第 3 章 会計情報の役割と検証モデル
3.3 残余利益モデル
44
( ) ( ) (
r)
d r
d r
d P
+ + + +
+
= +
1 1 1
1 2 2 33
3 (3-4)
となる.これを無限期間になるまで続けると,最終的には,
( ) ( ) (
+ +)
++ +
= +1 2 2 3 3
0 1 1 1 r
d r
d r
P d (3-5)
という式が得られる.すなわち,企業の株価は,将来の無限期間の配当を現在価値に割り引いた ものの総和で表現できるという,配当割引モデルである.さらに,効率的市場を仮定しているの で,株価は1株あたり企業価値と近似する.したがって,
( ) ( ) (
+ +)
++ +
= +
≈ 0 1 2 2 3 3
0 1 1 1 r
d r
d r
P d
V (3-6)
となる.ここで,V0は投資時点(0 時点)での企業価値を示している.この(3-6)式が配当割 引モデルである.(3-6)式では,株主にとっての企業価値が,将来の無限期間にわたる配当の割 引現在価値の合計として表現されることを示している.
45
で求められる.ここで,xtは当期(t期)利益,rは株主資本コスト,BVt-1は前期(t-1期)末 の純資産簿価である.
配当利益モデルを基にして残余利益モデルを導出するためには,クリーン・サープラス関係の 前提が必要となる.クリーン・サープラス関係は,(資本取引を除く)純資産簿価の変化が損益 計算を経由することを示している.すなわち,損益計算書(または包括利益計算書)で計算され た当期利益の額だけ,貸借対照表上の純資産簿価が増減する,という関係である44.これを式で 表現すれば以下のようになる.
t t t
t BV x d
BV = −1+ − (3-8)
ここで,配当(dt)は資本取引であるから,(3-8)式は利益額の分だけ純資産簿価が増減してい ることを示している.(3-8)式を移項すれば(3-9)式が得られる.
(
− −1)
−
= t t t
t x BV BV
d (3-9)
(3-9)式を(3-6)式の配当割引モデルに代入して整理すると,残余利益モデル45が導出される.
44 クリーン・サープラス関係を仮定するということは,必ずしも現実の会計基準の下でクリー ン・サープラス関係が成り立つ必要があることを要求していないし,そうすべきだ,というこ とを主張しているわけではない.あくまで,(場合によっては開示されている利益に必要な調整 を加えて)クリーン・サープラス関係を満たすような利益を計算したうえで残余利益を求める 必要がある,ということを主張しているに過ぎない.
45 この式がOhlsonモデルと呼ばれることもあるが,本論文では,次節で扱う線形情報ダイナ
ミクスを導入した企業価値評価モデルをOhlsonモデルと呼び,(3-10)式で示されるモデルに ついては残余利益モデルと呼ぶことにする.
46
( ) ( ) ( )
( )
( ) ( )
( ) ( )
( )
( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( )
( )
( ) ( ) ( )
( ) ( ) ( ) ( )
( ) ( ) ( )
( )
( ) ( ) ( ) ( )
( ) ( ) ( )
+ +
× + −
+
× + −
+
× + −
=
+ +
× + −
+
× + −
+
× + −
+
= +
+ + + +
+ + + +− + +
+ + +
+ +− + +
+
−
= +
+ + + − + +
+ + + + − + +
+ + + +− + +
= +
+ +
− + −
+
− + −
+
−
= −
+ + + +
+ +
=
≈
3 2 3
2 1 2
0 0 1
3 2 3
2 1 2
0 1
0
3 3 23
3 2 2 2
12 2 1
1 0
3 3 3
3 23
22 2 2
1 2 1
0 1
3 2
3 3
2 1
2 2
0 1 1
3 3 2
2 0 1
0
1 1 1
1 1 1
1 1
1 1
1 1 1
1 1
1 1
1 1
1 1
1 1
1 1 1
1 1
1 1 1
1 1 1
r BV r x r
BV r x r
BV r BV x
r BV r x r
BV r x r
BV r x r BV r
r x r
BV r
BV r r
x r
BV r
BV r r
x r
BV r r
r BV r
x r
BV r
BV r
x r
BV r
BV r
x r BV
r BV BV x
r BV BV x
r BV BV x
r d r
d r
P d V
( ) ( ) (
+)
+× + −
+
× + −
+
× + −
= 0 1 0 2 2 1 3 3 2
1
1 1 r
BV r x r
BV r x r
BV r
BV x (3-10)
残余利益モデルは,配当割引モデルで利用した仮定に加え,クリーン・サープラス関係の成立 を前提としているが,それ以外の会計方針(資産評価における取得原価主義対公正価値,減価償 却における定額法対定率法,耐用年数の仮定)などに左右されない.これは,たとえばある期の 利益が何らかの理由で低く示されたとしても,その期末の純資産簿価が低くなることで翌期の残 余利益を高く示す帰結をもたらし,結果としての企業価値は変わらない.このことを以下の例で 確かめてみたい.
【説例】
A社とB社の2社を想定する.両社はいずれも,減価償却費以外の利益が毎年500百万円,
評価時点(t=0)の純資産簿価が1,000百万円であり,評価時点で600百万円の機械装置を購入 している.両社とも,同機械装置を4年間使用するが,その減価償却方針は以下のように異なっ ている.
A社: 減価償却は4年間の定額法(残存価額0)でおこなう.
B社: 減価償却は3年間の定額法(残存価額0)でおこなう.
株主資本コスト(r)は年10%とする.なお,両社は4年後に解散し,その時点での純資産簿 価を株主に配分する(資産および負債を時価評価しているため,純資産簿価と同額が株主に配分
47 可能であると仮定する).
この場合,A社およびB社の企業価値は以下のように求められる.
[A社の企業価値]
1年目(t=1) 2年目(t=2) 3年目(t=3) 4年目(t=4) 減価償却費以外の利益 500 500 500 500
減価償却費 150 150 150 150
当期純利益(NIt) 350 350 350 350 期首純資産簿価(BVt-1) 1,000 1,350 1,700 2,050 資本コスト(額) 100 135 170 205
残余利益 250 215 180 145
残余利益の現在価値 227 178 135 99 解散価値(4年後の価値)
の現在価値 2,400 ÷ (1.1)4 = 1,639
企業価値 1,000+(227+178+135+99)+1,639=3,278
[B社の企業価値]
1年目(t=1) 2年目(t=2) 3年目(t=3) 4年目(t=4) 減価償却費以外の利益 500 500 500 500
減価償却費 200 200 200 0
当期純利益(NIt) 300 300 300 500 期首純資産簿価(BVt-1) 1,000 1,300 1,600 1,900 資本コスト(額) 100 130 160 190
残余利益 200 170 140 310
残余利益の現在価値 182 140 105 212 解散価値(4年後の価値)
の現在価値 2,400 ÷ (1.1)4 = 1,639
企業価値 1,000+(182+140+105+212)+1,639=3,278
48
残余利益の流列を見ると,ある期の減価償却費が高い(低い)ことによって,その期の残余利 益が低く(高く)なったとしても,その後の期首純資産簿価と資本コスト額が低く(高く)なる ことを通じて残余利益が高く(低く)なるため,評価期間全体で見れば残余利益の現在価値合計 額は等しくなることがわかる.これが,残余利益モデルによる企業価値評価は会計方針の影響を 受けない,と言われる理由である.