、最終的に -dor をコントロールの介在するプロセスにある対象を編入する接辞である としている。

本稿でも、動作主のコントロールは道具という意味役割を特徴づける重要な要素である と考え、使役性を持ち動作主に意図的に使用される人造物を道具として扱う。

2.5.1.1. -dor派生名詞の表す道具

表 3 を一見して分かる通り、-dor 派生名詞の表す無生物の大多数は、道具に該当する対 象を表すものであった。例えば、以下のようなものがある。

(14) Marcador, vendedor, mostrador, acelerador, servidor, contador, indicador, grabador, generador, regulador, borrador, portador, ventilador, contenedor, amplificador, tenedor, cargador, refrigerador, computador, procesador, despertador, numerador, condensador, elevador, anotador, conmutador, transformador, controlador, obturador, distribuidor, buscador, abridor, transportador, perturbador, surtidor, detonador, disparador, calentador, etc.

先述の通り、道具は使役性とコントロールを有することから、使役的動作主に極めて類似

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している(有生性によってのみ対立している)。-dorが道具を編入する際に特に制約を受け ないのは、この意味タイプに属する対象が、高い動作主性を有することによると考えられる。

従って、-dor 名詞の表す無生物の大多数が道具であるという事実はやはり -dor が高い動作

主性と結びついた接辞であることを示唆するものであるだろう。

2.5.1.2. -nte派生名詞の表す道具

-dor による派生名詞が活発に道具を編入するのとは対照的に、-nte 名詞が道具を編入す ることは極めて稀である。今回の分類法に従えば、検討した 117 の -nte 派生名詞のうち、

以下の四例のみが道具を編入する -nte 名詞に該当する。

(15) cortante, tajante, trinchante, tirante

さらに、これらの道具を表す-nte 派生名詞の解釈上の透明性については、疑問が残る。

Cortante, tajante, trinchante は先の -nte による使役的動作主を分析していた時にも問題にな った派生名詞である。これらの派生名詞の表す有生物は「切る人」全般ではなく、「肉屋」

に限定されていたのと同様に、これらの表す道具は「切る道具」全般ではなく、「肉切り包 丁」に限定される18。Google Books によればこれらの派生名詞は16世紀から用いられてお り、現代のスペイン語において、-nte が生産的に道具を編入するものであることを示すもの ではない。道具という範疇は先に紹介した使役的動作主に意味論上、類似するものであるが、

こうした対象を -nte が使役的動作主の場合同様、原則的に編入しないという事実は強調し ておきたい。この事実もまた、-nte 接辞が高い動作主性を持つ対象を拒絶するものであるこ とを示唆している。

2.5.2. 原因

両接辞による派生名詞の中には、意味役割でいえば原因相当の対象を表すものがある。表 3 に示したように、両接辞による派生名詞の中には共に一定数、原因を表すものがある。こ れもまた両接辞間の意味的類似点であると考えられる。

原因とは多くの場合無生物19であり、目的語相当の対象になんらかの変化を生じさせるも のである。この点において、道具と原因は意味的に類似しているが、変化を生じさせるプロ セスにおける動作主の介入の有無、つまり動作に対するコントロールの有無において異な っている。原因はそれ自体で、動作主の意図的な介入なしに変化を生じさせる無生物の持つ 意味役割である。

18 西和中には「石切り用ハンマー」「サイドテーブル」という語義の記載がある。

19 原因とは、非意図的に、対象になんらかの変化を生じさせるものを指す。従って、文脈次第で、有生物 も原因として解釈されうる: Este hombre rompió el vaso accidentalmente. しかしながら、今回調査をした派生 名詞のなかで、辞書によって有生物でありかつ、非意図的に変化を生じさせるものを表すと定義されてい たものはなかった。Laca (1993) もまた、無生の CAUSA のみを扱っており、有生物でありかつ原因にあた る対象を扱っていない。

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例えばLaca (1993) が道具という意味役割をinstrumento en sentido estrictoとしているのも、

道具と原因を明確に区別するためである。また、同著者は原因にあたる化学物質などを -dor 名詞が表すことは稀であるとしている。

De los nombres de instrumento en sentido estricto conviene distinguir aquellos sustantivos que no son designaciones de artefactos según la función, sino que se basan en la capacidad de producir un efecto determinado, y designan agentes químicos (blanqueador, catalizador, fijador, reforzador). Este tipo, que produce sustantivos no individuados (nombre de masa o continuos), apenas está representado dentro de los derivados en -dor.

(Laca 1993: 196)

原因と道具の違いは動作へのコントロールの有無、つまり動作主の介入の有無の違いで ある。これにより、以下のような前置詞との共起の容認性に関する差異が原因と道具との間 には観察される。

(16) Los ríos se contaminan a causa de/por/con el mercurio. 原因

(17) Las botellas de esta marca se abren #a causa de/#por/con el abrelatas. 道具

道具とは動作主に行使されることで変化を生じさせる物である以上、con との共起は自然 である一方、a causa de やpor といった句との共起は不自然である。この共起が認められる のは、道具が(なんらかのアクシデントにより)動作主に意図に反してなんらかの変化を生 じさせた時、つまり、原因として解釈される場合のみである。一方、原因相当の対象は、自 発的になんらかの変化を引き起こすものであり、そのことから、porやa causa deといった 語句と共起する。このように、道具と原因の使用可能な文脈は必ずしも同一ではない、従っ て、両者はそれぞれ異なる意味役割であるといえる。

2.5.2.1. -dor派生名詞の表す原因

原因を表す -dor 派生名詞には以下のものがある。このように -dor の表す無生物は道具 だけでなく原因に該当するものも少なからず存在する。

(18) Inhibidor, revelador, catalizador, trazador, fijador, aglutinador, bronceador, acondiconador, preservador, poulidor, purgador, endurecedor, blanqueador, potenciador, reducidor, organizador, encantador, acogedor, multiplicador, confortador, conturbador, intensificador, modificador, cuantificador, actualizador, especificador, aceptor, conector, etc.

