第 3 章 ゲティア問題と Red Barn 問題の多領域様相論理による分析 87
3.2 Red Barn 問題
3.2.2 MSHL によるモデル化と形式化 (1)
これに対しわれわれはまず、Red Barn問題の構造を正確に記述するクリプキネット ワークモデルを、次によって与える。
図3.7
上の図で、Perceptsは私の可能な知覚表象の集合、Objectsは私の知覚表象に対する可 能な対象の集合を表すものとする。Formは形態の知覚表象の集合、Colorは色の知覚表 象の集合を表すものとする。Percepts 中の私の知覚表象の一つ一つは、一般にはこれら 形態、色、あるいは他の諸々の知覚カテゴリーに属する表象の組から成る、これらの諸要 素の「総合」と考えてよい。ここでは、私の現実の知覚表象xを、たとえばx =⟨xf, xc⟩ として、形態の表象xf と色の表象xc の対として考えれば十分である。すると、formは 知覚表象Perceptsから形態Formへの射影、colorは知覚表象Perceptsから色Colorへ の射影、と考えればよい。すなわち、たとえば form(x) = form(⟨xf, xc⟩) = xf であり、
color(x) = color(⟨xf, xc⟩) = xc である。このとき、形態Form に関する命題b′ と、色 Colorに関する命題r′ を、
b′ :=納屋の形(の表象)である r′ :=赤い色(の表象)である
とすれば、
x|= (form)b′∧(color)r′
は、「私の現実の知覚表象xは、形態は納屋の形であり、色は赤い」を表す。この知覚表 象x に対して、Red Barn問題のシナリオでは現実のものとならなかったにもかかわら ず、十分ありえた私の可能な知覚表象が、x′ =⟨x′f, x′c⟩であり、
x′ |= (form)b′∧(color)¬r′
と設定できる。つまりこれは、「私の可能な知覚表象x′ は、形態は納屋の形であるが、色 は赤くない」を表している。
他方、対象Objectsの側では、少なくとも可能な対象z1, z2, z3 が存在すると考えてお くことができる。z1, z2 は本物の赤い納屋、z3 は赤くない偽物の納屋、つまり赤くない 納屋のハリボテである。私の現実の知覚表象 xはシナリオ上「赤い納屋」の表象であり、
偽物の「赤い納屋」は存在しないことから、私の現実の知覚表象 xと結びつきうる対象 としては本物の赤い納屋 z1, z2 のみが考えられ、偽物の納屋z3 と結びつくことは可能性 として排除されている。したがって、私の現実の表象xと可能な対象との組み合わせは、
y1 = ⟨x, z1⟩および y2 = ⟨x, z2⟩である。対して、「赤くない納屋」の私の可能な表象x′ とそれと結びつく可能な対象との組み合わせは、y3 =⟨x′, z3⟩のみである。なぜなら、こ こでは色の赤さの表象については対象との確実な対応づけが想定されており、赤くない表 象x′と結びつくことができる赤くない対象は、z1, z2, z3 のうちz3 だけだからである。
さて、このときObjects× PerceptsからObjectsへの射影をπ1、Objects× Percepts からPerceptsへの射影をπ2、とする。いま対象Objectsに関する命題b, r を
b:=納屋である r :=赤い
とすれば、モデル上で次が成り立っている。
x |= [π−12 ]((π2)((form)b′∧(color)r′)→(π1)(b∧r))
これは、私の現実の知覚表象xにおいて、それと結びつきうる対象とのどんな可能な組み 合わせについても、表象の側で「形態が納屋、色が赤」であれば、必ず、それと結びつき うる対象の側では、「納屋であり赤い(赤い納屋である)」が成り立つ、ということを述べ ている。そしてこの
[π−21]((π2)((form)b′∧(color)r′)→(π1)(b∧r))· · ·(i) は、私が信じている常識的相関関係
(π2)((form)b′∧(color)r′)→(π1)(b∧r)
が、確実であることを表している。また、私に与えられている、自分のもつ知覚表象xが
「納屋の形で赤い」という情報は、
(form)b′∧(color)r′ · · ·(ii) と表される。これら(i),(ii)を合わせたとき、MSHLで、
1. (form)b′∧(color)r′ 前提
2. [π2−1]((π2)((form)b′∧(color)r′)→(π1)(b∧r)) 前提 3. ((form)b′∧(color)r′)→[π−12 ](π2)((form)b′∧(color)r′) 公理
4. [π2−1](π2)((form)b′∧(color)r′) 2,3, MP
5. [π2−1](π2)((form)b′∧(color)r′)→[π2−1](π1)(b∧r) 1, 公理K
6. [π2−1](π1)(b∧r) 4,5 MP
7. b∧r→b 公理
8. [π2−1](π1)(b∧r →b) 7,(π1),[π2−1],必然化
9. [π2−1](π1)(b∧r)→[π−21](π1)b 8,(π1),[π−21],K公理
10. [π2−1](π1)b 6,9 MP
により、
(A) [π−21](π1)b
が帰結する。これは、現在の私の知覚と結びついている対象が、確˙ 実˙ に納屋である、とい˙ うことを表している。実際、モデル上で
x|= [π2−1](π1)b
でもあり、これは「自分の知覚の対象が納屋である」という私の信念内容 (A’) (π1)b
が真˙に確実であるということを示している。˙