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金田看護師の自律的看護実践がもたらしたもの-その 1

第 3 章 研究の結果

③ 金田看護師の自律的看護実践がもたらしたもの-その 1

の信頼は厚いという。後輩看護師たちが、医師の指示遂行の仕方について相談したり、患 者の病状把握の仕方について尋ねるということは、金田看護師がそれに相応しい人物だか らであり、従って、彼女は看護業務を確実に遂行でき、看護ケアを効果的に実践し、病棟 看護師たちからもそのような評価を受けているのだろう。このように、人から信頼される ことは、一方でその個人が自信を抱くことに繋がると考えられる。また、金田看護師は、

Ⅰ-A病棟で6年目を向かえ、リーダー役割を取って3年を経ていることから、病院内の薬 剤物流システムについて熟知していると考えられる。そして病棟在庫薬の使用についても、

このときが初めてではないように思われる。すなわち金田看護師は、病棟在庫薬による代 替えを行っても、ミスに繋がらないように処理できるという実績を有しており、それゆえ このことには自信があったと見ることは可能であろう。このように、金田看護師には、病 棟看護師たちからの信頼やⅠ-A 病棟における看護経験によっても裏打ちされて、‘患者に とって良い’としてリスクを伴う病棟在庫薬の代替え使用を、実行に移せるだけの自信が あったと考えられる。この金田看護師の中の自信は、ここでの自律的看護実践が展開され るための推進力となっていたということができる。そしてこれは、臨床的自律性の発揮を 促進する要因となっていた。

(5) 金田看護師と中井さんとの関わり合い場面の記述-その2

① 参加観察記録

朝の看護師同士の情報交換の始まりである…(略)…。金田看護師がメモ用紙を見なが ら言った。「中井さんは、ご立腹で。昨日うるさいしって。できるだけ部屋を移動したいけ ど健忘もあるし、って感じです。レントゲンと心電図ありますが、連れていきます」。

…(略)…金田看護師が、気分を変えるかのように声の調子を明るくして、「左手、動か さないでくださいね。」と言うと、中井さんは、金田看護師のほうを見ないまま、「昨日、

だいぶ動かしちゃったよ。」と言った。

金田看護師は、ビニール製のディスポエプロンを着用し、廊下の清拭車から蒸しタオル を数本持ってきた。そして、ベッドサイドの椅子に置くと、「中井さん、体拭いてパジャマ に着替えましょうか。」と言った…(略)…。着替えを準備すると、金田看護師は「じゃあ、

ちょっとこれはずしますね。」と言い、中井さんの胸帯を開き始めた。中井さんは目を閉じ ており、何も言わなかった…(略)…。そして黙々と拭き終わると、金田看護師は、「じゃ あ、上向きますよ。」と言った。そして、中井さんが仰臥位になるのを手伝ってから、胸帯 を丁寧にしっかりと巻いていった。創部にはガーゼの上からドレッシング剤が貼られてお り、全体が覆われていたが、ガーゼに出血や浸出液は見られなかった。

時間は 11 時を少し回っていた。金田看護師は、車椅子を押して中井さんの部屋へ向か った。「中井さん、レントゲンと心電図に行きます。」とカーテン越しに声をかけたが、中 井さんは黙っていた。金田看護師は、「起きられますか。」と優しく言いながら、車椅子を ベッド脇に付けた…(略)…。中井さんはスリッパを履き、「あーあ」と言いながら、ベッ ド柵につかまって立ち上がろうとしたので、金田看護師は、車椅子まで体がよろけないよ うに支えて誘導した。そして、中井さんの乗った車椅子を押してレントゲン室に向かった。

レントゲン撮影が終わると、金田看護師は中井さんが車椅子に座るのを支えた…(略)

…。金田看護師は、同じフロアにある心電図室の前に車椅子を止めた。そして検査室の中 に入って行き、「Ⅰ-A 病棟の中井さんです。」と言うと、中で技師が、「じゃあ、終わった ら電話しましょうか。あと2・3人いるんですよ。」と言っている声が聞こえた。金田看護 師は少し迷った表情をして出てくると、「胸帯があるから。」と独り言のように言い、中井 さんが座った車椅子の隣のベンチに腰を下ろした。中井さんは、「いいよ。戻って。用があ るんだろ。」と言った。金田看護師はそれには応えず、またすぐに立ち上がって検査室の中 に入って行った。そして、「胸帯はずしちゃっていいですから。終わったら呼んでください。

