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投射、連続性、実在的可能性

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第 3 章 ゲティア問題と Red Barn 問題の多領域様相論理による分析 87

4.4 投射、連続性、実在的可能性

現代的観点から見た、以上のカント予想の具体的実現、各々のカテゴリーに対応する 種々の連続性の見通しによって、「対象の˙ 観についての思考の形式の解明が、なぜその˙ まま、˙ 象についての思考の形式の解明になるのか」という超越論的論理学のさらなる問˙ いに対する回答は、以下に整理できる。

(i) 対象の直観は、現実の対象の図式として、種々の幾何学的・代数的構造を潜在的に 含む。

(ii) これら種々の構造が形成されるのは、同種の構造間に、特定の連続性(構造保存性)

を形成するためである。

(iii) この種々の連続性の各々に対して不変な形式的性質のタイプがカテゴリーである。

(iv) 各々のカテゴリーに関して為される判断は、当のカテゴリーに属する形式的性質が 不変であるような、当の連続性の下で、不変な真/偽の評価を得る。

(v) 対象の直観が含むこれら種々の幾何学・代数的構造は、直接には現実の対象の構造 により近い幾何学的・代数的構造との連続性を形成しており、後者の構造はまた、

現実の対象の構造にさらにより近い構造との連続性を形成していると考えられる。

(vi) このような現実の対象の構造により近い、無数の幾何学的・代数的構造との連続性 からなる推移的関係を介して、対象の直観が含む種々の幾何学的・代数的構造は、

現実の対象を極限として、現実の対象に漸近すると考えられる。

(vii) このようにして形成される連続性の推移的関係の下で、直接には対象の直観が含む

幾何学的・代数的構造について為された判断は、現実の対象の構造により近い無数 の幾何学的・代数的構造についても、不変な真/偽の評価を受ける。

(viii) こうして、直接には対象の˙ 観について為された判断は、連続性の極限としての現˙

*30[60], pp. 11-14。この文献に双模倣の概念史がある。

*31相互作用そのものを表現する様相論理は、すでにR. Milner自身も提案している(Milner, Parrow, and Walker, 1993)。本論文が提示するMany Sorted Hybrid Logic (MSHL)も、元々複数の対象(プロ セス)の遷移構造を同時に様相式で記述し、その間の準同型射(p-morphism)や双模倣関係をも様相式 で記述することによって、対象(プロセス)たちの間の相互作用を論理的に形式化する目的で考案された。

実の˙ 象(˙ Objekt)についても、漸近的に、˙ ˙的(˙ objektiv)な妥当性(真/偽の 評価可能性)を獲得する。

以上に生じている対象への漸近的な構造は、以下のカントの記述にも見られる。

· · ·]こうして今やわれわれはまた、˙ ˙ ˙般というわれわれの概念を一層正当に˙ 規定できるであろう。あらゆる表象は、表象であるからには、その対象をもち、そ れ自身また他の表象の対象でありうる。現象はわれわれに直接与えられうる唯一の 対象であり、現象において直接に対象に関係するところのものが、直観と呼ばれ る。しかしこれらの現象はやはり物自体そのものではなくて、それ自身単に表象で あり、表象はさらにその対象をもつ。したがってこの対象はわれわれによってはも はや直観されることはできない。だからそれは非経験的すなわち超越論的対象=X と名づけられうるのである。(強調原著)[A109]

ただしここで「現象において˙˙ に対象に関係するところのものが、˙ ˙ 観と呼ばれる」と˙ あるように、カントはこの箇所で、極限としての対象それ自体、つまり非経験的・超越論 的対象=X への漸近の限界として、与えられた直観そのものを位置づけている、と考え られる。したがってカントのこの箇所においては、直観という対象への漸近の限界から出 発して、それを抽象化する方向に、現実の対象の図式として、種々の幾何学的・代数的構 造が生成され、逆に、現実の対象の図式、種々の幾何学的・代数的構造から出発して、直 観という対象への漸近の限界に進むにつれ、図式において捨象されたものが復元されてい く、そのような構造を読み取ることができる。

ところで、MSHLにおける、一種の『論考』的「投射projection」関係の形式化と考え られた

A1]((πAB)ψ)

φ→A1](πB)ψ (P roj)

の結論部分φ→A1](πB)ψは、形式上直接には、様相演算子[πA1](πB)を介した、˙ ˙ φ˙ ˙ ψの関係であった。これは、その際確認した通り、

3.12 ...命題とは、世界に対して投射関係に置かれた限りでの、命題記号である。

に明示されている、「命題」と「世界」との関係としての、『論考』における投射関係のタ イプを、形式上反映していないように思われる。

しかし、φ A1](πB)ψ には、上の超越論的論理学の解釈(i)-(viii) によって生じた

「判断(命題)の現実の対象を極限とする漸近的な客観的妥当性」という構造が現れている

と見ることができる。というのも、関係のカテゴリー、その(1)属性と実体の、チャンネ ル理論による解釈の中でこの提案を行ったように、Aを対象の直観のモデル、Bを(B×A を介して)それに対応する対象それ自体に漸近するモデル、と考えてみよう。あるいは、

