• 検索結果がありません。

株主総会活性化企業における業績予想の精度

ドキュメント内 非財務情報の企業価値 (ページ 89-93)

第 6 章 定時株主総会の活性化と業績予想の精度

6.2 株主総会活性化企業における業績予想の精度

本節では,株主総会の活性化が見られた企業において,業績予想の精度(予想値と実績値との 乖離の程度)が向上しているか(乖離の程度が縮小しているか),という点について,クロスセ クショナル(企業間)の比較と時系列による比較をおこなう.前節では,企業が経営方針等の説 明をおこなう情報開示の場として株主総会の意義を認め,未来へ進む姿勢を表明する場として活 用しようとするのであれば,様々な障害が取り除かれるに従い,株主総会の本来の機能を取り戻

FREQUENCY

0 100 200 300 400 500

ssad MIDPOINT

year

1994 2004

-0. 15 0

-0. 13 5 -0. 12 0

-0. 10 5

-0. 09 0 -0. 07 5

-0. 06 0 -0. 04 5

-0. 03 0 -0. 01 5

-0. 00 0 0 .0 15

0 .0 30

0 .0 45 0 .0 60

0 .0 75 0 .0 90

0 .1 05

0 .1 20 0 .1 35

0 .1 50

-0. 15 0

-0. 13 5

-0. 12 0 -0. 10 5

-0. 09 0

-0. 07 5 -0. 06 0

-0. 04 5

-0. 03 0 -0. 01 5

-0. 00 0 0 .0 15

0 .0 30

0 .0 45 0 .0 60

0 .0 75

0 .0 90

0 .1 05 0 .1 20

0 .1 35 0 .1 50

82

そうとするはずであり,実際にそのような状況が観察されたことを示した.また,企業の意識変 化は,株主総会のみにおいて発現されるべきではなく,その他の情報開示チャネルにおいても何 らかの変化が見られるはずであり,直接的に投資意思決定に資する業績予想の精度が向上するは ずだと主張した.

以上から,本節で検証する仮説を対立仮説の形式で記述すると,以下のとおりとなる.

仮説6-1:定時株主総会の活性化が観察された企業が,活性化の観察された年に公表する業績予 想の精度は,その他の企業が同時期に公表する業績予想の精度よりも高い

6.2.1 データとサンプル

仮説6-1を検証する際に対象となるサンプルは,1991年から2004年の間 65に定時株主総会 を開催した,東京証券取引所第一部および第二部に上場している企業である.このうち,銀行・

証券・保険・その他金融に属する企業を除外し,3月31日を決算日とする企業のみを抽出して いる.なお,定時株主総会所要時間のデータは『資料版 商事法務』から手作業で収集した.業 績予想を含む財務データは,日経NEEDS-FinancialQUESTから抽出した.分析ごとに最大限 利用可能なデータを用いたため,それぞれのサンプル数は異なっている.また,分析にあたり,

各変数の上下1%に属する値を有するサンプルは外れ値として分析から除外している.

分析に際し,どのような株主総会を活性化した株主総会として判別するかを定義しなくてはな らない.すべての株主総会の様子を観察することは困難であるし,議論の活発さの判断をしよう とすれば,主観的になることが避けられない.第4章で見たとおり,過去四半世紀の株主総会に おいては,所要時間の長時間化,出席者数の増加,そして質問数の増加という現象が如実に観察 される.特に,株式持ち合い構造と特殊株主が存在していた1990年代においては,所要時間の 長時間化が避けられてきたことを指摘した.そこで,本章での分析に際しては,株主総会所要時 間が長時間におよぶことを,株主総会の活性化の代理変数として利用する.

ここでは,最終的な分析対象となる2000年から2003年の間に開催された定時株主総会の所 要時間の平均が約40分であることを考慮し,各企業がある年に開催した定時株主総会の所要時

65 1991年から1999年の間に開催された株主総会については,その所要時間の平均を活性化の

判断に利用する.したがって,最終的な分析対象は,2000年から2003年の間に開催された定 時株主総会である.この時期は,第4章で検証した,株式市場全体として株主総会の活性化が 求められていた時期であるため,企業(経営者)の意識変化を最も明白に観察することを目的 としてこの時期を選択している.

83

間が,以下の二つの条件をいずれも満たす場合に,当該年の定時株主総会を「活性化(長時間化)

した株主総会」として判別している.

