第 3 章 研究の結果
1. 地方自治体立Ⅰ病院
地方自治体を設置主体とするⅠ病院は、高度専門医療を提供する一般病院として地域に 貢献している。病院機能評価認定を受けており、病床数は 500床程度、診療科は全 20 科 である。発症直後から回復するまでの急性期治療を行う一般病床として、平均在院日数短 縮化の方針がとられ、特定の疾病に対する治療計画については標準化し、クリティカルパ
ス5を用いている。診療体制は、原則として紹介予約制度により診療を行う三次救急医療機 関であり、地域における医療連携を推進している。
近年、さまざまな病院で医療事故が生じ、マスメディアが騒がしく問題にするようにな って以来、Ⅰ病院では医療事故防止のための約束事が厳重に定められており、看護師が医 師の指示を受ける際もその実施方法が細かく規定されている。
2) Ⅰ-A病棟の特性 (1) 診療科とその特性
Ⅰ-A病棟は、循環器内科の単科診療科で30数床を有する。救急医療ではCCU: Coronary
Care Unitネットワークの 1施設として24時間体制をとっているため、昼夜を問わず緊
急入院を受け入れている。
循環器診療科の特性として、患者の安静度および日常生活動作の自立度については、心 機能についての医学的判断が必要なことから全て医師の指示が必要となる。従って、患者 の入浴や洗髪といった日常生活の援助行為についても、看護師が独自に実施可能と判断し たとしても、医師への確認なしに実施することはできない。
(2) 看護体制
看護体制は、プライマリィナーシング・モジュール型継続受持ち方式という看護方式が 用いられている。勤務体制は、日勤・準夜勤・深夜勤の三交替制をとっている。
日勤の勤務者数は、A、Bモジュール6に各3名の看護師、1看護師長または日勤責任者 の計7名で、各モジュールに1名のリーダー看護師を置く。各リーダーは、原則として重 症度の比較的低い患者を 3~4 名受け持ち、所属モジュールの受け持ち患者全員の状況把 握および他部署との調整を図る。各メンバーは、1看護師4~5名の患者を受け持つ。夜勤 の勤務者数は準夜、深夜とも看護師各3名であり、うち1名がリーダーとなり、他2名は、
A、Bそれぞれに所属するモジュールの看護師1 名あたり15名程度の患者数を受け持つ。
リーダーは夜勤責任者を担い、準夜、深夜勤務では夜間帯の病棟全体の責任を持ち、直接
5 critical path 研究、開発、製造、インフラ整備などのプロジェクトで、開始から終了までの所要時間を決定する一連
の工程の組合せをさす経営用語。限界工程、臨界工程、最長経路などと訳される。医療においては、質の高い医療を提 供することを目的として、入院から退院までの計画を立てたもの。患者には、検査の予定や治療の内容、リハビリテー ションの計画等いつ頃どの様な状態になれば退院することができるかなどを一覧表に説明する。医療側としては、その 様に計画を立てて医療を行うことにより、無駄なく、無理なく、もれなく、間違いなく、診療を進めることができ、立 てた計画を定期的に評価することにより、常によりよい医療を提供することができる (松島, 2012)。
6 module 機能の単位を指す用語。Ⅰ-A病棟では、それぞれの看護師が患者を入院から退院まで受け持つプライマリィ
ナースの役割を持つのだが、さらにそれぞれが、プライマリィナースが不在のときにその役割を代行するアソシエイト ナースとなるため、このペアがいくつか集まると、患者担当のグループができる。病棟所属看護師の半数ずつになるよ うこの患者担当グループを2つに分け、これをA、Bモジュールと呼んでいる。各モジュールでは、入院患者の約半数 ずつをグループで担当することになり、日々の各勤務帯で数回の情報交換を行うため、それぞれの看護師は、自身が所 属するモジュールの担当患者の状況をその経過を含めて把握している。
には患者を受け持たない。日勤、夜勤ともにリーダー役割をとるのは、4 年以上の経験を 有する看護師であり、看護師長が各勤務帯のリーダーを決定する。看護師数は、看護師長 を含む20数名、全員女性である。
