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本章のまとめと今後の課題

ドキュメント内 非財務情報の企業価値 (ページ 148-151)

第 9 章 企業の環境対策活動と企業価値

9.5 本章のまとめと今後の課題

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ることからサンプル数も多く,またサンプリング・バイアスの問題も生じていないため,より一 般的な状況を確認したと言える.

一方で,本章における分析にも課題が残されている.その一つは情報源としての有用性である.

温対法に基づく CO2排出量情報の開示については,各年度の終了後,国による集計結果が公表 されるまでに時間を要し,初年度の集計結果が公表された2008年3月であった.その後も,集 計結果の公表までに要する時間が延び続け,2012年度の排出量の集計結果は2015年6月に公 表されている.本章の分析結果は,各年度の終了後ただちに,投資家がCO2排出量情報を株価形 成に織り込んでいることを示唆している.したがって,本来の情報源は国による集計結果以外の ものであることが想定される.その情報源に基づく分析をおこなうことで,さらに精緻な分析が 可能になると考える.

また,因果関係の問題も残されている.株式時価総額が高く,資金調達に余裕のある企業が環 境対策を進めている(CO2排出量が少なくなる)という因果関係も可能であるため,コントロー ル変数を増やすなどの対応を検討したい.さらに,年度による差異の分析も必要だと考える.環 境対策活動については,国際的な状況も変化し続けているし,わが国の対応も年度ごとに異なっ ている.本章における分析では,年度ダミー変数を回帰分析に組み込むことで,年度間の違いを 考慮しているが,その違いが何に起因するのかに関する分析も必要であろう.

さて,本章での分析結果は,各企業の環境負荷の高さに対し,株式市場が負の評価を与えてい ることを示している.しかし,各企業の環境負荷の高さは,環境対策活動を通じて改善すること もある(もちろん,逆の場合もある).企業価値がその企業の将来の利益やキャッシュフローに 基づいて決まることを前提とすれば,環境負荷の高さについても,評価時点における環境負荷の 高さだけではなく,将来における改善(または悪化)の方向性に基づいた価格づけがなされると 考えるのが自然である.すなわち,現状の環境負荷が高い企業であっても,将来の環境負荷低減 に向けたコミットメントを示しているのであれば,株式市場がそれを考慮した評価をおこなう可 能性がある.

この場合,企業が将来の環境対策に関するコミットメント(将来の環境負荷を低減させるとす る意思表明)に関する開示をおこなうことによって,仮説9-1で検証した,CO2排出量と株式時 価総額との負の関係が弱くなると予想される.この点については,企業の将来の環境対策に関す るコミットメントと考えられる複数の指標を用い,そのようなコミットメントの開示をおこなっ た企業における CO2排出量と株式時価総額との負の関係について次章で検討する.また,仮説 9-1に関する実証分析の結果については,CO2排出量削減へ向けた企業の行動が,少なくとも短

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期的な利益やキャッシュフローの減少をもたらすであろうことを考えれば,必ずしも直感的に理 解可能ではないかもしれない.この点について,第11章では,サステナビリティ・バランスト・

スコアカード(sustainability balanced scorecard: SBSC)の考え方を用いて,CO2排出量を削 減へ向けた企業の行動が企業価値の高さに結びつくまでの経路分析をおこなう.

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第 10 章 企業の環境対策へのコミットメントと企業価値

前章では,企業のCO2排出量と企業価値の関係について実証分析をおこなった.分析の結果,

CO2排出量と企業価値との間には負の関係(CO2排出量の多い企業の企業価値は低い)が観察さ れた.この結果は,CO2排出量総量を用いたクロスセクショナル分析,売上高一単位あたりCO2

排出量を用いたクロスセクショナル分析,さらに売上高一単位あたり CO2排出量の変化に基づ く分析のいずれにおいても同様であった.

本章では,企業が将来の環境負荷低減に向けたコミットメントを示している場合に,株式市場 がそれを考慮した評価をおこなうか否かを検証する.Campbell et al. (2003) は,化学物質を多 く排出していても,財務諸表に環境負債をきちんと認識したり,関連情報を開示したりする企業 については,投資家が企業に抱く将来の不確実性を低減させ,株価の下落の程度を緩和する効果 があることを示している87.それを前提とすれば,現時点において環境負荷が高い企業であって も,将来の環境負荷低減に向けたコミットメントを設定し,それに関するディスクロージャーを おこなうことによって,前章で検証した,CO2排出量と企業価値との負の関係が弱くなると予想 されるため,これについて実証分析をおこなう.

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