第 3 章 ゲティア問題と Red Barn 問題の多領域様相論理による分析 87
3.1.4 条件法論理によるゲティア問題の形式化
はバルセロナにいる」も含まれていないので、(h) = (f)∨ (f’)は(f) と同時に⟨D, T2⟩の 拡張には含まれなくなる、ということになる。
おおよそ以上のような手続きによって、デフォルト論理は⟨D, T1⟩でスミスの常識推論 による「信念形成」の局面を表現できるだけでなく、⟨D, T2⟩で当の常識推論の非単調性 を反映するスミスの「信念改訂」の局面までも表現できる。だが、少なくともここまでの 分析では、デフォルト論理が記述していない問題の側面がある。それは、前者の⟨D, T1⟩ の段階で、スミスが (f) を信じている時、その時同時に、実際は (f)ではない、つまり¬ (f) である、という、スミスの信念の外部にあってそれ(=スミスの信念)と比較される、
背景事実である。
は、まさにそのような現実である)。したがって、φ→N ψのモデルを「類似性体系」に 対していわば「通常体系」と呼ぶとすれば、この通常体系には、類似性体系のように、現 実世界の「中心化条件 centering」も「弱い中心化条件 weak centering」も仮定すること はできない。つまり、「通常さ」の尺度で現実世界を含む可能世界を比較したとき、現実 世界が「通常さ」で最大となる、とは限らず、また、最大のものの一つとなる、とも限ら ない。
そこで、条件法論理の通常体系モデルにおけるφ→N ψ の真理条件は、次のような形 で与えられる。
Jφ∧ ¬ψKM <w Jφ∧ψKM
これは、「現実世界wから見て、φ∧ ¬ψが成り立つ可能世界の集合Jφ∧ ¬ψKM よりも、
φ∧ψが成り立つ可能世界の集合Jφ∧ψKM の方が、通常である」という「通常さ」の順 序を、そのまま表している。条件法論理の通常体系モデルの下でφ →N ψが意味するの は結局このことであり、したがってφ→N ψは素直に「通˙常˙ φならψである」と解釈で きることになる。
すると、このいわば「通˙ 常条件文」˙ φ→N ψを用いて(反例2)の非単調推論部分を表 現すれば、
(ev) →N (f) となり、その通常体系モデルの下での真理条件は、
J(ev)∧ ¬(f)KM <w J(ev)∧(f)KM (3.1) となる。このとき、デフォルト論理では浮び上らなかったゲティア問題の側面が、この通 常条件文 (ev) →N (f)の、真理条件の側に現れていることが判るだろう。それは、ゲティ ア問題のシナリオでは現実となった、(f)の強い証拠(ev) があったのにもかかわらず、(f) ではなかった、という事態である。このより通常でない、異常な事態が、(3.1) の左辺で J(ev)∧ ¬(f)KM によって記述されている。こうして(反例2)に照らした場合、(3.1) の 右辺J(ev)∧(f)KM は、スミスが通常であるとして予期している内容、つまりスミスの信 念の内˙ 容を表しているのに対して、˙ (3.1) の左辺J(ev)∧ ¬(f)KM は、スミスが通常でない として自身の信念から排除している、スミスの信念の外˙ 部にある背景事実を、少なくとも˙ 潜在的に示している、と見ることができる。
さらに、常識推論の非単調性は、2.1.7で見たと同じ、前件強化に伴う帰結の可変 性に反映される。例えば、
(ev’):=「[スミスは]ジョーンズが乗っているフォードの中にレンタカーの貸渡契約書を
見つけた」
としよう。このとき、と同様、
(ev) →N (f) だったとしても、
(ev)∧(ev′)→N ¬(f) となるような通常体系モデルが、容易に構成できる。
しかし、この条件法論理には、Reiter (1988) にも端的に指摘されているように*5、致命 的な難点がある。それは、→N には、と同様、通常の→(ならば)と同じ除去則、つま り推論規則の中でも最も要となる Modus Ponens が使えない、という難点である。とい うのも、もしそれが使えるとすれば、つまり、→N についても、→N 版のModus Ponens
φ φ→N ψ
ψ (M P)N
が許されるとすれば、「φ」と「通˙ 常˙ φならばψである」ことから、「通˙ 常˙ ψである」こと をこえて、「現˙ 実˙ に˙ ψである」ことが出てきてしまうだろう。(反例2)の場合でいえば、
(ev) (ev)→N (f)
(f)
が成り立つことになり、現実に (f)である、つまり現実にジョーンズがフォードを所有し ていることになってしまう*6。
(この→N の難点は、以下に続くMSHLによる通常条件文の形式化では回避されるが、
興味深いことに、MSHLによる通常条件文の形式化は、第2章で提示したハイブリッド 時制論理HTLCF による反事実条件文の形式化と、類比的な基本構造をもつことがわかる
(3.1.17を参照)。)
*5[57], p. 179
*6Delgrande (2003) ([19])自体はこの難点を、φ→N ψそのものを「弱い含意文weak implication」と してではなく「推論規則rule of inference」として解釈することによって、回避しようとしている。