第 9 章 企業の環境対策活動と企業価値
10.4 まとめと今後の課題
前章では,現時点のCO2排出量と企業価値との負の関係,すなわちCO2排出量の多い企業の 企業価値が有意に低いことを確認した.しかし,企業価値はその企業の将来に基づいて評価する のであるから,現時点でのCO2排出量が多かったとしても,将来のCO2排出量削減に関する企 業のコミットメントが示される場合には,その負の関係が緩和される可能性があることを指摘し た.
本章では,企業のコミットメントとして,CDPの実施するアンケートへの回答, JVETSへ
の参加,JVETS以外の国内排出量取引制度への参加,CO2排出量削減中期計画の策定,そして
ISO14001の認証取得,の5つを利用し,現在の環境負荷を所与とした場合に,将来の環境対策
へのコミットメントに関するディスロージャーが企業価値に与える影響を検証し,JVETS への
予想符号
切片 +/- 0.51 0.49 1.06 1.10
(4.28)** (4.10)** (6.85)** (7.07)**
純資産簿価 + 0.56 0.58 0.47 0.47
(9.49)** (9.74)** (7.93)** (7.85)**
経常利益 +/- 0.13 0.13 0.47 0.49
(3.73)** (3.81)** (11.97)** (12.53)**
次期予想利益 + 0.17 0.17 0.07 0.07
(4.65)** (4.91)** (2.92)** (2.76)**
CO2排出量 - -0.02 -0.03 -0.03 -0.03
(-1.37) (-1.94)* (-2.23)* (-2.17)*
企業のコミットメント + -0.15 0.24 0.23 0.20
(-1.80) † (4.15)** (6.36)** (5.69)**
業種ダミー あり あり あり あり
年度ダミー あり あり あり あり
修正済みR2 0.537 0.551 0.699 0.692
N 424 424 376 376
※ 各変数は期末の資産合計でデフレートし,さらに自然対数値に変換したうえで,上下1%ずつを外れ値として除外している.
JVETSへの参加
国内排出量取引制 度(JVETSを除く)
への参加
中期計画の策定 企業のコミットメントとして用いる変数
ISO14001の 認証取得
※ 1%水準,5%水準,10%水準で有意な値(片側検定)に,それぞれ**,*,†を付している.
モデル(5) モデル(6) モデル(7) モデル(8)
※ 株式時価総額を被説明変数とした回帰分析の結果である.
※ カッコ内にはWhiteのt値を示している.
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参加を除くすべての取り組みが,将来のCO2排出量削減に向けた企業のコミットメントとして,
株式市場からポジティブな評価を受けていることを確認した.
その一方で課題も残されている.前章において指摘した課題については,引き続き本章におい ても課題である.それに加えて,CDP の実施するアンケートについては,送付対象企業が各年 150社に限定されており93,アンケートに回答していない企業の中には,そもそもアンケートを 受け取っていない企業が含まれている.今回の分析では,対象サンプル数の関係から,アンケー トを受け取ったものの回答しなかった企業と,そもそも受け取っていない企業とを同列に扱った 分析をしたが,サンプル数の増加とともに,これらを区別した分析も可能になると考える.また,
単純な回答の有無だけではなく,その内容に応じた株式市場の反応について今後の検証課題とし たい.
また,その他の取り組みを含め,本章で分析対象とした変数は,あくまで将来に向けたコミッ トメントの表明であって,実際にCO2排出量が削減されるかどうかについては明らかではない.
今後,より長期間のデータが入手可能になった時点で,コミットメントを表明した企業を,最終 的に CO2排出量の削減に成功した企業とそれ以外の企業に分割し,実績が明らかになった時点 での株式市場の反応を検証することも必要と考える.
93 本章での分析対象期間以降である2009年度からは,送付対象企業が500社に増加してい る.
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第 11 章 企業の環境対策活動に関する SBSC マップ
第9章では,企業のCO2排出量と企業価値の関係について実証分析をおこない,CO2排出量 と企業価値との間には負の関係(CO2排出量の多い企業の企業価値は低い)が観察された.近年 の先行研究においても,環境負荷の低い企業の企業価値が高いことを確認するものが多い. し かし,環境負荷を低くするためには,設備投資をおこなったり,割高な原材料を購入したりする 必要があり,少なくとも短期的には企業の業績(利益やキャッシュフロー)を悪化させる可能性 が高いと考えられる.
本章では,Oshika et al. (2013)の提示したSBSC (sustainability balanced scorecard)マップ に基づく実証分析をおこない,CO2排出量の低さが企業価値の高さに結びつくまでの経路につい て,企業の環境対策活動同士の関連性と,環境対策活動と環境パフォーマンスや財務パフォーマ ンスとの関連性を明らかにする.