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反事実条件文一般の推移的推論

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第 2 章 反事実条件文の再分析 21

2.2.5 反事実条件文一般の推移的推論

(d) R11⟩i→F⟨R21⟩i

これを前提したとき、日本語の反事実条件文 (1) 晴れていれば、客が多かったのに。

の形式化 (1.2) ↓x.P(

(a) F(R11⟩x & p & F⟨R21⟩x) &

(b) G(⟨R11⟩x→(p→G(⟨R21⟩x→H(R11⟩x→q)))) は、対応する英語の反事実条件文

(1e) If it were fine, there would be many customers.

の形式化 (1.2e) ↓x.P(

(a) F(R11⟩x & p) &

(b) G(⟨R11⟩x→(p→q))) を帰結する。

性部分の帰結関係が成立すれば、弱活性部分の帰結関係も成立する)。すると、結果から 言えば、新たにr :=「黒字である」として、

(i’) ↓x.P(R01⟩x & G(⟨R11⟩x→(p→G(⟨R21⟩x →H(R11⟩x→q))))

(ii’) ↓x.H(R01⟩x→G(⟨R21⟩x→(H(R11⟩x→q)→G(⟨R31⟩x→H(⟨R21⟩x→r))))) (iii’) ↓x.P(R−10 ⟩x & G(⟨R−11 ⟩x→(p→G(⟨R−13 ⟩x →H(R−12 ⟩x→r)))) (J) とすれば、(i’), (ii’)から (iii’)が帰結し、全体として(J)を成立させる、(J)の形式化と

なる。

ここで、ポイントとなるのは(ii)およびその形式化(ii’)である。まず、素朴な自然言語 の直観レベルで、(i)は、「客が多かったのに」と振り返る帰結節の基準時R2に焦点が置か れていると考えれる。それは、基準時R2 における「(基準時R1で)客が多かった」こと の影響・効果effectに、話者の最大の関心があるためであると考えられる。そもそも、あ る出来事に対して基準時というものを措定する必要性は、その時点に、当の出来事がもた らす周囲への影響・効果を考慮しなければならない何らかの理由が存在するためと考えら れる。そうした基準時の判り易い例が、「期限dead-line」である*29。たとえば、(i)の話 者にとって、基準時R2はその日の売上報告の期限であると考えれば、基準時 R2 が措定 されている理由が顕在化されるだろう。そこで(ii)は、基準時R2における「(基準時R1 で)客が多かった」ことの影響・効果として、「黒字である」ことを引き出すことによっ て、基準時R2 に話者の焦点が置かれた理由をより明らかにするものものである、と考え ることができる。(ii’)における追加の基準時R3 の措定は、直接には基準時R2 で「黒字 である」状態をより未来の時点から振り返って述べる日本語のアスペクト「黒字だった」

の「だった」をここでも説明するためものである。しかし、今度はこの基準時R3 自体も、

基準時R2 で黒字だった影響・効果を考慮する状況が存在する、そういった時点として措 定されている可能性がある(たとえば基準時R3 は経営者による店舗存続の判断がかかっ ている日かもしれない)。したがって、その場合には、このR3自体がまた後に談話中で言 及される可能性が生じる(「黒字だったら、つぶれなかったのに!」)。ハイブリッド時制 論理による基準時表現の効力は、こうして、反事実条件文の推移的推論という論理的推論 の文脈でも、十全に生かされる。

(i’), (ii’), (iii’)を通じてもう一つ注意しなければならないのは、各式の一番前方に加え

*29「期限dead-line」の概念は、計算機科学の分野でも、実時間計算システム(real-time computing system の設計理論の中心的課題をなすものである。実時間計算システムの判り易い例は、自動車のブレーキ・エ ンジンの制御装置、心臓ペースメーカー、原子炉の制御システムであり、これらは許容された反応時間内 に求められる反応が返ってこなければ、当のシステムだけでなく、当のシステムを取り巻く周囲の環境に 対し、即座に深刻な影響を与える。そこでは、この許容された反応時間こそが、「期限dead-line」の明確 な基準(理由)を与える。

られた時点参照R01⟩xである。これは、ここまで隠伏的にされていた、過去における現 実の時間進展と可能的な時間進展との分岐時点を明示化したものである。この分岐時点が 必要になる理由は以下である。(ii’)の「客が多かったら黒字だった」に直接あたる部分 H(R11⟩x→q)→G(⟨R31⟩x→H(R21⟩x→r)))は、実際は、ある限られた時間系列 の範囲の下でのみ成立する。たとえば、客が多くても、その日機材が故障し、その修理代 がかかるような時間系列が存在すれば、黒字ではなくなるかもしれない。そこで分岐時点 の基準時R0の措定は、そのような想定されていない時間系列を排除し、来客数がそのま ま黒字につながるという依存関係が成立する、そのような時間系列の範囲への限定を行う 機能がある。一般に、分岐時間モデルにおいて、考慮する分岐時点が過去に遡れば遡るほ ど、そこから分岐する各時間系列上で参照される特定の基準時(ここではR2)の分布は 拡大し、それに応じて様々な可能性を考慮しなくてはいけなくなる。ある現在に近い特定 の過去の時点に、考慮する分岐時点を留めることで、同時に、参照する基準時の範囲の制 限を行い、その可能性の限定を行うのが、この過去の分岐時点への時点参照R−10 ⟩xの役 割である(この分岐時点による参照基準時の範囲の制限によって、後で示すように分岐時 間モデルからD. ルイスの球体系 $ が再構成できることになる)。

こうして、

(ii’) ↓x.H(R01⟩x→G(⟨R21⟩x→(H(R11⟩x →q)→G(⟨R31⟩x→H(⟨R21⟩x r)))))

の読みは、「過去のある分岐時点R0 まで遡れば、それ以降の各時間系列で、参照時点R2 が来たとき、そこで、より以前の参照時点R1 で客が多かった(q部分)ならば、より以 後の参照時点R3 から振り返ったとき、R2で黒字(r部分)だった」となる。

他方、(J)に対応する英語の反事実条件文の推移的推論

(i-e)If it were fine, there would be many customers.

(ii-e)If there were many customers, we would have a surplus.

(iii-e)If it were fine, we would have a surplus. (E)

を考え、これを構成する3つの英語の反事実条件文が、すべて、分岐時点以外には同じ1 つの参照時点R1 しかもたないと単純化して想定した場合、この(E)の形式化は、

(i’-e) ↓x.P(R−10 ⟩x & G(⟨R−11 ⟩x (p→q))) (ii’-e) ↓x.H(R01⟩x→G(⟨R11⟩x→(q →r)) (iii’-e) ↓x.P(R01⟩x & G(⟨R11⟩x (p→r))) (E)

にまで単純化される。これは、英語の話者が、晴れている時点、客が多い時点、黒字であ る時点を、たとえば同じ一日という単位でひとまとめに捉えているものと考えれば、合理

的な単純化といえる。

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