• 検索結果がありません。

配当割引モデル

ドキュメント内 非財務情報の企業価値 (ページ 49-52)

第 3 章 会計情報の役割と検証モデル

3.2 配当割引モデル

財務資本提供者,特に株式投資家は,投資意思決定に際し,当該投資対象が魅力的であるか否 かを判断する.このときに判断材料となるのは(財務資本提供者にとっての)企業価値である38. 1株あたりの企業価値と比較して,その時点の株価が低ければ「買い」の判断をし,株価が高け れば「(空)売り」の判断をすればよい.ここでは,Fama (1970)のいう,半強度の市場効率性が 成立している状態を想定する.すなわち,会計情報を含む公開情報はすべて即座に正しく株価に 反映されているという仮定である.このことを前提に,本節では配当割引モデルを導出する.配 当割引モデルは,株主にとっての企業価値を,将来の無限期間における配当額の割引現在価値合 計で表現するモデルである.

半強度の市場効率性を前提とすれば,株価は(1株あたりの)企業価値に近似する.株主にと っての便益が,金銭的な便益のみであると仮定すれば39,株主が獲得するのは,配当等のインカ

38 会計情報に基づく企業価値評価の概要については,薄井(2011)を参照.

39 実際には,議決権という便益も享受することになり,それが経済的に大きな価値を持つ場合 も考えられる.特に,議決権の1%(株主提案権の獲得),33.33%(特別決議の拒否権の獲 得),50%(通常決議の議決権の獲得),66.66%(特別決議の議決権の獲得),などの議決権を 有することは,単なる金銭的な便益を超えた便益を獲得することになる.しかし,本論文では

42

ムゲインと,値上がり益のキャピタルゲインの2種類となる.ここでは,配当が各期末に生ずる ものと仮定する40.この場合,t期の株式投資家の収益率(rett)は以下のように計算される.

1 1

+

= −

t t t

t t P

d P

ret P 3-1)

ここで,Ptt時点(t期末)での株価,dtt時点で支払われる配当を意味する.すなわち,

t1期からt期までの 1期間株式を保有することで得られるリターンは,その期間内に生じた 値上がり益とその期中(ここでは配当の支払いを期末に仮定しているので,正確には期末)に支 払われた配当の合計額を当初の投資額で除した率として定義している.

(3-1)式を整理し,かつ投資時点を0期とおくことで,以下の式が得られる41

(

1

)

1 1

0

1 0 1 1 0

0 1 0 1 1

1 ret P d P

d P P ret P

P d P ret P

+

= +

+

=

×

+

= −

(

1 11

)

0 1 ret

d P P

+

= + (3-2)

(3-2)式の含意を考えるため,ここで,割引率について検討する.実際の収益率(ret1)と期待 収益率(E[ret1])が一致をするとは限らないが,期待値の性質上,少なくとも平均的には一致す ることを仮定すれば,(3-2)式は,1期間の投資の場合に,1期間経過後に得られるキャッシュ フロー(配当と売却額)を現在価値に割引計算すれば,投資時点の株価と等しくなる,というこ

議決権比率の低い投資家を主たる検討対象とするため,上述のような相当数の議決権を獲得す ることの便益は考慮しない.また,株主優待の獲得についても本論文の検討対象外とする.

40 多くの企業が中間配当を行なっていることを考えれば,この仮定は非現実的との指摘もあり 得るだろう.しかし,「各期」を必ずしも一年とは定めていないため,これを半年と考えれば本 節での議論は現実に応用可能である.

41 本来であれば,投資時点(0時点)においては1期後の配当額(d1)も株価(P1)も未知で あるので,それぞれ期待値であることを示すため,E[d1]およびE[P1]と表記すべきであるが,

ここでは煩雑さを避けるため,期待値パラメータの符号を省略する.

43

とを示すことになる.この場合の割引率は,当該株式のリスクに見合う期待収益率(期待リター ン)が用いられる.以後,これをrで表示する.

企業の(株主)資本提供者にとってのリスクは,営業上のリスクと財務上のリスクに分けるこ とができる.営業上のリスクは,たとえば,事業内容によって,景気の変動や為替レートの変動 に対する営業業績の感応度の差が存在することから生じる.一方,財務上のリスクは,同じ事業 内容であったとしても,負債比率の高低によって,株主への(残余)分配額の変動幅に多寡が存 在することから生じる.ここでは,簡単のために,投資対象企業が,事業内容も財務構成も変化 させないことを前提に議論を続ける.

(3-2)式の関係は,各期において成立するので,

(

r

)

d P P

+

= +

11 1

0

(

r

)

d P P

+

= +

12 2

1

(

r

)

d P P

+

= +

13 3

2 (3-3)

と書くことができる42.これらを順次代入していくと,

( )

( )

( )

( ) ( )

( )

( ) (

r

)

d r

r d d P

r d r

d P

r r d d P

r d P P

+ + +

+ + +

=

+ + +

= +

+ + + +

= +

= +

1 1 1 1 1

1 1 1

1 2

3 2 3

22 1 2

2 1 2

1 0 1

42 事業内容と財務構成が将来にわたって変化しないことを仮定したため,財務リスクおよび事 業リスクのいずれも変化せず,したがって,それに見合う期待リターン(期待収益率)も変化 しないことが仮定されていることになる.そのため,割引率のパラメータrには時を示す添え 字はつかない.

44

( ) ( ) (

r

)

d r

d r

d P

+ + + +

+

= +

1 1 1

1 2 2 33

3 (3-4)

となる.これを無限期間になるまで続けると,最終的には,

( ) ( ) (

+ +

)

+

+ +

= +1 2 2 3 3

0 1 1 1 r

d r

d r

P d 3-5)

という式が得られる.すなわち,企業の株価は,将来の無限期間の配当を現在価値に割り引いた ものの総和で表現できるという,配当割引モデルである.さらに,効率的市場を仮定しているの で,株価は1株あたり企業価値と近似する.したがって,

( ) ( ) (

+ +

)

+

+ +

= +

0 1 2 2 3 3

0 1 1 1 r

d r

d r

P d

V (3-6)

となる.ここで,V0は投資時点(0 時点)での企業価値を示している.この(3-6)式が配当割 引モデルである.(3-6)式では,株主にとっての企業価値が,将来の無限期間にわたる配当の割 引現在価値の合計として表現されることを示している.

ドキュメント内 非財務情報の企業価値 (ページ 49-52)