第 3 章 ゲティア問題と Red Barn 問題の多領域様相論理による分析 87
3.1.3 デフォルト論理によるゲティア問題の形式化
調な常識推論、第二段階の正当化部分が単調な演繹推論、として推論構造の特定が進めら れる。これを再び図式化すると、
(ゲティア推論構造の第二近似)
[1] 証拠 ―[非単調な常識推論]→ [2]偽な命題 ―[単調な演繹推論]→ [3]真な命題([2] と は独立の知られていない事実によって真)
となる。すなわち、ゲティア問題は、非˙ 単˙調な常識推論と˙ 単˙ 調な演繹推論の˙ 混˙ 合推論で構˙ 成されている*2。
A:MB
C (DF)
という形の推論規則を単に「デフォルト default」と呼び、このデフォルトたちの集合D を用意する。ここで、A, B, C は一階述語論理の論理式である。以下、デフォルトの線形 表記として、A : MB / C も用いる。先のデフォルト(BF)のように、C = B の場合、
つまり
A :MB
B (N DF)
の場合、この形のデフォルトを「標準デフォルト normal default」と呼ぶ。このとき「デ フォルト理論 default theory」とは、このデフォルトたちの集合Dと、閉じた(つまり 自由変更を含まない)一階述語論理式の集合T の対⟨D, T⟩である。直観的にこのT は、
(一階述語論理で表現可能な)何らかの仕方で証明済みの命題の集合と考えてよい。上の Tweety の例では、BIRD(T weety)として表される「Tweetyは鳥である」が、このT の要素として扱われていることになる。
その上で、大まかに言って、T を前提として、そこから一階述語論理の推論規則だけで なく、Dに属するデフォルト規則も使って引き出される帰結の集合のことを、⟨D, T⟩の
「拡張 extension」と呼ぶ。この⟨D, T⟩の拡張は、一般に一つに定まることはなく、複数
存在することになる。この一見複雑な結果はむしろ、次の重要な事実をうまく反映してい る。つまり、現実の生活上、われわれはほとんど常に不完全な情報しか有しておらず、ま たそこには、一般に競合する常識的法則が並存しうるため、われわれは与えられた不完全 な情報から、様々な類推の仕方によって、様々な信念体系を構築しうる、という事実であ る*3。この結果はまた、古典的な証明体系の証明可能性が決定的 deterministic であるの に対して、デフォルト論理では与えられたデフォルト理論⟨D, T⟩からの証明可能性が非
*3例 え ば 、D = {Quaker(x) : MP acif ist(x) / P acif ist(x), Republican(x) : M¬P acif ist(x) / ¬P acif ist(x)}, T = {Quaker(N ixon) ∧ Republican(N ixon)} と す る 。 Quaker(x) : MP acif ist(x) / P acif ist(x)は「(普通)クエーカー教徒は平和主義者である」と いう常識的法則を、Republican(x) : M¬P acif ist(x) / ¬P acif ist(x)は「(普通)共和党員は平和 主義者ではない」という常識的法則を表す。このとき、Quaker(N ixon)∧Republican(N ixon)つ まり「ニクソンはクエーカー教徒であり共和党員である」という事実が与えられているとする。す ると、一方で先にQuaker(x) : MP acif ist(x) / P acif ist(x)を使った場合、Quaker(N ixon)か ら P acif ist(N ixon)が帰結し、その場合にはRepublican(x) : M¬P acif ist(x) / ¬P acif ist(x) は も う 使 え な く な る 。し か し 他 方 、先 に Republican(x) : M¬P acif ist(x) / ¬P acif ist(x) を 使った場合、Republican(N ixon)から ¬P acif ist(N ixon)が帰結し、その場合には Quaker(x) : MP acif ist(x)/ P acif ist(x)はもう使えなくなる 。従ってこのデフォルト理論⟨D, T⟩は、一方で {Quaker(N ixon)∧Republican(N ixon), P acif ist(N ixon)}とそこからの一階述語論理による帰結 の集合と、他方で{Quaker(N ixon)∧Republican(N ixon),¬P acif ist(N ixon)}とそこからの一階 述語論理による帰結の集合という、二つの異なる拡張をもつ。
決定的 nondeterministic である、ということを示しており、その意味で、デフォルト論 理は古典的な「証明可能性」概念の自然な一般化を含んでいると言える*4。
Tweety の例をこの仕方で言い直せば、D = {BIRD(x) : MF LY(x) / F LY(x)} に 対 し て 、Tweety が ペ ン ギ ン で あ る と い う 事 実 が 与 え ら れ て い な い 状 況 T1 = {BIRD(T weety),∀x (P EN GU IN(x) → ¬F LY(x))} で は 、⟨D, T1⟩ の 拡
張にF LY(T weety)が属するが、Tweety がペンギンであるという事実が与えられた状況
T2 = {BIRD(T weety),∀x (P EN GU IN(x) → ¬F LY(x), P EN GU IN(T weety)}で は、⟨D, T2⟩の拡張にF LY(T weety)はもはや属さず、代わりにその否定¬F LY(T weety) が属する、ということになる。
さて、このデフォルト論理のゲティア問題に対する適用の仕方は、既に容易に見通しが つくと思われるが、それを推論構造が比較的単純な(反例2)の場合で考えてみることに しよう。(反例2)では、
(ev):=「[スミスは]ジョーンズがいつもフォードに乗っているのを見ている」
(f) 「ジョーンズはフォードを所有している」
(f’)「ブラウンはバルセロナにいる」
(h)「ジョーンズがフォードを所有しているか、またはブラウンがバルセロナにいる」
として、(h) = (f)∨ (f’) である。このとき「普通[(ev) なら (f) である]はずだ」あるい は「(ev)なら普通 [(f) である]はずだ」という常識的法則は、これを、「証拠 (ev) がある とき、(f) と想定することに矛盾がない場合には、(f)と帰結してよい」という常識的推論 規則として読み換えることによって、デフォルト規則の形で
(ev) :M(f) (f)
のように書ける。すると一方で、スミスに与えられた事実がT1 ={(ev)}のときには、そ の時点でのスミスのデフォルト理論⟨D, T1⟩の拡張には (f)が属し、したがって、一階述 語論理(正確にはその命題論理部分)による (f) からの論理的帰結 (f) ∨ (f’) = (h)もま た、シナリオ通りそこに属することになる。他方で、その後スミスに¬(f)つまり「ジョー ンズはフォードを所有してい˙ な˙い」という事実が与えられたときには、˙ T2 ={(ev),¬(f)} となり、その時点でのスミスのデフォルト理論 ⟨D, T2⟩の拡張には (f) はもはや属さず、
代わりにその否定¬(f)が属することになる。したがって、T2には (f) も(f’)「ブラウン
*4[56], p. 87参照。
はバルセロナにいる」も含まれていないので、(h) = (f)∨ (f’)は(f) と同時に⟨D, T2⟩の 拡張には含まれなくなる、ということになる。
おおよそ以上のような手続きによって、デフォルト論理は⟨D, T1⟩でスミスの常識推論 による「信念形成」の局面を表現できるだけでなく、⟨D, T2⟩で当の常識推論の非単調性 を反映するスミスの「信念改訂」の局面までも表現できる。だが、少なくともここまでの 分析では、デフォルト論理が記述していない問題の側面がある。それは、前者の⟨D, T1⟩ の段階で、スミスが (f) を信じている時、その時同時に、実際は (f)ではない、つまり¬ (f) である、という、スミスの信念の外部にあってそれ(=スミスの信念)と比較される、
背景事実である。