• 検索結果がありません。

長時間総会後の収益性

ドキュメント内 非財務情報の企業価値 (ページ 77-81)

第 5 章 定時株主総会活性化企業の特徴と活性化後の収益性

5.2 長時間総会後の収益性

次に,長時間総会を開催した企業について,長時間総会後の収益性を検証する.先行研究にお いては,株主によるモニタリング機能が,企業の収益性改善に寄与するか,という問いに対して は懐疑的な結果が多い.Wahal (1996)は,米国企業の年金基金による株主行動の帰結を分析した.

その結果,年金基金によって標的とされた企業において,標的とされた時点での異常リターンが 観察されるものの,長期的には業績が改善しないことを確認した.Smith (1996)も,カリフォル ニア州公務員退職年金基金(The California Public Employees’ Retirement System: CalPERS) に標的とされた企業について,業績が改善しなかったとの結論を得ている.一方,Prevost and

Rao (2000)は,二度以上にわたって標的とされた企業が,株式市場から否定的な評価を受けてい

ることを示している.わが国においては,西崎・倉澤(2003)による分析が,外部の大口株主は 当該企業の企業価値に正の影響を与えるが,個人株主は負の影響を与えることを示唆する結果を 提示しており,少なくとも当時の状況としては,株主行動が企業価値向上に役立つとの確固たる 認識があったとは言い難いことがわかる.ただし,これらの先行研究は株主総会とは異なる文脈 のもとでの分析であり,株主総会活性化後の特徴に関する分析においては異なる結果が観察され る可能性もある.本節では,株主総会活性化の特徴について,活性化以降の株主総会の様子,お よび活性化以降の収益性,という二つの視点から分析する.

ここでは,Maddala (1983)にしたがい,2段階回帰を用いて分析をおこなう.これは,たとえ ば,ある年(1年目)の「長時間総会」の翌年(2年目)に株主総会のさらなる長時間化が観察 されたとしても,それが,1年目の長時間総会を引き起こした業績悪化の影響によるものなのか,

長時間総会そのものによる経営者や株主の意識変化の影響によるものなのかを明らかにするた めである.別の言い方をすれば,2年目の株主総会の所要時間に影響を与えるであろう変数のう ち,1年目の長時間総会をもたらしたと思われる変数をコントロールすることで,長時間総会の,

いわばピュアな影響を抽出する.

まず,第一段階として,前節で行った Probit 分析と同様の分析をおこなうことで,長時間総 会が生じる確率を求める.次に,第二段階として,t年度の株主総会が長時間総会であったか否 かを示すダミー変数を説明変数として,t+1年度の株主総会の特徴や収益性に対する説明力を検 証する.その際,第一段階で求められた逆ミルズ比(inverse Mill’s ratio)をコントロール変数 に加えることで,長時間総会をもたらす,その他の要因をコントロールする.さらに,前節の分 析において用いたコントロール変数を引き続きコントロール変数として用いたモデルを検証す る.したがって,株主総会の特徴の変化を検証するための分析モデルは以下の(5-2)式となる.

70

Δ株主総会の特徴=α+β1長時間総会ダミー+β2Δ株式時価総額

+β3ΔROA+β4Δ損失ダミー+β5Δ株価リターン

+β6Δ株式数+β7Δ総資産

+β8逆ミルズ比+ε (5-2)

個別企業レベルでのコントロール変数設定を行う代わりに,業種ダミーと時系列トレンド項を 加える(5-3)式の検証もおこなう.

Δ株主総会の特徴=α+β1長時間総会ダミー+β2時系列トレンド

+β3逆ミルズ比+ε (5-3)

ここでは,いずれもβ1に対する回帰係数が主たる観察対象となる.なお,株主総会の特徴とし ては,所要時間のほか,出席者数,出席者数割合(出席者数を株主総数で除した値),質問数,

集中日開催ダミーの5つについて検証する.

収益性の変化についても同様に検証する.収益性の変化に関する分析モデルは以下の(5-4) 式および(5-5)式のとおりである.

Δ収益性=α+β1長時間総会ダミー+β2Δ株式時価総額

+β3Δ株式数+β4Δ総資産

+β逆ミルズ比+ε (5-4)

Δ収益性=α+β1長時間総会ダミー+β2時系列トレンド

+β3逆ミルズ比+ε (5-5)

分析結果を図表5-2に示している.個別企業に関する変数を用いてコントロールした場合(パ ネルA)も,業種ダミーと時系列トレンドを用いてコントロールした場合(パネルB)もほぼ同 様の結果を示している.分析の結果,一部で統計的に有意でない結果が見られるものの,長時間 総会が一たび生じると,その翌年の株主総会においては,出席者数,出席者数割合,および質問 数が増加する.かつ,所要時間がさらに長くなり,集中日に開催される可能性が低くなる,とい

71

う状況が観察されることが分かった61.また,収益性の変化に関する分析結果を図表5-3に示し ている.分析の結果,長時間総会が観察された企業では,その翌年の収益性が改善することが観 察された.