2.5.2.2. -nte派生名詞の表す原因

原因を表す -nte 名詞には以下のものがある。これまでみてきたとおり、-nte の生産性は

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-dor よりも低いが、原因を表す -nte 名詞の数は原因を表す -dor 名詞に比べて多い。この ことから、-nte は原因という意味役割と密接に結びついた接辞であるといえるだろう。

(19) Estimulante, disolvente, excitante, picante, absorbente, aislante, fulminante, refrigerante, reconformante, contaminante, aglutinante, secante, sedante, colorante, fertilizante, detergente, fundiente, repelente, relajante, disinfectante, purgante, reflectante, desodorante, nutriente, edulcorante, coagulante, espumante, congelante, desecante, tranquilizante, reconstituyente, diluyente, suavizante, mordiente, conservante, reactante, confortante, adulterante, etc.

2.5.3. その他

両派生名詞の表す無生物の大多数は道具と原因のいずれかに分類されるが、先にふれた とおり、いずれにも分類不可能なものも存在する。以下ではそうした対象について論じる。

2.5.3.1. 非使役的道具

ここまでは先行研究に従い、両タイプの派生名詞の表す無生物を道具と原因というカテ ゴリーに分け、両者の差異を探るという方向性をとった。道具と原因はいずれも、目的語相 当の対象になんらかの変化を与えるものであるが、両者は語根動詞の表す動作の達成のた めに、動作主のコントロールを必要とするか否かという点で対立するものである。

しかし、実際に両派生名詞の表す無生物には、数は多くないものの、先に見た道具のよう に人造物であり、日常的な意味合いでの道具に該当するものの使役性を持たないものが存 在する。こうした性質から、これらの道具は「非使役的道具」とすることができるだろう。

つまり、道具という範疇も、動作主と同様、使役性の有無により二種類の下位範疇に分類可 能である。こうした非使役的道具は表3における段階では「その他」に分類してある。

具体的には、-dor 名詞には12、-nte 名詞には六種類、非使役的道具を表すものを確認し ている。特に興味深いのは、道具とは Laca の述べる通り、基本的に使役性を持つものであ ると考えられ、したがって、非使役的道具は使役的道具に比べ、圧倒的にその数が少ない。

しかしそれにもかかわらず、非使役的道具を表す -nte 名詞の種類は、使役的な道具を表す ものに比べて多い。この点は -nte 接辞の編入規則を記述するにあたっての有力な手掛かり となるように思われる。両派生名詞の表す非使役的道具には以下のものがある。

(20) -dor: servidor, contestador, mecedor, volador, bañador, saltador, navegador, flotador, respirador, zumbador, andador, ascensor

(21) -nte: flotante, batiente, pesante, basculante, acompañante, interrogante

また、(20), (21) の名詞の表す道具は使役性を持たない、いわば非典型例であることから

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先行研究で取り上げられることがなかった。本研究の採用したデータの収集法は、こうした ケースも漏らさずに収集することを可能とする。

2.5.3.2. 内項相当の対象

先述の通り、-dor とは異なり、-nte 接辞は非対格動詞や再帰動詞に付加され、名詞、形容 詞を派生する。この時、-nte はその主語を編入するものであるが、非対格自動詞の主語は項 構造上、内項にあたるものであり、結果として、非対格自動詞から派生した -nte 名詞の表 す対象は語根動詞の内項相当のものとなる。今回の調査では以下の36種類の派生名詞を確 認した。これらの名詞も表3では「その他」とした。

(22) Corriente, montante, asonante, rompientes (複数形で砕ける波), discordante, constante,

sudante, creciente, brillante, secante, equivalente, consiguente, referente, resultante, antecedente, entrante, variante, resultante, cambiante, saliente, vibrante, emergente, colgante, delirante, sonante, excedente, afluyente, faltante, durmiente (横木), silbante, fulorecente, concertante, cuadrante, menguante

2.5.3.3. 場所

両派生名詞は語根動詞の動作に関連する場所を表すことがあることはこれまでに、様々 な先行研究で指摘されている。そして、同様に指摘されているように、両接辞の場所を表す 接辞としての生産性は現代では極めて限定的である。場所を表す両接辞による派生名詞に は以下のものに限られる。

(23) -dor: corridor, comedor, orador, mirador, recibidor, parador, asador (焼肉屋), vestidor, probador, apagador, cenador, graneador, partidor (m. Sitio donde se hace esta división o repartimiento.)

(24) -nte: restaurante, batiente, rompientes

また、上記の名詞には意味の透明性が極めて低いものが多い。例えば、asador は何かを焼 く場所全般ではなく、焼いた肉を提供するレストラン、食堂に限られる。同様に、 restaurante も「休む場所、修復する場所」全般ではなく食事をする場所に限られる。

以上の理由から、両接辞は共に現代においては場所を表す名詞を派生する機能を実質的 に失っていると判断し、以後では分析の対象として扱わない。

2.5.4. ―無生物を表す接辞としての -dor, -nte ― まとめ

本節では無生物を表す両接辞による派生名詞を分析し、先行研究の妥当性を確認した。分

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