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町村看護師の臨床的自律性-その 1

第 3 章 研究の結果

① 町村看護師の臨床的自律性-その 1

a. ストマ造設を余儀なくされた患者の辛い思いを傾聴するに留まらずその気持ちの 核心部分に迫ろうとする意図的接近

森川さんの病状は、大腸憩室の炎症が進行して下行結腸にろう(瘻)が形成されるに至 っており、加えて検査後に膵炎を合併したことから、その回復に時間を要している。ろう とは、腸内細菌による大腸憩室の炎症が進行し隣接する組織にまで及んだため、穿孔を生 じて形成された他臓器との間の異常な連絡路で、これにより隣接臓器にも炎症が拡大する。

そのため、下行結腸のろう形成部分を切除し、一時的ストマ造設により腸管の機能回復を 待つという治療方針が立てられ、これが外科医から森川さんに説明された。森川さんは、

Ⅱ-C病棟での入院が約210日に及び、当初目指されてきた内科的治療による大腸憩室炎の 回復どころか、ストマ造設を余儀なくされる事態を招いており、自分がそうなると思わな かったとして苦悩のなかにある。こうして町村看護師は、森川さんの辛い思いに理解を示 しつつ、一方では、治療として手術しか方法はなく、その受け入れは森川さん次第である と述べ、彼女の気持ちの核心部分に接近していった。そしてストマの具体的な話しへと展 開し、町村看護師がパンフレットなどで見るのもよいと促すと、森川さんは少し迷ったよ うだったが、「ちょっと見てみようかな。」と応じた。そこで、町村看護師は、冊子にある ストマの写真を見せ、術後の森川さんに生じる状況を説明するに至ったのだ。

森川さんは、これまでに何度か看護師に自分の気持ちを吐露し、泣くことによって感情 を表出してきていた。そうしたときの看護師たちの対応は、森川さんの話しに親身になっ て耳を傾け、その辛い気持ちを受け止めようとしてきたのだろう。だが、Ⅱ-C病棟の看護 師たちにとっては、森川さんのこれまでの入院経過を知っているだけに、彼女の気持ちを 受け止めることは実は重たいことであり、容易いことではなかったと思われる。森川さん は、医師から病状を説明され、自分の治療方針について理性的には理解しているのだろう。

しかし、説明室で町村看護師を待つ間、「なんで、こんなことになっちゃったんだろう。」 と言って号泣していた。この発言に込められた思いが、森川さんの本音なのだと思われる。

こうした思いを吐露された看護師たちは、それゆえ傾聴することで精一杯の状況さえあっ たのではないだろうか。

そのような中で町村看護師は、傾聴し気持ちを受け止めることからさらに一歩進んで、

余儀なくされたストマ造設を否定的にではなく受け止められることを目指した関わりを展 開したのだ。そしてこの関わりは、森川さんとのやり取りの中で偶然展開されたのではな く、町村看護師が意図的に計画していたのである。

町村看護師は、森川さんの感情表出をコーピングの手段ととらえていた。そして、その ようなコーピングの次の段階として、理解を促していこうとしたようだ。この理解とは、

手術という治療方法について否定的にではなく肯定的に理解することであり、ストマにつ いての具体的な理解を指しており、こうして術後の森川さんに生じる状況について説明す るに至ったと考えられる。これにより森川さんは、怖いのが先に立つと自分の気持ちをこ とばにし、その思いのうちを表出した。そうしてストマ用パウチの話しに及び、最後には

「がんばらなくちゃ。」という森川さんの前向きな発言が聞かれることとなった。この一連 の関わりは、森川さんが、泣いて感情を表出しているとしても、彼女にとってストマ造設 は治療上仕方のないことであり、町村看護師が、森川さん自身の考え方の問題と判断した ことによって可能になったと考えられる。そして町村看護師は、ここでの関わりを、「核心

…そういうのはちゃんと話した方がいい」という判断によって展開したのだ。森川さんの 病状経過を知る看護師にとって、彼女の気持ちの核心部分に迫る話しをすることは、決し て容易いことではないと考えられる。きちんと話した方がよいとする町村看護師でさえ、

