第 3 章 研究の結果
1. スタッフ看護師の臨床的自律性発揮の仕方
病院ではたらく看護師のうち、主任、係長、看護師長などの管理的役職をもたず、主と して患者のベッドサイドケアを行う有資格者。
2. 臨床的自律性 clinical autonomy
患者中心のケアとなることに向けて意図的であり、看護師が自らの行動を結果も含めて 説明でき、他者の影響に支配されることなく、看護実践領域においては看護独自の意思決 定を行い、医学など他の学問領域と重複して看護実践が行われる領域では相互依存的に意 思決定し、患者に必要とされる場合にはその部署で日常行われている標準的な実践を超え ても行い、その責任を負おうとする看護師の姿勢および行為とする。
Ⅲ.研究デザイン
本研究は、スタッフ看護師の臨床的自律性について探求する。ここでの研究課題は、先 行研究による蓄積がわが国では少なく変数が把握されておらずほとんど知られていない、
また、既知の理解では不十分な領域を理解するために、対象を新たな視点から見直したい とするものである。目的は、スタッフ看護師が置かれている状況とその中で行われる直接 的な患者ケアを中心とした臨床実践のなかで、スタッフ看護師の臨床的自律性は、いつ、
どのような意図で、どのように臨床的自律性が発揮されるのか、その結果患者ケアの効果 はどのようであったかを明らかにする。そこで、研究の理論的視点は、「人々の経験は文脈 に縛られており、時、場所、人間という行為者の心と切り離すことはできない。多元的な 現実世界は人々により社会的に構築されている。参加者の行為や経験、教育のプロセスの 意 味 を 探 究 し 理 解 す る こ と を 目 的 と す る 。」 と い う 解 釈 主 義 的 視 点 (interpretive
paradigm)(髙木, 2011) が有効と考える。そのため、研究のタイプを質的研究とし、探索
型記述デザインとする。
Ⅳ.具体的な研究の手順 1. データ産出を行った場所
本研究への協力を依頼する施設は、設置主体の異なる2つの病院を対象とするため、複 数の診療科を有する病院を対象として任意に、関東地区所在の医療法人を設置主体とする
一般病院 5 施設、地方自治体を設置主体とする一般病院(以下、地方自治体立とする)1 施設、大学医学部付属病院 7 施設の計 13 施設に対して、それぞれの病院の看護部長宛て に口頭および文書にて研究の概要を説明の上、協力をお願いしたところ、2 病院から快諾 を得ることができた。
本研究への協力に承諾が得られた2病院のうち、一方は地方自治体立一般病院、もう一 方は大学医学部付属病院であった。それぞれの病院では、2 か所の病棟においてデータ収 集することが許された。病棟の選定については、地方自治体立一般病院では、看護部長が 推薦し、研究協力を承諾した病棟看護師長2名が管理する2病棟であった。大学医学部付 属病院では、全病棟看護師長が出席する会議(看護師長会議)において、看護部長が募集 し、自ら研究協力を希望した病棟看護師長2名が管理する2病棟であった。
地方自治体立一般病院2病棟の診療科は、一方が循環器系疾患の単科診療科、もう一方 が多科混合診療科であった。大学医学部付属病院2病棟の診療科は、一方が消化器系疾患 の外科内科総合診療科、もう一方が多科混合診療科であった。
2. データ産出を行った期間
2008年6月から2009年9月、2011年8月から2012年1月までとした。原則として1 病棟において2ヶ月程度のフィールドワークとした。
3. 研究参加者
1 病棟において参加観察およびインタビューを行う研究参加者のスタッフ看護師は、2、
3名から数名とし、原則として経験年数3~4年以上の看護師とした。
研究参加の承諾が得られたスタッフ看護師は、女性11名、男性2名の計13名であった。
研究参加のお願いに当たっては、2 病院4 病棟のいずれにおいても病棟看護師長より推薦 された数名を対象に、研究者が直接口頭および文書にて研究計画と研究参加方法および倫 理的配慮について説明を行い依頼したところ、それぞれの看護師から快諾を得ることがで きた。研究参加者の内訳は、地方自治体立一般病院では、循環器系疾患の単科診療科病棟 のスタッフ看護師が4名、多科混合診療科病棟のスタッフ看護師が3名、医科大学付属病 院では、消化器系疾患の外科内科総合診療科病棟のスタッフ看護師が3名、全病室を個室 とする多科混合診療科病棟のスタッフ看護師が3名であった。具体的には次の手順による。
1) 研究参加者のスタッフ看護師
(1) 2病院それぞれに看護部長・病院長へ研究協力の依頼を、文書(資料1-1,2,3. 10-1,2.
