第 4 章 定時株主総会の役割と現状
4.2 株主総会の現状
前節において株主総会の重要性を明らかにした.その一方,わが国では,特殊株主対策を主た る理由として,形骸化した株主総会がむしろもてはやされた時代もあった.本節では,定時株主 総会の所要時間,質問数,および出席者数の変遷を辿ることで,わが国における定時株主総会の 役割が,1991年から2014年までの24年間(ただし,2014年は11月末日までに開催された株 主総会のみを集計)でどのように変わって来たのかを検討したい.なお,本節以降における株主 総会所要時間等のデータは,商事法務『資料版商事法務』から抽出したものである.
図表4-1 は株主総会所要時間(全社平均)の推移をグラフにしたものである.これを見ると,
1990年代末ごろから10年ほどかけて所要時間が延び続け,30分弱であった平均所要時間が60 分弱へと推移したことが分かる.所要時間が延び始めた時期は,株式持ち合いの解消が始まった
56 同上,75頁.
58
時期とも符合するし,特殊株主の出席者数の減少の流れとも一致する57.
図表4-1 株主総会所要時間(全社平均)の推移
出典:『資料版商事法務』のデータを基に筆者作成
57 警察庁暴力団対策課広報資料(2004年6月24日付)によれば,1994年に開催された株主 総会に出席した総会屋の人数が1,052人であったのに対し,2003年に開催された株主総会では 195人の出席にまで減少している.同じ期間における長時間化が観察された株主総会(ここで は,当該企業が1991年から2001年までに開催した株主総会所要時間の平均の1.5倍より長 く,かつ所要時間が30分以上であった株主総会を長時間化として定義している)の数は,13 件から276件へと増加している.
0 10 20 30 40 50 60
所要時間(分)
株主総会開催年
株主総会所要時間の推移
59
図表4-2 株主総会所要時間ごとの割合
出典:『資料版商事法務』のデータを基に筆者作成
平均だけでなく,それぞれの所要時間の割合について観察しても同様の傾向が見て取れる.図 表4-2は所要時間ごとの割合の推移である.見やすさのため,同様の傾向を有する8年ごとにま とめて表示している.これを見ると,1991~1998年においては主流(55.2%)であった21分~
30分という株主総会は,2007~2014年においては17.1%にまで減少している.その代わりに,
31分~40分という株主総会は,1991~1998年の12.5%から2007~2014年の23.8%へとほぼ 倍増している.さらに,1時間を超える総会については,3.8%であった1991~1998年と比べる
と,2007~2014年には28.6%へと激増し,「稀なケース」から「よくあるケース」へと変化を遂
げたことがわかる.
もちろん,所要時間の増加のみを以て定時株主総会における意思疎通が活発になったと判断す ることに対しては異論もあるだろう.問題は,株主総会の場で,経営者(企業)と投資家との間 の実り多い対話がなされているかどうかである.そこで,株主総会で発せられた質問数の推移を 見てみたい.
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
80%
90%
100%
1991~1998 1999~2006 2007~2014
株主総会所要時間ごとの割合
120分~
91分~120分 61分~90分 51分~60分 41分~50分 31分~40分 21分~30分 11分~20分
~10分
60
図表4-3 株主総会における質問数(全社平均)の推移
出典:『資料版商事法務』のデータを基に筆者作成
図表4-4 株主総会における質問数ごとの割合
出典:『資料版商事法務』のデータを基に筆者作成
0 1 2 3 4
質問数(件)
株主総会開催年
株主総会における質問数の推移
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
80%
90%
100%
1991~1998 1999~2006 2007~2014
株主総会における質問数ごとの割合
4~ 3 2 1 0
61
図表4-3は図表4-1と同様の推移を質問数について表したものである.元々の質問数自体が多 いわけではないのでドラスティックな変化が見られるわけではないが,それでもほぼ単調に増加 を続けていることが見て取れる.図表4-4を見ると,20年前には8割を超える企業の株主総会 において質問がまったく発せられていなかったことが分かる.近年においても質問の出ない株主 総会が約3割残っているものの,4問以上質問の出された株主総会の割合は,1991~1998年の
2.6%から,2007~2014年の30.3%にまで増えていることが分かる.したがって,所要時間の増
加という現象は,「対話」の増加に因るところが大きい 58.出席者数についてグラフ化した図表 4-5でも同様の傾向が見られる59.
58 所要時間を被説明変数,質問数を説明変数とする単回帰分析(所要時間=α+β×質問数)
もおこなっている.株主総会が,経営者による説明と質疑応答のみから構成される,という単 純な仮定を置けば,αが経営者による説明部分の所要時間の平均値,β×質問数が質疑応答の 所要時間の平均値を示すことになる.図表4-2や図表4-4と同じ8年ごとに分けて分析したと ころ,最初の8年間(1991~1998年)と最後の8年間(2007~2014年)とでは,説明部分の 所要時間も質疑応答部分の所要時間も延びていることが観察された.
59 出席者数については,そもそもの株主数や,その背景にある企業規模によっても左右される ため,株主数に占める出席者数,すなわち出席者数割合についても観察し,同様の傾向が見ら れることを確認している.したがって,図表4-5に示された現状が,大規模企業の影響を強く 受けているわけではない.
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図表4-5 株主総会出席者数(全社平均)の推移
出典:『資料版商事法務』のデータを基に筆者作成
このように,株主総会に期待される役割は,時代とともに大きく変化してきたことがわかる.
1990 年代終わりまでは,強固な株式持ち合いを背景に,そもそも互いの信頼関係(または無干 渉)によって経営方針等の説明をする必要がなかっただろうし,仮にその必要があったとしても,
株主総会という場を利用する理由はなかった.さらに, 特殊株主の存在もあって,企業が株主 総会を長時間化させるインセンティブはまったく存在しなかった.むしろ,株主総会が長時間化 するということは,特殊株主のコントロールに失敗したことを意味するので,ネガティブにとら えられることすらあった時代と言える.
その後,1990年代終わりから2000年代前半にかけて,株主総会の様子に変化が生じる.外国 人株主の増加によって,株主総会という最も公式な場での経営方針の説明が行われることが要請 されるようになり,特殊株主対策の強化がそれを促進した.結果として,年を追うごとに,株主 総会の所要時間の平均が延び,また質問数や出席株主数の増加をもたらした.また,単純な平均 だけではなく,所要時間および質問数ごとの企業数の分布という点から観察しても,所要時間の
0 50 100 150 200 250 300
出席者数(人)
株主総会開催年
株主総会出席者数の推移
63 短い企業や質問数の少ない企業が減ったことがわかる.
2000年代後半以降は,ほぼすべての企業において株主総会の役割が再構築された.1990年代 では過半数の企業がしめていた「30分以下」の株主総会は20%以下にまで減少した.株主も企 業も慣れてきたことから,所要時間や質問数の増加には歯止めがかかったが,今なお出席者数の 増加は続いている.
次章以降では,このような株主総会における経営者の姿勢の変化が企業業績や業績予想にどの ような変化をもたらしたか,また,株式投資家が経営者の姿勢の変化に対してどのような反応を 見せているかについて実証的に検証する.
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