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企業の環境対策へのコミットメントとディスクロージャー

ドキュメント内 非財務情報の企業価値 (ページ 151-155)

第 9 章 企業の環境対策活動と企業価値

10.1 企業の環境対策へのコミットメントとディスクロージャー

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第 10 章 企業の環境対策へのコミットメントと企業価値

前章では,企業のCO2排出量と企業価値の関係について実証分析をおこなった.分析の結果,

CO2排出量と企業価値との間には負の関係(CO2排出量の多い企業の企業価値は低い)が観察さ れた.この結果は,CO2排出量総量を用いたクロスセクショナル分析,売上高一単位あたりCO2

排出量を用いたクロスセクショナル分析,さらに売上高一単位あたり CO2排出量の変化に基づ く分析のいずれにおいても同様であった.

本章では,企業が将来の環境負荷低減に向けたコミットメントを示している場合に,株式市場 がそれを考慮した評価をおこなうか否かを検証する.Campbell et al. (2003) は,化学物質を多 く排出していても,財務諸表に環境負債をきちんと認識したり,関連情報を開示したりする企業 については,投資家が企業に抱く将来の不確実性を低減させ,株価の下落の程度を緩和する効果 があることを示している87.それを前提とすれば,現時点において環境負荷が高い企業であって も,将来の環境負荷低減に向けたコミットメントを設定し,それに関するディスクロージャーを おこなうことによって,前章で検証した,CO2排出量と企業価値との負の関係が弱くなると予想 されるため,これについて実証分析をおこなう.

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ISO14001の認証取得,の5つを利用し,現在の環境負荷を所与とした場合に,将来の環境対策

へのコミットメントに関するディスロージャーが企業価値に与える影響を検証する.本章で検証 する仮説は以下の仮説10-1で表される.

仮説 10-1:将来の環境対策に関するコミットメントを開示する企業では,CO2排出量と株式時 価総額との間の負の関係が弱い

10.1.1 カーボン・ディスクロージャー・プロジェクトのアンケート

投資家や環境関連団体らによるコンソーシアムである CDSB は,企業に対し,環境対策に関 する情報を投資家の立場から呼びかけている.CDSB の作成した「気候変動報告フレームワー

ク」(CDSB 2010)では,環境対策情報を制度開示に取り入れることを提案している.CDSBの

技術作業部会のメンバーである日本公認会計士協会も,「投資家向け制度開示におけるサステナ ビリティ情報の位置づけ(経営研究調査会研究報告第38号)」を公表し,環境対策活動に関する 情報を含むサステナビリティ情報の制度開示へ向けた取り組みを提案している.CDSB の事務 局である CDP は,2002 年以降,企業に対し環境対策活動に関するアンケート調査を毎年実施 し,その回答内容を公表している.Kolk et al. (2008) は,CDPによって情報開示が促進された ことについて,投資家からの支持が得られていることを主張している(p. 741).

CDP へのアンケート回答結果が開示されることによって,投資家は,その企業の今後の環境 対策に関する一定の理解をすることが可能になる.仮に,その時点で CO2排出量が多かったと しても,CDPへのアンケートへ回答することによって,その企業が排出するCO2から生じる将 来のリスク要因が特定されるとともに,排出削減計画・目標・戦略等が示されるため,投資家も 信頼感を持って,その企業の将来の CO2排出量の削減,およびそれに影響される業績を推測す ることが可能となる.その結果,前章で観察された CO2排出量と企業価値との負の関係は弱ま ると考えられる.これを反映させた仮説は以下の仮説10-1aとなる.

仮説10-1a:CDP の実施するアンケートに回答する企業では,CO2排出量と株式時価総額との

間の負の関係が弱い

10.1.2自主参加型国内排出量取引制度(JVETS)への参加

JVETSは,環境省が2005年度から実施した制度であり,2013年11月に終了するまで,7期

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間の事業(最終の採択は2011年度)がおこなわれた88.その目的は,①国内排出量取引制度に 関する知見・経験の蓄積と,②温室効果ガスの確実かつ費用効率的な削減,とされている.JVETS は自主的な参加を前提とし,参加する事業者が CO2排出量の削減目標を設定したうえで,排出 量取引も活用した目標達成を目指す制度である.7期の事業期間中に 367事業所(のべ 389事 業所)が参加した.1期が3年で実施され,設備整備期間とされる初年度に参加者の採択と基準 年度排出量の算定・検証が,排出削減対策実施期間とされる2 年度目にはCO2排出量の削減対 策と排出量のモニタリングがおこなわれる.そして,調整期間とされる3年度目に,排出量の算 定・検証をおこなったうえで,必要に応じて排出枠の取引を通じて排出削減目標を達成する,と いう仕組みである.

