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関係のカテゴリーにおける連続性

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第 3 章 ゲティア問題と Red Barn 問題の多領域様相論理による分析 87

4.3 超越論的論理学の構想における様相論理と遷移構造

4.3.7 関係のカテゴリーにおける連続性

最後に、「関係」のカテゴリーの場合のカント予想について、ここでは主に現代的な状況 に照らすだけになるが、その具体的実現の見通しを与えておく。関係のカテゴリーは、よ く知られるように、(1)属性と実体(実体と偶有性)、(2)原因性と依存性(原因と結果)、

(3)相互性(能動者と受動者との相互作用)からなる。

まず、(1)属性と実体(実体と偶有性)については、Information Flow (Barwise and Seligman, 1997)([8])で展開されたいわゆるチャンネル理論が、(1)の背後にある空間的 かつ代数的な構造と、その間の連続性の候補を与えている。それが分類域(classification) と呼ばれるモデル論的構造と、その間の情報射(infomorphism)である。分類域 A =

tok(A),typ(A),|=Aは、トークン(token)と呼ばれる、分類される対象の集合tok(A) と、タイプ(type)と呼ばれる、トークンを分類する性質の集合typ(A)、及び、tok(A) と typ(A) の間の二項関係 |=A からなる。たとえば a tok(A) と α typ(A) につ いて、「a |=A α」は「トークンa はタイプα によって分類される」「トークンa はタ

である。

*25つまり、自体的にみればframecHaは同じ代数構造だが、二つの構造を比較する場合に、構造間の準 同型射として、frame準同型射をとるか、cHa準同型射をとるかに応じて、前者の場合はframe、後者 の場合はcHaと呼ばれるわけである。

イプ α をもつ」といった意味が意図されている。この読みがすでに示唆するように、

トークンを実体、タイプを属性として、カントのこの文脈で解釈することは、チャン ネル理論とカントの双方にとって、少なくとも興味深い解釈であるだろう。その上で、

分類域 A = tok(A),typ(A),|=A から分類域 C = tok(C),typ(C),|=C への情報射 f :A −→← C は、タイプ部分の関数f :A→C とトークン部分の関数f :C →Aの対、

つまりf =⟨f, fであり、次の条件を満たす。

任意のC上のトークンc∈tok(C)と任意のA上のタイプα typ(A)について、

f(c)|=A α ⇔c|=C f(α) · · ·()

いま、f(c) =a∈tok(A), f(α) =γ typ(C)とする。すると上の双条件式()は、

a|=A α ⇔c|=C γ· · ·(∗∗)

となる。これは、分類域Aaαであるとき、分類域Ccγであり、その逆もま た成り立つ、ということである。このとき、分類域Aを経験の対象(対象の直観)のモデ ル、分類域C をそれに対応する対象それ自体に漸近するモデル、と考えれば、(∗∗)は、経 験の対象のモデルで実体a が属性αをもつとき、それに対応する対象それ自体に漸近す るモデルで実体cが属性γをもち、その逆もまた成り立つ、ということを述べていること になる。

この情報射の条件を満たす範例は、ここでもまた、位相空間の連続写像である。位相空 間X は、その全体集合をX、その開集合系をΩ(X)とすれば、X =⟨X,Ω(X)と表され る。チャンネル理論の表記でいえば、tok(X) =X, typ(X) = Ω(X)であって、これらの 間の二項関係|=X とは単純にX上の集合論的要素関係X のことである。するとこのと き位相空間 X のチャンネル理論的な表現はX = ⟨X,Ω(X),Xとなる。その上で、位 相空間C =⟨C,Ω(C)A =⟨A,Ω(A)の間の関数f :C →Aが連続であるとは、

任意のα Ω(A)について、f1(α)Ω(C) となることである。このとき、

任意のc∈Cと任意のα Ω(A)について、

f(c)∈A α⇔c∈C f−1(α)

となる。したがって()に照らせば、連続写像f :C → Aとは、情報射として見られた場 合、f =f1, f =f に他ならない(各々の定義域から値域への方向に注意)。さらに、

質のカテゴリーの際に述べた通り、開集合系Ω(A),Ω(C)はframe の構造そのものであ

り、タイプ部分の関数f−1 : Ω(A) Ω(C)は、そのままframe準同型射となる。実際、

情報射のタイプ部分とトークン部分の反変性は、frame準同型射とlocale準同型射の反変 性に対応している。このように見れば、チャンネル理論において分類域という概念は、あ のカント的「図式」の感性的側面と悟性的側面の二つの側面に呼応する、一つのモデルの 空間的側面と代数的側面を分離したものであり、他方で情報射という概念は、そうして一 度分離された二つの側面の双対的な関係を、各々がその二側面をもつモデル間の関係にお いて明示したものである、と捉え直すことができる。