① その企業が 1991年から1999 年の間に開催した定時株主総会の平均所要時間の1.5 倍以 上である

② 60分以上である

なお,①の条件を判別するにあたり,1991 年から 1999 年の間に開催した定時株主総会の所 要時間のデータが7年分以上入手できない企業がある場合には分析対象から除外した.

6.2.2 業績予想の精度の尺度

業績予想の精度を検証するため,本章では,各年度の業績予想について,前年度の決算に係る 決算短信とともに公表された業績予想(x𝑡𝑡𝑓𝑓)と,その約一年後に公表される,当年度の決算に係 る決算短信において公表された利益数値(x𝑡𝑡𝑟𝑟)との差異を,精度の尺度として用いる.分析対象 とする業績予想値は経常利益と当期利益である.このほか,売上高についても予想値が公表され ているが,次章において検証する,実績値の調整の程度を推定することが困難であるため,ここ での分析から除外している.企業規模の差異に起因する影響を緩和するため,(6-1)式同様,そ の業績予想と同時に公表される資産合計の額でデフレートしている.なお,次章以降の分析との 整合性を保つため,連結決算における業績予想に限定して分析する.

業績予想の差異は,その性質上,正の差異となることもあれば,負の差異となることもある.

そのため,各企業の差異の平均を計算してしまうと,正の差異と負の差異が相殺し合ってしまう.

すなわち,差異の平均が0に近ければ精度が高い,というわけではなく,それぞれの差異が0に 近いかどうかで判断する必要がある.そこで,予想利益と実績利益の差異を資産合計でデフレー トした値を2乗し,その値を業績予想の精度として定義した.

( )

2 2



 

 −

=

t tr tf

t

ASSET x x DIFF 業績予想の精度

(6-2)

(6-2)式で計算される業績予想の精度が小さい(大きい)場合に,精度が高い(低い)というこ

84 とになる.

業績予想の精度に関する記述統計量を図表6-5に示す.

図表6-5 記述統計量(業績予想の精度)

6.2.3 クロスセクショナルの比較

本項では,業績予想の精度に関するクロスセクショナルの比較(仮説6-1)をおこなう.仮説 6-1は,ある年度の株主総会において活性化が観察された企業がその年に公表した業績予想の精 度が,同じ年にその他の企業が公表した業績予想の精度よりも高い,という仮説である.(6-2) 式で計算される,予想利益と実績利益の差異の2乗の大きさが,活性化企業において有意に小さ ければ仮説6-1が支持される.この値は事前に分布を想定することが困難であるため,Wilcoxon

平均 標準偏差 第1四分位 中央値 第3四分位

2000 750 0.1036 0.3245 0.0027 0.0170 0.0795

2001 750 0.0422 0.1732 0.0008 0.0055 0.0273

2002 751 0.0757 0.1876 0.0037 0.0185 0.0581

2003 752 0.2145 4.4577 0.0013 0.0075 0.0358

全体 3,003 0.1091 2.2401 0.0017 0.0111 0.0478

活性化の 年度

経常利益 標本数

平均 標準偏差 第1四分位 中央値 第3四分位

2000 750 0.1380 0.3044 0.0031 0.0192 0.1107

2001 750 0.0891 0.2818 0.0009 0.0061 0.3564

2002 751 0.0669 0.0669 0.0014 0.0081 0.0410

2003 752 0.0383 0.1174 0.0007 0.0038 0.0208

全体 3,003 0.0830 0.2343 0.0011 0.0080 0.0439

※ 見やすさのため,各数値は100倍してある.

※ 業績予想の精度は,①それぞれの予想利益から実績利益を引いた値を,②期末の資産   合計でデフレートし,③それを2乗して算出している.

活性化の

年度 標本数

当期利益

85 の順位和検定を用いて検証した.

図表6-6 業績予想の精度に関するクロスセクショナルの比較

図表6-6に分析結果を示している.分析の結果,経常利益についても1%水準で帰無仮説が棄 却され,対立仮説が支持された.すなわち,株主総会の活性化が観察された企業の公表する業績 予想の精度は,同じ年にその他の企業が公表する業績予想の精度よりも高い,という仮説6-1に 整合的な実証分析の結果が得られた.

ドキュメント内 非財務情報の企業価値 (ページ 89-93)