この制度に自主的に参加しようとする企業については,相応の確信を持って,将来の CO2排 出量削減が見込まれることが想定されるため,参加した事業者については,前章で観察された CO2排出量と企業価値との負の関係は弱まると考えられる.これを反映させた仮説は以下の仮説

10-1bとなる.

仮説10-1b:JVETSに参加する企業では,CO2排出量と株式時価総額との間の負の関係が弱い

なお,JVETSにおいては,(目標保有参加者タイプAと呼ばれる)一部の事業者に対して,目

標達成時の排出枠の売却益を目指すことが可能なだけではなく,排出抑制設備の整備に対する補 助金も支給される制度となっていた.この場合,JVETSに参加するという表明は,環境対策活 動に対する将来のコミットメントを示したものではなく,設備補助の申請の意味合いになってし まう可能性がある.そうであれば,株式市場が,JVETSを環境対策に関する企業のコミットメ ントとは評価せず,仮説10-1bを支持する実証結果にはならないことが想定される.また,専ら 排出枠の取引のみを行なう(取引参加者と呼ばれる)事業者も参加したが,商社を中心とするそ れら事業者は,自社の CO2排出量を削減するインセンティブを有しないため,本章での分析対 象とはしない.

88 本節におけるJVETSの制度の内容等については,環境省の「自主参加型国内排出量取引制 度(JVETS)総括報告書」(http://www.env.go.jp/earth/ondanka/det/jvets/gr-main.pdf,2015 年5月17日閲覧)に基づいている.

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10.1.3国内排出量取引制度への参加

2008年10月には,国内排出量取引制度(排出量取引の国内統合市場の試行的実施)が開始さ れた89.国内排出量取引制度は,企業等が設定した削減目標の超過達成分(排出枠)や,中小企 業や森林バイオマス等に係る削減活動に追加的な削減分であるクレジットを取引するための制 度である90.これにより,市場メカニズムを活用して,技術開発や削減努力を促すことを目指し ている.2008 年度目標設定参加者については,521 社が参加申請をおこなった.試行排出量取 引スキームは,補助金を支給するJVETSとは異なり,純粋に自主目標設定と超過達成分の売却 を促す制度であるため,将来の CO2排出量削減へのコミットメントを示す機会として考えられ る.したがって,同制度に参加した事業者については,前章で観察されたCO2排出量と企業価値 との負の関係は弱まると考えられる.これを反映させた仮説は以下の仮説10-1cとなる.

仮説10-1c:国内排出量取引制度(JVETSを除く)に参加する企業では,CO2排出量と株式時価

総額との間の負の関係が弱い

10.1.4 自主的な中期計画の策定・ISO14001認証の取得

現状での環境負荷の高い企業が,排出量取引制度への参加と同様に,将来の削減に向けたコミ ットメントを示す方法として,自主的にCO2排出量削減計画を策定する方法がある.特に,中期 計画を策定して具体的な対策を提示できる企業は,将来的に CO2排出量の削減を達成できる可 能性が高いと考えられる.

また,CO2排出量を削減するためには,企業全体で,かつ継続的な取り組みが必要であり,そ のためには環境マネジメントシステムの構築が求められる.このことから,環境マネジメントシ

89 本節における国内排出量取引制度の概要およびその成果については,環境省「排出量取引の 国内統合市場の試行的実施―国内排出量取引制度―」

(http://www.env.go.jp/earth/ondanka/det/dim/trial.html,2015年5月17日閲覧),環境省

「排出量取引の国内統合市場の試行的実施について」

(http://www.env.go.jp/earth/ondanka/det/dim/trial/doc081021.pdf,2015年5月17日閲覧)

および経済産業省・環境省「試行排出量取引スキーム2008年度目標設定参加者実績等につい て」(http://www.env.go.jp/earth/ondanka/det/dim/trial/result-fy08_0912.pdf,2015年5月17 日閲覧)に基づいている.

90排出量取引に関する財務会計上の取り扱いについても新たな制度設計がなされた.本試行を 受けて,2009年6月には,企業会計基準委員会から,改正実務対応報告第15号「排出量取引 の会計処理に関する当面の取扱い」が公表されている.その具体的な内容および留意点につい ては,阿部(2009)を参照のこと.

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