第 2 章 統合報告の方向性とその変遷
2.4 統合報告の現状
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は,統合報告における「組織に対する価値」と「他者に対する価値」という2つの価値が相互に 作用する,という捉え方と類似している.
伊藤(2012)はCSR活動を「将来的には企業の財務的な成果に結びつくインタンジブルズで ある」と捉え,CSR活動と財務的成果との関連性を「見える化」することの意義を主張している
(p. 63).そこでは,CSR活動を,環境価値,社会価値および経済価値を創造するツールと位置
付けた上で,企業の価値を高めるための会計である管理会計においてCSR活動を研究する重要 性を説いている.BSC によって提示された思想を発展させた形での非財務情報の開示スキーム として統合報告を扱う研究を実践する研究者が第3のグループである.
特許庁(2010)では,わが国企業が「知的資産を適正に表現・開示していくための枠組みにつ いて」検討するため(p. ii),知的資産情報を包含する非財務情報の開示の実態を調査し,非財務 情報開示の目的について,(1)「財務報告を補完」,(2)「CSRの議論の延長としての財務情報 と非財務情報の統合」,(3)「財務情報を補完するリスク情報を開示させる意味での・・開示対 象を拡充」という3種類があるとまとめている(p. vii,番号は筆者).さらに,外部報告目的だ けではなく「内部管理」目的での利用も考えられるとしている(表58,p. 216).このうち,(1)
と(3)は同様の趣旨であると考えられるので,実質的には全体で3つの目的が存在することに なる.本節で見た3つのグループはこのそれぞれに対応していると言える.
なお,本論文は,基本的に第1のグループの立場,すなわち財務資本提供者を主たる情報利用 者として想定し,財務資本提供者の意思決定に有用な情報としての非財務情報の開示方法を探求 する,という立場を採る.
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する統合報告書では,同社にとっての,価値創造のプロセスや多様な資本の詳細が記されている.
同社の2014年度版の統合報告書33では,価値創造のプロセス(ビジネスモデル),それぞれのプ ロセスにおいて6つの資本がどのように利用されているか(インプット,アウトプット,アウト カムの関係がどうなっているか),さらに同社にとっての6つの資本として何を想定しているか,
などを示している.
一方,統合報告書という名称の報告書を開示して発行していても,その開示内容が伝統的な財 務報告と従来のCSR報告書の内容を合わせたにとどまる企業も多い.実際,阪(2015)の調査 によれば,約 6割の統合報告書がGRIガイドラインに準拠した項目を開示しているという(p.
101).本章第1節(2.1)で検討したとおり,GRIガイドラインは,財務資本提供者以外のステ ークホルダーに関する情報を,財務資本提供者以外のステークホルダーへ報告することを目的と して策定されているため,財務資本提供者を主たる報告対象として想定するIRフレームワーク の下で報告されるべき情報を規定しているとは限らない.したがって,GRIガイドラインに準拠 した統合報告書は,本来の統合報告書の要件を満たしていない可能性がある.また,野村インベ スター・リレーションズの調査 34においても,導入企業共通の課題として,「ビジネスモデルの 表し方や非財務情報の取り入れ方がわからない」ことと,「投資家が本当に求めている情報を提 供できているのかが分からない」ことが挙げられている.
これまで見てきたように,GRI ガイドラインで開示が推奨されているそれぞれの項目がどの ようなプロセスを経てサステナビリティに結びつくのか,すなわち,掲げられている項目の開示 がその企業のサステナビリティを情報利用者に理解させるために,なぜ必要であるのか,という 点についてはガイドラインではほとんど記述されていない.今後,より実効性のある形での統合 報告書を作成しようとすれば,IR フレームワークにおいて主たる情報利用者として想定されて いる財務資本提供者の意思決定に有用な情報が何であるのかを検討することは必要不可欠であ る.
また,開示項目の決定に限らず,統合報告に関する研究はまだ限定的である.今後の研究課題 を提案したDeVilliers et al. (2014)においても,統合報告の自発的開示をおこなう動機や,それ に対する株式市場の反応,(特に財務資本提供者以外の)各ステークホルダーにとっての企業価
33 「昭和電機統合報告書2014(知的資産経営報告書)」
(http://www.showadenki.co.jp/news/report2014.pdf),2015年5月15日閲覧.
34 野村インベスター・リレーションズ「企業の価値創造プロセスを伝える『統合報告とは』
(2)―日本の統合報告の現状と策定のポイント―」( http://www.nomura-ir.co.jp/irweb/column/integratedreport02.html),2015年5月15日閲覧.
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値の測定方法,開示内容に対する保証のあり方,など様々な視点からの研究が必要であることを 指摘している.さらに,世界に先駆けて統合報告書の開示を義務付けた南アフリカにおける統合 報告書委員会(Integrated Reporting Committee)の調査35においても,IRフレームワークの 解説,事例研究,および実務への提案などの研究が多く,実証分析としては,DeKlerk and DeVilliers (2012)やKosovic and Patel (2013)などに限られていることが分かる.これらの実証 分析も,非財務情報開示をおこなうことと株価との関連性を検証しており,個別の開示項目につ いての言及はない.このような状況を所与とすれば,個別の開示項目の有用性を実証分析の立場 から明らかにしていくことには一定の意義が存在すると考える.
35 Summary of Papers on Integrated Reporting
(http://www.integratedreportingsa.org/Portals/0/Documents/Summary_of_Papers_on_Integr ated_Reporting.pdf, 2015年9月23日閲覧).
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