第 8 章 定時株主総会の活性化と株式市場の反応
8.4 第 4 章から第 8 章までのまとめ
第4章から第8章までにおいて,定時株主総会に関する状況の変遷を振り返ったうえで,株主 総会の活性化が観察された企業における会計情報の特徴や株式市場の反応を実証的に分析した.
まず,第4章では,わが国における定時株主総会が,1990年代には形骸化していたこと,そ れが1990年代後半から2000年代前半にかけて活性化(所要時間の長時間化,出席者数(割合)
の増加,質問数の増加)し,現在までにそれが安定していることを示した.また,活性化の背景 として,特殊株主(総会屋)の排除に成功したことと,株式持ち合い構造の縮小に伴う株主の多 様化,特に外国人株主の増加によって,経営者が株主に真摯に向き合う必要性が増しつつあった ことを明らかにした.
続く第5章では,全体として株主総会が形骸化していた1990年代においても活性化が観察さ れていた企業を対象に,活性化が観察された企業の特徴と,活性化が観察された翌年以後の株主 総会および収益性の変化を検証した.分析の結果,規模が大きく,業績が悪い企業において株主 総会の活性化が観察されることがわかった.さらに,株主総会の活性化が観察された企業では,
その後の収益性が改善すること,そして,引き続き株主総会の活性化が観察されることを確認し た.この結果は,これらの企業において株主と企業との対話が機能していたことを意味すると結 論付けた.すなわち,日本版スチュワードシップ・コードの目指す状況がすでに体現されていた 企業と言えるだろう.また,第6章以降において株主総会活性化の指標として用いた,所要時間,
出席者数(割合),質問数といった代理変数が,代理変数として機能することも確認することが できた.
第6章および第7章では,徐々に活性化した企業が増えてきた2000年代前半を対象に,株主 総会の活性化が観察された企業の公表する業績予想の精度が高いこと,そしてその精度の高さが 裁量的発生項目を用いた経営者の裁量行動(実績値を予想値に近づける行動)によるものではな いことを確認した.すなわち,これらの企業では,本来の意味での業績予想の精度の高さが観察 された.
最後に,第8章では,精度の高い業績予想を公表する企業に対する株式市場の反応について,
二つのアプローチを用いて観察した.分析の結果,過去の情報である当期利益の変化よりも,将 来についての見通しを示す情報である次期予想利益に対して株価が反応していること,株主総会 活性化の指標と株式リターンの同調性との間には負の関係が存在することを確認した.後者の分 析結果は,Morck et al. (2000)およびJin and Myers (2006)の主張にしたがえば,株主総会の活 性化の程度と,その企業の開示するディスクロージャー全般の有用性の高さが関連を有すること
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を示している.すなわち,株主総会の活性化が観察される企業では,ディスクロージャー全般の 有用性が高い,ということである.
以上の分析を通じ,株主総会の活性化の程度が,企業のディスクロージャーの有用性と関連性 を有していること,そして,株式市場もそれを織り込んでいることが明らかになったものと考え る.そこで,統合報告において開示すべき非財務情報の一つとして,株主総会関連情報を提案す る.
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