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藤田看護師と患者坂木さんとの関わり合い

第 3 章 研究の結果

2) 藤田看護師と患者坂木さんとの関わり合い

藤田看護師への同行回数は間隔をあけた 3 回、担当した患者数は延べ 12 名であった。

そのうち、藤田看護師の臨床的自律性が発揮されていると思われる患者との関わり合いは 以下の1場面であった。

(1) 研究参加者スタッフ看護師の特徴

藤田看護師は 30 歳代半ばの女性、高校を卒業後、ある企業に事務職として 8 年勤務し たが、手に職をつけたいと思い、地方自治体が設置する看護専門学校3年課程に入学した。

同校を卒業後、地方自治体関連病院の混合病棟に 4 年勤務した後、Ⅰ病院に異動となり、

このⅠ-A病棟で2年目を迎えた。看護師歴は6年、リーダー歴は3年目である

藤田看護師は、「前の(最初に就職した)病院は楽しかったけど、ここ(Ⅰ病院)への異 動は私が希望したんじゃないんですよ。ここ(Ⅰ-A病棟)の仕事はつまんない。面白くな い。前のところに帰りたい。」と話している。‘どのような点が面白くないのか’と尋ねる と、「全部! 何もかもがつまらないし、ぜんぜん楽しくない。忙し過ぎて患者様とゆっく り接することができないし、自分が落ち着かないです。」と即答した。‘では、前のところ はどんなところがよかったのですか’と尋ねると、「患者様のこととか、みんなでワイワイ やれて。みんな協力して仕事を終わらせるんですよ、あっちは。ここは、みんな自分のこ とだけって感じで。苦痛ですね。なかなか慣れないし、それにみんな若いっていうか。私 にはここは合わない感じがする。」と話した。‘前のところでは、どんなお仕事をしたとき 楽しかったですか’と尋ねると、「患者様が、自分のケアで満足したときですかね。」と言 い、‘具体的には’と聞くと、「私、保清(清潔ケア)とかって、ここみたいにみんなで一 斉にするの、好きじゃないんですね。患者様と相談して、じゃあお体拭きましょうかって いう感じで、ゆっくりお話ししながらっていうほうが楽しい。」と話してくれた。

(2) 坂木さんのプロフィール

坂木さんは、50歳代の女性で専業主婦、ご主人と一人娘との3人暮らしである。数日前 から発熱が続いたため、大動脈弁閉鎖不全という心臓弁膜症により通院中のⅠ病院を受診 し、その日にA病棟に緊急入院となった。入院後の検査により、細菌性心内膜炎と診断さ れた。入院以来この日までの 15 日間、抗生剤点滴による治療と安静臥床が続いている。

トイレ歩行程度の運動負荷は、医師より許可されているが、坂木さんは心機能が低下して おり、疲れやすい(活動耐性の低下)ため、看護師たちが歩行時に付き添うことを申し合 わせており、随時ナースコールをすることになっている。発熱と倦怠感により、坂木さん があまり多くは話しをしないため、看護師とのやり取りでは体温や食事摂取量の確認とい ったことが中心となっている。坂木さんは、発熱による緊急入院患者として、特定患者の 報告欄すなわちその病棟における病状等の要注意患者として名前が挙げられている。

(3) 藤田看護師と坂木さんとの関わり合い場面の記述

① 参加観察記録

深夜のリーダーが、「…(略)…坂木さんは夜間 38 度に上がりましたが、朝は 36.5 度 に下がっています。トイレ付き添っています。」と報告した…(略)…。

藤田看護師は、女性の 6 人部屋に行った。窓側のベッドにいる坂木さんに、「おはよう ございます、坂木さん。今日担当します。よろしくお願いします。」と言うと、ベッドに横 になっていた坂木さんは、「よろしくお願いします。」と言ってにっこりした。坂木さんは、

体格は中肉中背で、顔色は青白く活気はなかった。夜勤看護師がワゴンに乗せた電子カル テから点滴名を読み上げると、藤田看護師は、実物の点滴を見ながら声を出して確認した。

それが終わると、藤田看護師は、「ちょっと、見せてくださいね。」と言って、坂木さんの 左前腕から入っている点滴ラインを刺入部から確認していった。そして、点滴架台の脚に 自動輸液ポンプの電源コードと点滴チューブが一緒になって巻きついているのに気がつい て、その絡みをほどき始めた。藤田看護師が手を動かしながら、「なんか、絡まっちゃって るけど。」と言うと、夜勤看護師は申し訳なさそうに、「すいません。」と言いながら見てい る。藤田看護師が絡みをほどいてようやく整理し終わると夜勤看護師はもういなかった。

藤田看護師が改まったように、「坂木さん、今日レントゲンがあります。」と言うと、坂木 さんは、藤田看護師の手元を見るともなしに黙って眺めていたのだが、静かな声で「はい、

わかりました。」と応えた。藤田看護師が、「じゃあ、また後で来ますね。」と言うと、坂木 さんは、「はい。ありがとうございました。」と、ベッドに横になったまま応えた。