これらの分析結果からは,株主総会の所要時間,出席者数(割合),質問数という,次章以降 で,経営者が株主と意思疎通しようとする姿勢の代理変数が,代理変数として機能し得ること,

また相互に類似の指標であることを示唆している.また,ある年に長時間総会が観察された企業 が,翌年に集中日開催をおこなわなくなる傾向があるという分析結果は,最初の年の長時間総会 が,特殊株主の妨害によるものではなく(その場合は,むしろ翌年に集中日開催を目指すはずで ある),経営者の意思によるものであるという仮説と整合的である.さらに,収益性の改善とい う分析結果が観察されたことも,最初の年の長時間総会が経営者の意思に基づく変化である(特 殊株主が自らへの利益供与にのみ関心を有していることを前提とすれば,企業の収益性に関する 要求はしないと考えられる)という推察を支持している.

61 なお,翌年も長時間総会であるために所要時間が長い状況が観察される,という状況を避け るため,2年連続して長時間総会が観察される場合には分析から除外している.

72

図表5-2 長時間総会以降の株主総会の特徴

パネルA 個別企業の変数によりコントロールした分析

Δ出席者数 Δ出席者数割合 Δ質問数 Δ所要時間 Δ集中日開催

ダミー

切片 -0.53 -0.04 0.05 1.31 0.00

(-0.78) (-3.83) (2.76) (5.16) (0.10)

長時間総会ダミー 115.79 1.14 2.63 25.64 -0.32

(4.32) (2.81) (3.45) (2.40) (-2.30)

Δ株式時価総額 3.18 0.12 -0.01 1.09 0.01

(3.37) (8.94) (-0.45) (3.10) (1.37)

ΔROA -13.51 -0.13 -0.04 2.32 -0.11

(-1.95) (-1.30) (-0.20) (0.89) (-3.22)

Δ損失ダミー 1.28 0.01 0.05 1.81 -0.01

(1.41) (1.02) (1.83) (5.36) (-2.54)

Δ株価リターン -2.11 -0.06 -0.02 -1.81 -0.01

(-3.09) (-6.60) (-1.04) (-7.12) (-3.13)

Δ株式数 0.64 -0.09 0.01 -0.02 0.00

(2.01) (-19.50) (0.60) (-0.17) (-2.80)

Δ総資産 3.08 -0.10 0.06 -2.55 0.01

(0.88) (-2.10) (0.58) (-1.99) (0.44)

逆ミルズ比 -41.62 -0.41 -1.06 -10.58 0.12

(-3.86) (-2.58) (-3.45) (-2.46) (2.19)

N 9,416 9,415 9,420 9,420 9,420

パネルB 業種ダミーと時系列トレンドによりコントロールした分析

Δ出席者数 Δ出席者数割合 Δ質問数 Δ所要時間 Δ集中日開催

ダミー

切片 -4.04 -0.31 0.53 2.94 0.05

(-0.33) (-1.75) (1.53) (0.66) (0.86)

長時間総会ダミー 113.28 1.00 2.26 7.80 -0.26

(4.09) (2.40) (2.94) (0.69) (-1.88)

時系列トレンド -0.10 -0.01 0.03 0.60 -0.01

(-0.64) (-2.63) (7.85) (10.43) (-11.35)

逆ミルズ比 -40.76 -0.37 -0.92 -3.67 0.10

(-3.67) (-2.18) (-2.98) (-0.80) (1.83)

N 9,416 9,415 9,420 9,420 9,420

※ カッコ内にはZ値を示している.

※ 各変数の意味は以下のとおり.長時間総会ダミーは,その企業の1991年~2000年における株主総会の平均所要時間の1.5倍    より長く,かつ30分以上である場合に1をとるダミー変数である.時系列トレンドは分析対象期間における各変数の変化を計算    している.逆ミルズ比は第一段階の回帰分析(詳細は本文参照)において計算された値である.

※ Δ出席者数割合に対する係数は見やすさのために100倍して表示している.

※ 業種ダミーに対する係数は省略している.

73

図表5-3 長時間総会以降の収益性

ドキュメント内 非財務情報の企業価値 (ページ 77-81)