こちらでやります。」と言いながら出てきた。そして腰をかがめて、「じゃあ、終わったら また来ますので。」と言うと、中井さんは右手をあげてそれに応えた。

廊下を歩きながら、金田看護師は、「蘇生脳症もあって、健忘とかもあるから、すぐ忘れ ちゃうんです。」と教えてくれた。そして階段を上りながら、「午後でもいいんですけど、

リード(心臓内に留置されたICD電極)がずれちゃってるといけないので。午前中に(レ ントゲン写真を)見ておいたほうがいいので。昨日は大丈夫だったんですけど。」と言った。

研究者が「そういう判断があったんですね。」と言うと、金田看護師は、「いえ。でも、私 だけかも。」と言って、照れくさそうに笑った。そこで「それは、中井さんだからってこと ですか?」と聞くと、金田看護師は、「いえ。ICD を入れた人はみんな、ですね。中井さ んは認知的なものもあるけど、安静にしてばかりでもっていうのはあるから。」と言った。

そして、「私たち(昼休憩の交代)前半なんですけど。私、あの人(中井さん)迎えにいく から。」と続けた。研究者が「中井さんの認知的なものというのは?」と聞くと、金田看護 師は、「健忘とかがあるので、さっき言ったことも忘れちゃったりとか。それと、少し反応 がはっきりしないときがあるんです。ボーっとしてるっていうか。」と応えた。

PHS(Personal Handy-phone System)で電話を受けた金田看護師は、「お迎えに行き

ます。」と言った。休憩に入る時間が既に25分ほど超過しているが、どうやら金田看護師 は、中井さんの検査が終わったという連絡を待っていたようだ。金田看護師は階段で2階 におり、心電図室に向かった…(略)…。金田看護師が、静かに「中井さん」と、声をか けながらカーテンの中をのぞくと、中井さんは眠っているようだった。金田看護師は、「中 井さん、終わりましたよ。」と、そっと囁くように声をかけながら、中井さんの胸帯に手を 伸ばした。中井さんは、うとうとしながら目を開け、「やあ、ここのほうが静かで、ずっと いいよ。寝られる。」と言ったが、その表情は朝よりずっと穏やかだった。金田看護師は、

胸帯をきっちりと締め直しながら、「帰りましょう。」と言うと、中井さんはゆっくり起き 上がった。そして自分でスリッパを履くと、車椅子に腰掛けた。金田看護師は、中井さん の乗った車椅子を静かに押してエレベータに向かった。

準夜勤との交替時間が近づいてきた。金田看護師は「すみません、報告します。」と言い、

今日の日中の報告を始めた。リーダー看護師はメモを取りながら聞いている。「中井さんは 少し休めたみたいで。機嫌直ってます。あと、レントゲン問題なかったみたい。」と言った。

② インタビュー記録

日勤の仕事がおおむね終わると、金田看護師は、「これからは、あとは記録なんです。何 かありますか。」と聞いてくれた。「中井さんのレントゲンですが、医師の指示では何時に という時間指示はないんですか? それは看護師が判断して何時か決めるということです か?」と聞くと、金田看護師は、「まあ、先生は午前中に、っていう思いはあるとは思うん ですけど。でも他にもやることがあればできないときもあって。私はできるだけ午前中に

行かれるように努力します。早期発見の意味も含めて。」と言った。

「今日、お昼休みを返上して中井さんのレントゲン、お迎えに行ったのはどういうお考 えだったんですか?」と聞くと、金田看護師は、「交替時に人がいないっていうのもあるけ ど、胸帯も直したかったし。夜中、動かしちゃったって言ってたから。」と言った。そこで

「それは、他の看護師に頼めないということですか?」と聞くと、金田看護師は、「ってい うより、まあ、自分がやろうかなって。」と言い、「じゃあ、金田さんが自分でやりたかっ たってことですか。」と聞くと、金田看護師は「まあ、そんなところですかね。」と言って 笑った。そこで「それには、中井さんが怒ってたっていうことも関係ありますか。」と聞く と、金田看護師は、「ああ、それはあんまり(ないです)。(左上肢の)固定のほうが大きか ったですね。」と言った。

(6) 金田看護師の看護実践における臨床的自律性についての解釈-その2