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命題による「投射」と「操作」の連続性

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第 3 章 ゲティア問題と Red Barn 問題の多領域様相論理による分析 87

3.2 Red Barn 問題

3.2.4 命題による「投射」と「操作」の連続性

(form)b(color)r (form)[π31]((π3)b 1)b)

(B) (form)[π31](π1)b (情報)

(form)b(color)r

¬(form)[π31]((π3)b 1)b)

¬(form)[π31](π1)b (事実)

となる。ここで、事実の側で

¬(form)[π31]((π3)b 1)b)

が 成 り 立 っ て い る こ と は 、y3 |= (π3)b 1)¬b と (π1)¬b ↔ ¬1)b よ り y3 |= (π3)b ∧ ¬1)b、つまり y3 |= ¬((π3)b 1)b)、これと π3(y3) = xf より xf |=

⟨π31⟩¬((π3)b 1)b)、つまりxf |= ¬31]((π3)b 1)b)、これとform(x) = xf より x |= (form)¬31]((π3)b 1)b)、これと (form)¬φ ↔ ¬(form)φ より x |=

¬(form)[π31]((π3)b 1)b)によって、モデル上で確かめられる。

とを述べている点は共通といえる(関数様相(-)は必然性も可能性も一致した様相である ことに注意)。しかしそれにもかかわらず、これら (A), (B)の情報はまったくの別物であ り、たとえ私がこれら (A), (B) の情報を両方同時にもつとしても何ら矛盾は生じない。

というのも、上のMSHLによる形式化では、私の知覚状態と「b(納屋である)」という対 象の性質との「結びつき方」までもが書き込まれており、それを見れば、これら (A), (B) の表す2つの情報は、私の知覚状態と対象の「b(納屋である)」という性質との「結びつ き方」に関して、その内容をまったく異にするからである。特に (B) の‘(form)’部分は、

b(納屋である)」という対象の性質が、私の総合的知覚表象のうち、「形態」部分の確実 性を介して、私の知覚状態と結びついていることを明示している。それに対して (A) の 方は、私の総合的知覚表象が総合されたままでの確実性を介して、私の知覚状態が対象の

b(納屋である)」という性質と結びついていることを明示している。

以上のMSHLによる精確な分析によって、Red Barn問題は、何ら認識論的閉包原理

(ECP) φが知識であり、φからψが論理的に帰結するならば、ψも知識である の反例とはならない、ということが判る。なぜなら、「私の知覚表象は、納屋の形であり、

赤い色である」という真なる情報

Φ := (form)b(color)r

は、この環境での表象と対象との˙ に確実な相関関係を前提にした場合、「私の知覚の対˙ 象は、私の総合的知覚表象を介せば、˙ ˙に納屋である」˙

(A) [π−12 ](π1)b

という、(π1)bという情報の˙ ˙ る確実性を帰結するからである。˙

他方Φは、この環境での表象と対象との、˙ に確実˙ ˙ ˙ い相関関係、つまり、˙ ˙ ˙˙ ˙ 相関関係を前提した場合、「私の知覚の対象は、私の総合的知覚表象のうち、形態部分を 介せば、˙ ˙ に納屋である」˙

(B) (form)[π−13 ](π1)b

という、(π1)bという情報の˙ な情報の確実性を帰結する。しかし、このことは何ら矛盾˙ ではない。

このとき、Red Barn問題は、認識論的閉包原理の問題ではなく、それとはまったく別 の、より一般的な問題を提示している、ということがわかる。というのも、Φから(A)と (B)への推論は、それぞれ次の3ステップによって要約できる。

(A)

1. (form)b(color)r 2. [π21](π1)(b∧r) 3. [π−12 ](π1)b

(B)

1. (form)b(color)r 2. (form)b

3. (form)[π31](π1)b

ここで、(A) の導出の 1行目と 2行目で、1行目の知覚に関する原子命題b, r が、2 行目では対象に関する原子命題 b, rに置き換わっている。同様に、(B) の導出の 2行目 と3行目でも、2行目の知覚に関する原子命題b が、3行目では対象に関する原子命題 bに置き換わっている。これらの移行は技術的に見ると、一般に様相論理の文脈では「無 様相」もまた「現実性」という退化した様相であると考えれば、現実性を別の様相——