Red Barn 問題のクリプキネットワークモデルにおけるように、A を知覚表象のモデル、

Bをその対象のモデルと考えてみよう。すると、φ→A1](πB)ψが妥当になる、次のク リプキネットワークモデル

4.4

が直観的に示すように、その場合φ→A−1](πB)ψが表現しているのは、次のことと解釈 できる。すなわち、対象の直観(知覚表象)のモデルAについての判断φは、πA1πB を介して、対象それ自体に漸近するモデルBについての(確実な)判断ψとしてよい、と

いうことである。これは言い換えれば、Aがφであるということは、(確実に)Bがψで あるということである、ということとなり、連続写像の一種である情報射infomorphism の条件と接近することになる。

同様に、一方でAを命題たちの描く言語的に構成された諸状況からなる論理空間(おそ らくそれに近接する明晰な例として、論理式の極大無矛盾集合たちからなるカノニカル・

モデルを考えられたい)、他方でBを(B×Aを介して)世界それ自体の可能なあり方を 漸近的に表すモデル、と考えてみよう。するとこの場合φ→A1](πB)ψは、意義をもつ 命題、つまり˙ ˙ φと、世界それ自体において成立する事態、つまり˙˙ ψとの関係を、

MSHLの言語に内化internalizeして表現したものと見ることができる。

以上の、特にφ→A1](πB)ψが表現する(と解釈可能な)命題と世界との投射関係 が、結果的に連続写像がもたらすそれとよく似た、構造上の性質(ここでは φψ)の 間の対応関係を生み出す、という見方は、未だ技術的裏付けを伴うものではないが、投射 関係もまた一種の連続性を形成することができる、という可能性を示しているものと思わ れる。この可能性から提案したい考え方は次である。すなわち、われわれがカントのカテ ゴリー表の背後に顕在化してきた、カント予想における連続性とはむしろ、われわれの投 射という活動によって局所的に構成される限りでの、いわば˙ ˙ ˙ ˙ ˙ ˙˙ な連続性であ˙ る、と考えるべきではないか、ということである*32

つまり、カテゴリーの背後にある連続性とは、われわれ主観を離れて、あらかじめ独立 に与えられているとされるような、連続的な時空構造を前提して理解されるべきではな い。そうではなく、カテゴリーの背後にある連続性とは、「不断に変転する情報環境 (プ ロセス)の中に局在 localized し、常に視点化された perspectival 仕方で(不完全な)情 報を入手しうるに過ぎない」(岡本, 2016, [81])われわれのような認知エージェントが、

そのような局在化され視点化された、断片的で不完全な情報をもとに、それでも何らかの 仕方で自ら対象との間に築くしかない関係である、と考えた方が現実的である。というの も、そうでなければ、われわれははじめから、一般に˙ 限構造である連続的な時空構造と、˙ その間の˙ ˙ ˙ total な連続性を、超越的な仕方で形成している、と考えるほかないだろ うからである。そして、この、局在化され視点化された断片的で不完全な情報をもとに、

こちら側から対象との間に関係を築く仕方一般が、「投射 projection」と呼ばれる過程で あると考えられる。

この段階に至って、本論文の結語として主張したいのは次である。すなわち、現実に与 えられた情報から、適切な投射を行うことにより局所的に構成された連続性を介して、何

*32この点も岡本(2016) ([81])から学んだ。このような投射的かつ局所的な連続性の数学における表現とし て、ここで筆者が念頭に置いているのは、「層(sheaf)」の構造である。

らかの対象に漸近するモデル、及び、そのモデルについての判断や命題が、「客観的実在 性」をもつ。そして、この投射的かつ局所的な連続性が、特に様相のカテゴリーのそれで ある場合、そこでのモデル、及びそれについての判断や命題が、当の対象の「実在的可能 性」と呼ばれる。本論文第二部における反事実条件文のモデル化と形式化は、D. ルイス の類似性モデルを分岐時間モデルとして再構成することによって、反事実条件文のセマン ティクスとシンタクスが、現実の時間的プロセス構造が備える、以上の意味での「実在的 可能性」を表現するものであることを、論理学的に明示したものである——そのように評 価されれば、著者にとって幸いである。また、本論文第三部におけるゲティア問題のモデ ル化と形式化は、われわれ認知エージェントが日常的に利用する「常識的相関」という形 をとった「投射関係」そのものの「実在的可能性」を、これもまた論理学的に明示したも のである——そのように位置づけられれば、著者にとって幸いである。

そして最後に本論文が試みた、超越論的論理学におけるカテゴリーと連続性の関係の解 明が進められることは、次のことを明らかにするであろう。すなわち、論理学は、かつて

論理主義Logicismが提唱したように、算術や数学がそこに還元されたり基礎付けられた

りする場所ではない。そうではなく、話はむしろ逆であると考えた方が自然である。つま り、論理学とは、算術や数学だけでなく、それらを最たる範例として含む、推論活動、言 語活動一般に潜在する、˙˙ ˙ ˙ ˙ のを˙ ——フレーゲがはじめに算術の言語から概念記法 を顕在化したように——顕在化する学である。そのような認識が達成された場合、論理主 義は、新たな形で復興するだろう。それは連続的論理主義 Continuous Logicismと呼ば れてよい。そしてこれは、真に興味深いことに、皮肉にも同じく共にカントを、しかし全 く別の形で継承した、フレーゲと並ぶもう一人の現代論理学の開発者、C. S. パースの論 理思想そのものであろうと思われる。

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