実際に目の前で森川さんに泣かれた際には当惑していたように、その実は緊張感を伴うで あろうし、これは、彼の中でいわば覚悟を要することだったと思われる。

このように、町村看護師は、森川さんがその余儀なくされた治療方法を自身のために肯 定的に受け止められることを目指し、彼女の気持ちの核心部分に接近しようと計画してい た。ここには、辛い思いを傾聴し気持ちを受け止めるといった関わりに留まらず、そこか らさらに一歩進んで、その核心部分に覚悟を伴って接近するという町村看護師の臨床的自 律性が存在する。傾聴し受け止める関わりとは、そこで行われている標準的な看護実践で あり、この意味で町村看護師の行為は、標準的な看護実践を超えた関わりといえる。それ ゆえ、ここでの町村看護師の森川さんへの関わりは、自律的看護実践と呼ぶことができる。

② 自律的看護実践の特徴的要素

a. 患者の気持ちを確かめながら歩を進める慎重な関わり、‘関わりのスキル’

<自律的看護実践の展開方法:必要条件>

町村看護師は、朝の情報交換の時点ですでに、森川さんに一歩踏み込んで関わることを 意図していた。しかし町村看護師は、森川さんの辛い問題に触れることについては慎重に 構えており、実際の場では、彼女の気持ちを探るように、そしてひとつひとつ確かめなが

ら進めていた。点滴交換時には、その導入でもあるかのように彼女の心境を尋ね、森川さ んが、最初に聞いたときはすごいショックだったと言うと、町村看護師は気持ちを込めて 同意した。そして、涙が出てきた、自分がなるとは思わなかったと言う森川さんに、町村 看護師は、彼女の気持ちを代弁する姿勢を示した。また、森川さんから、一時的ストマで あることに救われているとの発言があると、町村看護師は彼女の思いを支持した。このよ うに慎重にやり取りを進める中で、町村看護師は、森川さんが自分の思いを話してくれた ので、具体的にイメージしてもらえそうと判断するに至ったのであり、その計画を具体化 させていった。こうして町村看護師は、彼女の気持ちを確かめながら、慎重にストマにつ いての具体的な話しを始めた。そして、人工肛門造設について説明すると、森川さんは、

嫌だ、怖いとその辛い思いを口に出した。そこで町村看護師は同情の意を示し、森川さん の気持ちに沿いつつ、写真などで見てみてもよいとして、気遣いながら一歩を進めると、

森川さんは少し迷ったようだったが、「ちょっと見てみようかな。」と言った。後に町村看 護師は、森川さんのこの発言によって急いでパンフレット探しにいったと述べている。こ れは、理解を促そうと意図し、イメージ化を図ろうと計画していたストマの具体的な話し が、町村看護師によって一方向的に進められたのではないことを示している。嫌だ、怖い という森川さんが、それでも自分の身に起こった状況に自ら立ち向かえることを目指して いたのだが、それは、辛い気持ちの核心すなわち造られたくない人工肛門についての話し であるからこそ、町村看護師は慎重に、彼女の気持ちを確かめながら行きつ戻りつ、そし てことばを選びながら進めていたと考えられる。こうした関わりゆえに、町村看護師は、

森川さんから前向きな発言を引き出すことができたのだろう。

このような関わり方、気持ちを確かめながら慎重に歩を進めるやり方は、患者の辛い気 持ちの核心に接近するときのひとつの方法ととらえることができ、町村看護師の‘関わり のスキル’ということができる。この‘関わりのスキル’は、ここでの自律的看護実践が 展開されるための方法となっており、この展開方法は、町村看護師の臨床的自律性が発揮 されるために不可欠な必要条件ということができる。

b. 患者との適切な距離のとり方、看護専門職としての姿勢

<自律的看護実践の推進力:促進要因>

森川さんの辛い気持ちを聴かされたⅡ-C病棟看護師の中には、彼女の話しを傾聴するこ とで精一杯、あるいはその気持ちがわかるだけに自身が辛くなる者さえいたと考えられる。

患者の辛い思いを聴かされることは、その人を支援する看護師にとっても気が重い、ある いは緊張が高まる状況をもたらすこととなる。それは、看護師が患者に思い入れる程度や 看護師自身の感情コントロールのあり方、あるいは患者と向き合う基本姿勢といったこと に影響を受けるためと思われる。

そのような中で、町村看護師は、治療として手術しか方法はなく、その受け入れは森川