(A) では二重様相[π21](π1)、(B)では二重様相[π31](π1))——へと変換する「様相推論

modal inference」となっている。この様相変換に伴って、様相文脈内の原始命題のソー

トもまた変換されるわけである。このように、一般に与えられた領域に関する命題から、

様相変換によってそれとは別の領域に関する命題を導出する操作のことを、「命題による 投射 projecton through proposition」と呼び、厳密な定義は措いて、Proj(-)と図式的に 表そう。

また、(A) の 導出の2行目と3行目で、対象に関する命題に関して、を除去する論 理的操作が施されている。同様に、(B) の導出の 1行目と2行目でも、知覚に関する命 題に関して、を除去する論理的操作が施されている。これらの操作は、ここでも一般に 様相論理の文脈では「無様相」もまた「現実性」という退化した様相であると考えれば、

ある様相文脈内—— (A) では二重様相[π21](π1)の内側、(B) では無様相つまり現実性 の内側)——で命題論理の論理的操作を行う「様相文脈内推論 inference within a modal

context」となっている。このように、ある様相文脈内に閉じた、つまり、その様相文脈が

表す領域についての命題に対する、その領域内での「論理的操作 logical operation」一般 を、これも厳密な定義は措いて、Logic(-)と図式的に表そう。

すると、Φ := (form)b(color)rから (A) と(B) を導出する推論は、それぞれ (A)

1.Φ 2.Proj(Φ)

3.Logic(Proj(Φ))

(B) 1. Φ

2. Logic(Φ) 3. Proj(Logic(Φ))

という形の手続きをとっていることが明らかになる。これにより、(A) の導出が知覚に関 する情報から対象に関する情報を導出してから、次にそれに対して論理的操作を施してい るのに対し、(B) の導出は逆に、知覚に関する情報に対して論理的操作を施してから、次 にそこから対象に関する情報を導出している、という構造がはっきりと見て取れる。

Red Barn問題のMSHLによる分析は、こうして、当初は見て取れなかった問題の重

要性を浮かび上がらせる。つまり、MSHLによる分析によれば、この問題の重要性は、

(ECP) の強力な反例となるということではない(むしろ反対に(ECP) は厳密に守られ る)。そうではなく、この問題の重要性は、異なる領域(ここでは知覚と対象の領域)の間 にまたがる、「命題による投射 projecton through proposition」*23と「論理的操作 logical

operation」の連続性(構造保存・準同型性)という、日常的な情報の計算プロセスにおい

ても本来保たれるべき基本的な代数構造——その反例モデルの構成、ということにあるこ とがわかる。

「命題による投射」と「論理的操作」の連続性(構造保存・準同型性)とは、今の文脈で は、知覚に関する命題を対象に関する命題へ投射してからそれに論理的操作を施しても、

逆に、知覚に関する命題に論理的操作を施してからそれを対象に関する命題へ投射して も、その結果出てくる命題内容の確実性は変わらない、ということである。そしてこれは おそらく、通常の場合、われわれの信念形成においても当然成り立つべき原理であろう。

Red Barn の例に即して言えば、本来、(A) 先に知覚領域の命題「赤い納屋が見える」か

ら対象領域の命題「赤い納屋がある」に投射して、次にそこから「納屋がある」を演繹し ても、(B)先に知覚領域の命題「赤い納屋が見える」から「納屋が見える」を演繹して、次 にそれを対象領域の命題「納屋がある」に投射しても、結果として得られた「納屋がある」

という命題内容の確実性は変わらないはずである。しかし、Red Barn の例では、この確 実性に (A) と (B) で不一致が生じる場合があること、(A) では確実な命題内容に到達す るが、(B) では確実でない命題内容に到達すること、このことがMSHLの分析によって

得られたRed Barn問題の要約である。

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