次に、(2)原因性と依存性(原因と結果)については、その原則の証明において、

これ[=現象の客観的な継起]はしたがって、現象の多様の順序によって成り立つ だろう。そしてこの順序に従って、あるもの(生起するもの)の覚知が他のもの

(先行するもの)の覚知に続いて、˙ ˙˙ ˙˙ ˙ ˙ ˙ て継起するのである。(強調原˙ 著)[A193/B238]

したがってこのような規則によれば、一般に一つの出来事[生起するもの]に先行 するもののうちには、この出来事[生起するもの]がつねに、かつ必然的な仕方で、

それに従って継起する、一つの規則をなす˙ 約(˙ die Bedingung)が含まれていな ければならない。(強調筆者)[A193/B238]

したがって状態そのものの継起(生起)は、やはり因果の法則と時間の˙ ˙ ˙

Bedingungen)に従って、ア・プリオリに考察されることができるのである。(強

調筆者)[A207/B252]

とある。ここで言われる「制約(条件付け Bedingung)」という概念が示唆するように、

カントにおける「因果」は、出来事や状態の時間順序や時間継起における、時間的な「制

約 constraint」という、一般的に解される意味での「因果」概念よりも、遥かに柔軟な概

念に基づいて理解されるべきものと思われる。というのも、カント自身も誤解を招く「因 果」概念の説明や例証を与えていることは否めないが、一般に「因果」という概念を、典 型的に二つの出来事の間の「引き起こし」関係といった二項関係によって考えることは、

現実にはほとんど実在しない、極めて特殊で仮象的な関係を措定することになると思われ るからである。現実には、一つの出来事がそれ単独で他の出来事を「引き起こす」ように 見えるのは、問題の二つの出来事を取り囲む状況や環境の、他の無数の要因や前提条件が 捨象されているからにすぎない。むしろ、そのような無数の要因や前提条件の中で、一つ の出来事や状態の変動に注目した場合に派生してくるのが、「原因」という概念であろう。

このような時間順序や時間継起の客観的「制約」を表現する一つのモデルは、実はすで に本論文の第 2章における反事実条件文の時間性分析の中で、一貫して使用されている。

それが分岐時間モデルである。この分岐時間モデルは、そこで見たように、一定の構造的 制約が課されたクリプキ構造、遷移構造に他ならない。そして、これに基づきわれわれが 最終的に辿り着いた反事実条件文の時間的な形式化のうちには、一種の「時間的制約」の 論理学的表現と考えられるものがすでに含まれている。ここで、前件に作用を含まない反 事実条件文と、前件に作用を含むそれの、各々について、(i) 過去への遡行を考えず、(ii) 擬強活性部分のみを取り出したものを書き出してみよう。

(CS*) ↓x.G(⟨R11⟩x→→G(⟨R21⟩x→ψ))) (CSA*) ↓x.G(⟨R11⟩x→[a]G(R21⟩x→ψ))

(CS*)は、これからR1 で参照される時点が来たとき、φが成立するならば、それ以降、

R2 で参照される時点が来たとき、ψが成立する、と読める式である。同様に、(CSA*) は、これから R1 で参照される時点が来たとき、作用aが完了すれば、それ以降、R2 で 参照される時点が来たとき、ψが成立する、と読める式である。つまりそれぞれ、直観的 には、「φになっ˙ ˙ ψになる」a˙˙ ψになる」を表すことになる。

これは、参照時点R1における状態φや作用aが、参照時点R2における状態ψを帰結 するという、時点R1 とR2 に相対的な制約、を表現していると述べ直すことができる。

このとき、こうした制約が特定の参照時点に相対的にしか記述されていない、ということ は、あくまで特定の参照時点における状況に関する限りで、こうした制約が成立している のであって、逆に言えば、そうした特定の参照時点以外の時点における状況では、必ずし もこうした制約が成立するとは限らない、ということである。実際、↓xと相対的にR1で 指定される状況がわずかにでも変動すれば、この制約は必ずしも成立しなくなる。その意

