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D. ルイスによる形式化との比較 —— 前件強化に伴う帰結の可変性 35

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第 2 章 反事実条件文の再分析 21

2.1.7 D. ルイスによる形式化との比較 —— 前件強化に伴う帰結の可変性 35

さて、以上の動態論理による形式化とD. ルイスの形式化との比較について言うべきこ とは多くあるが、その中でもここで述べておくべき重要なポイントがある。それは、「前 件の条件が増えれば後件の帰結が変わりうる」という現象をとらえる——通常の実質含意

(ならば)やそれを必然化した厳密含意にはない——€の利点が、同程度、あるいは それ以上に肌理の細かい形で動態論理の[ ], ⟨ ⟩によっても実現される、ということであ る。たとえば、先と同じ状況で、

(1) 水を買ったらコーヒーは買えない

(2) 水を買っても100円もらったらコーヒーが買える

を考えよう。この二つがそれぞれ空疎でなく同時に真である、つまりどちらも前件が偽で あるためでなく、前件が真でそのとき後件も真であることによって全体が真である、この ことに何の矛盾もないことは、直観的には明らかだろう。にもかかわらずこのとき、p:=

水を買う、q:=100円もらう、r:=コーヒーを買う、として、通常ので形式化すれば、

(1), (2)はそれぞれ、

(3) p→ ¬3r (4) (p & q)→3r

となるであろうが、前者からp &q → ¬3rが帰結するため、この二つとp &qからは矛 盾が導かれる。したがって当然、両者を空疎でなく(互いの前件が成立するように)同時 に真にするモデルはありえない。これは、たとえこの二つを必然化した厳密含意

(5) 2(p→ ¬3r) (6) 2((p & q)→3r)

を考えたとしても、p & q が成立する可能世界では3r¬3rが成立し、結局そのよう な可能世界は存在しないことになるため同じことである。しかし一方、€(1), (2)を 形式化すれば、それぞれ、

(7) p€¬3r (8) (p & q)€3r

となり、前者から(p & q)€¬3rは帰結せず、ルイスのセマンティクスで両者を空疎で なく——それぞれpが成立する状況とp & qが成立する状況で——同時に真にするモデ ルが与えられる*23。そしてこれがルイスの体系に代表される条件法論理がもつ大きな特 長であった。他方、動態論理では、まずwater,coffeeというラベルに加え、「100円もら う」にあたるラベル +100’を用意する。すると(1), (2)はそれぞれ、

(9) [water]¬⟨coffeett (10) [water][+100]coffeett

となる。(前者は [water][coffee]ff と書き直しても同じことである。)このとき、先の (M S)と同様にして、それぞれが空疎に真になる場合、つまり「水を買う」という作用

*23D. Lewis, 1973, pp. 18-19

(行為)と「水を買ったあと100円もらう」という作用(行為)が不可能であることによっ て両者が真になる場合を排除すれば、

(11) water⟩tt∧[water]¬⟨coffee⟩tt

(12) water⟩⟨+100⟩ ∧[water][+100]coffeett

となるが、それでも前者と後者から矛盾が帰結しえないことは見た目にも明らかである。

というのも、(11)はそれ自体では+100様相に関する情報は何も含んでいないからである。

そしてこの(11), (12)に基づいて単純なラベル付遷移構造「I1 water−→ I2 +100−→ I5 coffee−→ I6」 を素直に与えれば、I1 において、(9)と(10)は——動態論理の意味で——空疎でなく同 時に真であることも明らかであろう。ここで、動態論理が作用や行為の依存関係を記述す るということの意味が、出来事の順序、累積、さらにはそれに伴う帰結の時間的変化を記 述することとして、改めて理解されるだろう。*24

作用を含む反事実条件文の動態論理による分析は、このようにルイスによるそれと比較 しても、厳密さ、単純さ、見通しのよさ、蓋然性、生産性において、自然言語の形式化と いう手続きが実現すべき説明力に何ら遜色はないと思われる。従って、さらに広範な比較 検討は次章に譲り、本章の結論だけを述べれば、自然言語の反事実条件文で表現される文 のうちには、それを多種様相化された様相演算子[ ], ⟨ ⟩で形式化することが、ルイスの

€に代表される二項文結合詞で形式化することと、どんなに低く見積もっても少なくと も同程度に自然で適切であるものが存在する、ということである。

2.2 反事実条件文一般の時間性分析

前節では

(0) 水ボタンを押さなかったら、コーヒーが買えたのに。

という、前件に作用(動作・行為)を含む形の、特定の反事実条件文を具体例として、D.

ルイスのものとは独立の、動態論理による新たな分析を与えた。ところで、動態論理は、

個々の作用を時間的プロセスとみなせば、時間論理の亜種と位置づけられる。実際、動態 論理は、時制論理の演算子と組み合わされて導入されてきた([5], [65])。本章では、前章 の分析を拡張し、時間論理——より具体的にはハイブリッド時制論理+動態論理——に よる反事実条件文一般の分析を与える。そしてこの分析によって同時に、D. ルイスによ る古典的な反事実条件文の類似性モデルを、分岐時間モデルから再構成する*25。すなわ

*24以上の事実は本稿の草稿を読んで頂いた佐野勝彦氏(当時、北陸先端科学技術大学院大学)との議論に よって明確にされたものである。

*25反事実条件法を分岐時間モデルとそこで表現される歴史的必然性によって解釈するという試みは、すで

ち、D.ルイスの類似性モデルを、技術的な形で時間的に再解釈する。

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