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IIRC 設立以前の流れ

ドキュメント内 非財務情報の企業価値 (ページ 33-36)

第 2 章 統合報告の方向性とその変遷

2.1 IIRC 設立以前の流れ

IIRCの主たる設立母体の一つは,A4S (Accounting for Sustainability)である.A4Sは2004 年にチャールズ皇太子(ウェールズ公チャールズ)によって設立された組織であり,企業が,地 球環境をはじめ,広く社会に配慮することの重要性を主張し,環境保護活動など,中長期的な持 続性に関する情報を外部利害関係者に開示できるような制度作りを目指していた.2006 年報告 書25では,その背景として,環境に関する情報が「短期および中期の財政状態には直接的な影響 をほとんど与えない(p. 1)」ために,意思決定者(投資家)が考慮してこなかったという点を指 摘した上で,今後は,二酸化炭素排出量,自然資源の利用,社会福祉,生物多様性,水やエネル ギーの使用,などに関して企業が開示すべきであると提案している.この報告書を見る限り,多

25 Accounting for Sustainability Report 2006

(http://www.accountingforsustainability.org/wp-content/uploads/2011/12/A4S-Report-Introduction-and-executive-summary-December-2006.pdf),2015年3月30日閲覧.

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様なステークホルダーにとっての価値への言及が必要である,という思想はこの時点から有して いたと考えられる.

一方で,この時点では「財務資本提供者以外のステークホルダーに関する状況」を財務資本提 供者以外のステークホルダーに報告することを主目的としていたように見える.その後,2007 年報告書26において,CRF (Connected Reporting Framework)という名称のフレームワークを 示し,企業の戦略,財務情報,そして持続可能性に関する情報(sustainability information)とを

「結合した形で」報告することを提案している.この報告書が”connected”という発想となった 初期の提案ではあるが,あくまで持続可能性や(短期的な)財務情報とのリンケージを志向して おり,財務資本提供者にとっての長期的業績指標である企業価値とのリンケージは想定していな いように見える.倍(2014)も,当時の方向性を「レポーティングシステムを事業戦略の一環と 位置づけ・・企業業績との統合情報の開示を求める動き」と指摘している(p. 310).その後,

2009年12月にIIRCの設立を提唱するまで企業価値への言及はない.

IIRC 設立母体として A4S と並んで重要な役割を担ったのは GRI (Global Reporting

Initiative)である.GRIは1997年に設立されたNPOであり,サステナビリティ報告書の開示

内容のガイドラインを提案している.現在,2013年5月に提案された第4世代のガイドライン

(G4)が使われている27.GRIのガイドラインはトリプルボトムラインと呼ばれる,環境・社 会・経済の3側面が持続可能性を高める,という思想の下で策定され,3側面の開示に関するガ イドラインが提案されている28.また,ガイドラインの作成・改良に際しても,開示する側(企 業)のみならず,市民組織,従業員,学界,政府等の関連する多様なステークホルダーからの意 見を聴取するという,マルチ・ステークホルダー・インプットという考え方を採用している.こ のことからは,多様なステークホルダーへの配慮のための開示,という基本姿勢がうかがえる.

G4のタイトルがサステナビリティ・レポーティング・ガイドラインであることからも分かる ように,企業がステークホルダーの意思決定に資するために発行するサステナビリティ報告書の

26 Accounting for Sustainability Report, December 2007

(http://www.accountingforsustainability.org/wp-content/uploads/2011/12/The-Accounting-for-Sustainability-Report-2007.pdf),2015年4月1日閲覧.

27 環境省が発行している「環境報告書ガイドライン」においても,同時期のGRIガイドライン の環境関連項目を参考とした旨の記載がある(『環境報告書ガイドラインとGRIガイドライン 併用の手引き』,https://www.env.go.jp/policy/report/h17-07.pdf,2015年4月1日閲覧,p.

7).

28 About sustainability reporting

(https://www.globalreporting.org/information/sustainability-reporting/Pages/default.aspx), 2015年4月1日閲覧.

27

開示内容および様式を規定する,という目的のためのガイドラインとして策定されている.そこ では,企業が「長期的な収益性を社会正義や環境保護と両立させる」ために,「企業や組織の出 資者,顧客その他のステークホルダーが,持続可能な経済に移行する必要性について理解」する 必要があると主張しているものの(日本語版G4,p. 3),経済という側面(カテゴリー)につい て要求されている開示項目は「収入」,「事業コスト」,「従業員給与と福利」といった短期的項目 が多く見受けられるのみで,企業価値との関連へ言及することを要請していない.

出典:筆者作成

図表2-1 伝統的な財務報告ならびにA4S報告書およびGRIガイドラインの開示内容

すなわち,A4SもGRIも,企業が持続的に企業として存在していく,すなわちサステナビリ ティを維持していくためには,経済的パフォーマンスだけを目標とするのではなく,社会や環境 に対してもバランス良く接していく必要があることを主張し,かつ,そのような社会や環境との 企業の関わりを何らかの形で開示するための仕組み作りを目指しているものの,経済的パフォー マンス以外の側面に関する情報開示に重点がおかれ,長期的な経済的パフォーマンスの要約指標 である企業価値に関する言及は乏しいと言える.伝統的な財務報告の開示内容と,A4S報告書や

↑ 長期的

短期的

開示内容の時間軸

財務資本 多様な 提供者のみ ステークホルダー

開示内容に含める対象 伝統的な

財務報告

A4S報告書

および

GRIガイド

ライン

28

GRIガイドラインが求める開示内容を,「長期にわたる価値創造に関する情報提供」および「多 様なステークホルダーに関する情報提供」という二つの軸を用いて整理すると,図表2-1のよう になる.また,情報提供の主たる対象者が,財務資本提供者ではなく,むしろその他のステーク ホルダーであることを確認しておきたい.

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