味で、(CS*)や(CSA*)が表現する時間的制約は、隠伏的に、状態φや作用aが生起する

モデル上のポイントでの、他の多くの命題の真偽に依存している、と言うことができる。

もちろん、より一般的な因果法則と呼べるものに近い制約もまた、(CS*)(CSA*) おける↓xGの順序を入れ替え、参照時点R1を消去することにより、次のように書く ことができる。

(CS**) G(φ→↓x.G(⟨R21⟩x →ψ)) (CSA**) G[a]↓x.G(⟨R21⟩x→ψ)

(CS**)は、これからφが成立する任意の時点で、それ以降、その時点からR2で参照

される時点が来たとき、ψが成立する、ということを述べている。同様に、(CSA*)は、

これから作用aが完了する任意の時点で、それ以降、その時点からR2 で参照される時点 が来たとき、ψが成立する、ということを述べている。これらは直観的に、「φにな˙ ˙

ψになる」「a˙ ˙ ψになる」を表すことになる*26。これは、状態φや作用aが実現し た後、ψが実現するまでのタイムラグ(反応時間)を表す、望ましい肌理の細かさを保っ たまま、状態ψの状態φ・作用a に対する依存性を、未来の任意の時点に対して普遍化 したものとなる*27

いずれにせよ、分岐時間モデルを記述するハイブリッド時制論理に、以上のような、仮 象的でない、現実に実在する蓋然性の高い時間的諸制約と、その普遍性の幅を柔軟に書き 分ける表現力が備わっているということは、この遷移構造と様相論理の一種としてのモデ ルと言語が、現実の時間構造との間に、何らかの˙ ˙˙ ˙ の双模倣関係と、その下で不変˙ な式構造を形成している可能性を示すものと思われる。実際、一般に充足演算子@と「 束縛子を含むハイブリッド論理式は双模倣関係の下では不変ではないが、「˙ ˙˙ ˙ ˙ ˙

双模倣 hybrid bisimulation 」(これには対象となる論理式に含まれる状態変数の数に応

じて、「k 双模倣 k-bisimulaton」とより強い「ω 双模倣 ω-bisimulaton」の二種がある)

と呼ばれる、双模倣関係を強めた関係の下で不変であるという C. Areces (2001) ([4]) の結果がある*28

最後に、(3)相互性(能動者と受動者との相互作用)についても、現代の理論コンピュー タ科学におけるプロセス代数process algebraと呼ばれる分野に、相互作用を行うプロセ ス(並行プロセス concurrent process)たちの振る舞いを表現するための、洗練された 代数的言語が用意されている。それが R. MilnerのCalclus of Communicating System (CCS) (Milner, 1989)と、その拡張であるπ計算 (Milner, 1999) である。本論文の第二 部第一章(2.1)で、前件に作用を含む反事実条件文の形式化の際に応用した多種様相論理 Hennessy-Milner logic (HML) (Hennessy and Milner, 1985) は、CCSによって表現さ れるプロセスたちの振る舞いを、CCSの言語よりもさらに抽象化して表現するための仕 様言語として開発された様相論理である。

*26これは、近年の日本語研究において、日本語は多くの場合、「タラ」によって個別的事態間の時間的依存 関係(temporal dependency)を、「レバ」によって一般的因果関係(general causal relation)を表現 し分けている、という益岡 (2007)の仮説に符合する結果である。そこで益岡が挙げる例としては、「向 こうに着いタラ、連絡してほしい」「需要が増えレバ、価格が上がる」がある。

*27状態 φ・作用aが実現した時点自身を ψが実現する参照時点として再帰的にとることによって、原 則論においてカントが説明を要していた、原因と結果が同時になる場合(布団をくぼませる鉛球の例 [A203/B248-249])もまた、容易に表現できることになる。つまり、G(φ→↓x.(R21xψ))ないし G[a]x.(R−12 xψ)である。この場合R2による再帰的な時点参照(x.(R−12 x...部分)は空 疎な情報となるため、さらにこれを省いたものが、結局、次の極めて単純な形、すなわちG(φψ)) いしG[a]ψとなる。

*28ただし後者の「ω双模倣 ω-bisimulatonの下で不変である」ということは、結局「一方のモデルが他方 のモデルのgenerated submodelになっているという関係の下で不変である」ということと同値であり、

したがって@と「」を含むハイブリッド論理式の不変性を「双模倣関係」に言及せずに特徴付けること も可能である。なお、generated submodelについては[13], pp.55-57を参照。

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