藤田看護師は、「今日は、シーツ交換の日なんですよ。」と言い、寝具類を乗せたワゴン を押して男性6人部屋に向かった。Ⅰ病院では、空きベッド以外の寝具交換はすべて看護 師が行うのだ。看護師たちは、先に始めている相手を探して2人ずつペアになり、患者が 空けているベッドの寝具類を交換し始めた。藤田看護師は、シーツを剥がしながら、「私、

今日チームが違うんでよくわかってないんです。情報がよくつかめていないんで。」と言っ た。研究者が「じゃあ、今日は別チームのお手伝いなんですか。」と聞くと、藤田看護師は、

「そうなんですよ、(看護師の)休みとかが出ると手伝いにいくんです。」と言った。本日、

藤田看護師は本来所属している Aモジュール9ではなく、看護師に欠員が出たためB モジ ュールのメンバーとして患者を担当するので、毎日行われるモジュール毎の情報交換によ る患者の状況把握が十分ではないのだそうだ。隣のベッドでは、20歳代と思われる看護師

9 module 機能の単位を指す用語。Ⅰ-A病棟では、それぞれの看護師が患者を入院から退院まで受け持つプライマリィ

ナースの役割を持つのだが、さらにそれぞれが、プライマリィナースが不在のときにその役割を代行するアソシエイト ナースとなるため、このペアがいくつか集まると、患者担当のグループができる。病棟所属看護師の半数ずつになるよ うこの患者担当グループを2つに分け、これをA、Bモジュールと呼んでいる。各モジュールでは、入院患者の約半数 ずつをグループで担当することになり、日々の各勤務帯で数回の情報交換を行うため、それぞれの看護師は、自身が所 属するモジュールの担当患者の状況をその経過を含めて把握している。

が大きな声で私語を話しながら笑っている。藤田看護師が顔をしかめて、「若いのね。」と 小声で言った。歩ける患者がほとんど出て行った同室では、カーテンに囲まれた中に患者 が一人、点滴をしているためベッドに横になっていた。

9時40分、ナースコールがあり、藤田看護師は女性の6人部屋に入って行った。「坂木 さん、どうされました。」と聞くと、坂木さんはベッドから起き上がりながら、「トイレ。」 と言った。藤田看護師は、「点滴、自分でできます?」と聞くと、坂木さんは、「はい。な んとか。」と言いながら、自動輸液ポンプの電源コードを本体から引き抜いて、床頭台に引 っ掛けた。そして、点滴架台につかまりながらベッド脇に立った。坂木さんの点滴架台に は、電源コードがはずれると内臓電源に切り替わる自動輸液ポンプが取り付けてあり、歩 行時にはこの電源コードをはずしていくのだ。坂木さんは、医師の指示では“トイレへの 自力歩行可”という安静度、すなわちトイレに歩く程度の運動負荷は許容できる状態なの だが、時折ふらつくので、看護師付き添いのもとで歩行するという看護師間の申し合わせ になっている。坂木さんは、これまでも何度かトイレまで歩行しており、点滴架台を押し て歩行することに慣れてきたようだ。

藤田看護師が、坂木さんの足元を見守りながら歩く方向を手で促すと、坂木さんは、点 滴架台につかまりながら、ややおぼつかない足取りで、そろそろと部屋の入り口に向かっ て歩き出した。藤田看護師は、坂木さんの半歩ほど後方に位置し、その歩き方を見ながら 一緒に歩いている。「大丈夫ですか? ふらふらしませんか?」と聞くと、坂木さんは「は い、大丈夫みたいです。」と笑顔で応えた。坂木さんは、藤田看護師がやや見上げるほどの 背丈で、ショートカットの後ろ髪は寝癖のように突っ立って地肌が見えている。坂木さん は、少し前傾した格好でゆっくりと足を運び、病室のすぐ斜向かいにある引き戸のついた トイレに入っていった。藤田看護師は、坂木さんがトイレに入り、ドアを閉めたのを確認 すると、「じゃあ、終わったら呼んでください。」と言い、ナースステーションに戻った。

藤田看護師が処置室で注射薬の準備をしていると、クラークが「坂木さん、レントゲン がきます。」と言いに来た。藤田看護師は、「はあい。」と言いながら処置室を出ると、先ほ ど坂木さんの入ったトイレに向かった。坂木さんはドアを開けてちょうど出てきたところ だった。藤田看護師は、並んで歩きながら、「坂木さん、いつも自分で行きたいですか?」

と聞くと、坂木さんは、「そうですね。微妙なところなんです。この間は途中で疲れちゃっ て。」と言った。藤田看護師が、「じゃあ、辛いときだけ呼んでもらうようにしますか。」と 聞き、坂木さんが、「そうですね。お願いします。」と言っているうちに、病室の自分のベ ッドに着いた。部屋の前の廊下には、ポータブルのレントゲン機を押して技師がやって来 ていた。藤田看護師は、その技師に「帰ってきました。」と声をかけた。

坂木さんは、また自分で自動輸液ポンプに電源コードを接続し、ベッドにゆっくりとし