日勤看護業務は、8時30 分始業17時15 分終業とされ、平均業務終了時刻は17時30 分である。その日の担当看護師が受け持ち患者のケアに責任を持ち、患者への医師の指示 は、原則としてリーダーが受け、メンバーにその情報を伝える体制となっている。しかし、
リーダー役割をとれる看護師の場合、医師の指示内容およびその緊急性等によっては、そ の日メンバー業務を担っていても自身で指示を受け、リーダーに情報伝達をすることもあ る。全館オンラインの電子カルテシステムによる診療記録管理により、ナースステーショ ンおよび必要箇所にノート型パソコンが移動式ワゴンに乗せて設置されている。注射、点 滴、服薬、処置についての看護記録記入方法には病院の規定があり、またこれらについて は、複数の看護師によるいわゆるダブルチェックが義務化されている。
(3) 病棟文化
病棟文化とは、スタッフ看護師が所属する病院、病棟の中で形成されてきた慣習や振る 舞いの体系をいい、その病院、病棟に所属する看護師や医師その他の医療スタッフが意識 するか否かに関わらず適応し、学習させられている思考や行為のパターンを指す。
Ⅰ-A病棟では、患者ケアのための情報源は主として電子カルテであり、看護師同士の口 頭伝達による引継ぎの場は設けていないため、看護師たちはそれぞれに受け持ち患者への 医師の指示や看護記録などからその日の患者ケアに必要な情報を収集している。そのため、
日勤では早い人で6時30分頃から出勤する看護師もいるという。一方、経験年数を重ね、
リーダー役割を取っている看護師では、8時20分頃ナースステーションに姿を現す人もい る。こうした違いは、単なる看護師経験年数だけではなく、業務を確実に遂行し比較的ミ スが少ないタイプ、業務遂行が遅延しがちでミスが多いタイプ等看護師の仕事の仕方、あ るいはその看護師自身の患者情報や医師の指示等さまざまなことについて気になる程度等 に関連しており、それによって出勤時間が決まるようだ。また、看護チーム全体の中で、
看護師個々が同僚から受けている評価、すなわち「仕事にミスがない」とか「仕事が遅い」
といった見方であるが、これも出勤時間に関与していると思われる。新人看護師は一様に 早朝から出勤している。
看護部長によれば、Ⅰ病院では、看護師は卒後3年を経て一人前という全館的な認識が あるという。Ⅰ-A病棟でもこうした認識は共通しており、看護チームとしては、新人看護 師は先輩看護師に従順かつ依存的であり、先輩看護師は新人看護師に対して指導・助言を おしまない。全体的には穏やかな関係性に見え、ナースステーション全体ではもの静かに 業務が遂行されている。
病棟看護師長は、モジュールの看護活動については各リーダーに責任を一任しており、
相談されたときに随時応じている。看護師個々に対しては、状況に応じて声をかけたり、
業務を手伝ったりしており、スタッフからの信頼は厚い。
看護師-医師関係は、概ね同僚的な関係7といえよう。支配的、指示的態度をとる医師は、
特定の数名の男性を除く他は比較的少ない。看護師の医師への発言の仕方から、個別には 遠慮がちな態度もみられるが、概ね医療者としての対等な関係性が伺われ、患者中心とい う考え方が両者の間で了解されていると見ることができる。
経営管理は比較的厳重であり、看護師の時間外勤務については、相応の理由がないと認 められないのだという。そのため、看護師たちは出来る限り時間内に業務を終了すること を心がけている。また患者には、治療上必要とされる医療器具や衣料品については全て自 己負担とされ、病院内外の購買部門にて購入するよう求められる。
循環器診療科のⅠ-A病棟では、患者の急性期治療が中心に置かれ、病床稼働率上昇を目 指して短期入院制度をとっていることから、患者は特定の治療が済めば早々に退院を予定 される。こうした診療方針に従い、看護ケアも特定の治療に関連した医療処置的内容が中 心となり、患者の清潔・整容に向けたケアである全身清拭や陰部洗浄などは、機能別看護 方式として日勤看護師全員によって分担され、受け持ちにかかわらず一斉に行われている。
2. Ⅰ-A病棟におけるスタッフ看護師と患者との関わり合い