2-1,2)に基づいて行った。
(2) 看護部長より紹介された2病棟の看護師長へ、それぞれの病棟看護チームに向けた 研究協力の依頼を文書(資料3-1,2,3. 7-1,2)に基づいて説明し、同意を得た。
(3) 2病院の看護部長とそれぞれ2病棟の4看護師長が、研究協力依頼のために各病棟 看護師全員への説明の場を設定した。この際、病棟全体に向けた研究協力の依頼とと もに参加観察およびインタビューを依頼する研究参加者について、各病棟それぞれの 看護師長より紹介され、原則として経験3~4年目以上のスタッフ看護師にお願いす ることを説明した。
(4) 病棟看護師全体に向けて、研究の趣旨ならびに研究者の活動として、病棟看護チー ムの活動に参加すること、原則として経験 3~4 年目以上の 3~4 名のスタッフ看護 師に個別に研究参加者として日勤の日に 1 日同行させていただくこと、勤務終了後 にインタビューをお願いすることについて、文書(資料4)に基づいて説明した。そ の後、研究者が席をはずし、病棟看護チームとして研究参加の是非を検討していただ いた。その際、個々の看護師が自由に意見を述べられるよう配慮していただくことを 各病棟の看護師長にお願いした。なお、反対意見がある場合には研究実施を見合わせ る可能性があることを予め説明しておいた。また研究説明の場に参加していなかった 看護師については、2病棟それぞれに看護師長と相談し、周知の期間を設け、検討し ていただくことを依頼した。
(5) 研究協力について病棟看護師全体の同意が得られた後、個々のスタッフ看護師へ、
参加観察として研究者がその看護師の日勤の日に終日同行すること、勤務終了後に行 われた患者ケアについて判断したことや意図したことなどに関するインタビューを 行うことについて、文書(資料5-1)に基づいて説明した。同意が得られ、文書(資
料5-2)に署名をしたスタッフ看護師を研究参加者とした。
(6) 病棟看護師が、研究参加者を個別に依頼したスタッフ看護師の活動場面で登場する 場合には、彼らの言動および影響をデータとすること、また研究に協力しないかまた は途中で辞退した場合には、その看護師の言動および影響をデータとはしないことに ついて説明し、同意を得た。
2) 研究参加者のスタッフ看護師が関わり合う患者とその家族
本研究は、スタッフ看護師が行う患者との関わり合いが重要なデータとなることから、
研究協力病棟に入院している患者とその家族に、次のように研究協力を依頼した。
(1) 研究協力が得られた各病棟それぞれの看護師長から、当該病棟の入院患者とその家 族全員に向けて研究者がその病棟に入り込んでいることを周知していただいた。
(2) 研究参加者のスタッフ看護師がケアを担当することを知り得る限り早い時点で、事 前にその患者とその家族に文書(資料6-1)を用いて研究の説明を行い、研究協力を 依頼した。この際、研究者が研究参加者のスタッフ看護師に同行し、知り得た情報を データとすることを明確に伝えた。なお、患者の病状により研究者の同行が悪影響を
与えると考えられた場合、また排泄援助などプライバシーに関わるケア場面では、ケ アを担当する看護師の判断により研究者が同行を控えることを伝えた。研究者の同行 を控えてほしいときはいつでもお伝えいただければ意向に従うことを説明した。同意 が得られ、文書(資料 6-2)に署名をいただいた患者と家族を研究協力患者とした。
患者の状況および病棟の状況等により、事前に研究協力の同意を得ることができない まま、研究参加者のスタッフ看護師に同行した際には可及的速やかに上記のように説 明を行い、同意を得た。
(3) 病状その他により患者から直接研究協力の同意を得ることが困難な場合、その家族 に文書(資料6-1,2)を用いて研究の説明を行い、研究協力を依頼した。
3) 研究協力病院の医療スタッフ
研究者は、研究参加者のスタッフ看護師がケアを担当する患者と関わること、看護師-
患者関係および病棟文化について把握する必要から、患者の主治医ならびに他の医療スタ ッフに研究者の身分およびその活動について、次の手順により理解と同意を得た。
(1) 看護部長・病院長より、研究者が当該病院において研究活動を行うことについて、
各部署への周知を依頼した。
(2) 研究協力病棟それぞれの看護師長から、当該病棟の医療スタッフ全体に向けて研究 者がその病棟において研究活動をすることを周知していただいた。
(3) 研究参加者のスタッフ看護師がケアを担当する患者の主治医に、研究参加者から研 究者を紹介していただいた。その後、研究者がその主治医に研究活動の目的および活 動内容について文書(資料8)により説明し、同意を得た。また患者から研究者が同 行したスタッフ看護師と関わり合った内容をデータとすることを許可され、研究協力 に同意を得ていることを明示した。
(4) 研究者が同行する際、研究参加者のスタッフ看護師と関わり合う医療スタッフに、
研究参加者から研究者を紹介していただいた。その後、研究者が研究活動の目的およ び活動内容について文書(資料9)により説明し、同意を得た。
4. データ産出の方法 1) 参加観察
本研究は、スタッフ看護師と患者との直接の関わり合いによる看護実践に焦点を当てる。
この場合、看護師と患者との相互行為の中から立ち現われる看護実践の現象をとらえるた めには、その場に身を置き、研究参加者の体験と活動が彼らにとって意味することを理解 する必要がある。看護実践においては、看護計画があらかじめ立てられていたとしても、
看護師の意思のままに行われるものでは決してなく、患者の意思を確かめつつ、その意向