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看護における自律性 autonomy に関する実証的研究

第 1 章 研究の背景と目的

4) 看護における自律性 autonomy に関する実証的研究

意形成のための十分な調整」、「明確な主張と次善策の承認に向けた交渉」といった要素を、

政策決定段階では「政策の有用性の説明による会議メンバーへの説得」、「巻き込むべき人 的資源の見極め」、「役割や地位の獲得」といった要素を、看護職者が意思決定に参画する 際に必要な要素として導出している。こうした結果にみられるように、病院の政策形成過 程においても看護の専門性が発揮されるようになった。

(3) 訪問看護の普及

わが国の訪問看護は、1972年頃から少数の病院や一部の地方自治体において行われてい たのだが、1982 年老人保健法の制定により、急速に訪問看護への注目が高まった。杉谷

(2001) によれば、日本看護協会では、職能団体として取り組むことの重要性を認識し、本

部内に委員会やプロジェクトチームを発足させることとした。そして、訪問看護の経済的 基盤確保のため、当時の厚生省や国会議員への陳情を行い、退院患者継続看護指導料を診 療報酬上にのせることを、看護職によって可能にした。また、1985年には訪問看護準備室 を設置し、これを基盤として 1993 年の日本看護協会総会では、財団法人日本訪問看護協 会の設立を可決するに至った。

在宅ケアの普及と発展が急務とされ、1987年から国が制度創設モデル事業に乗り出した ことを受けて、日本看護協会は、各都道府県看護協会とともに訪問看護ステーションの創 設に取り組んだ。その後、重点事業として 1995 年開始の新ゴールドプランに対する国の 目標値の1割を目指すこととして、日本看護協会立訪問看護ステーションの設置に向けて 精力的に活動した。その結果、2001年には全国5100箇所を越える訪問看護ステーション が事業展開するに至り、2005年までに9900箇所のステーション設置を目指すこととなっ た。そうした中、訪問看護をはじめとした在宅ケアサービスの普及・発展を図るため、「公 益財団法人 日本訪問看護財団」(日本訪問看護振興財団, 1994) を設立するに至った。日本 看護協会は、このように訪問看護事業を経営面において支援しつつ、看護の質保証にも取 り組んでおり、21世紀・超高齢化社会に向けた高齢者介護、自立支援のための政府への提 言も行っている (杉谷, 2001)。こうした看護職能団体による地域ケアへの看護力の普及は、

専門職的自律性のひとつの側面を示しているといえよう。

性を発揮することにより患者が明らかに利益を得ることが示されれば、自らそのようにす るだろうと述べ、最も早く看護師の autonomy を測定する看護の態度スケール Nursing

Attitude Scaleを開発した。これはnursing autonomyに、患者の擁護、患者の権利、伝

統的な役割制限の拒否の 3 つのサブスケールを置いて測定する。設問内容には、「私は、

医師の行為に納得できない場合、当然その問題を追及する」(香春, 1990, p.81, 訳項目7)、

「患者は自分の診断を告げられるべきである」(香春訳項目 21)、「患者には、ケアを拒否 する権利があると私は思う」(香春訳項目 29) といった項目が含まれる。看護師 702 人に 対する69項目質問紙により、autonomyスコアの高さは、看護師の教育背景、リーダーシ ップ性、職場の学術的環境、伝統的な役割制限の拒否と関連があることが明らかにされた。

しかしながら、ここではnursing autonomyについての定義は明確にされていない。また、

Nursing Attitude Scaleは設問の言葉づかいが曖昧なため、応答者によって解釈がまちま

ちになる (Tranmer, 2005) との論評がある。

Katzman (1989) は、質的研究によって、スタッフ看護師やナース・プラクティショナ

ーの意思決定の権限が欠如しているために、患者ケアにおいて彼らの法的倫理的役割をし ばしば遂行できないでいると結論づけた。そこで、看護師と医師との間の葛藤量とその範 囲を特定するために、看護の役割権限目録Authority in Nursing Roles Inventory, ANRI を開発した。看護師110人と医師53人に対する25項目質問紙により、看護師がより権限 を望むものに対して、医師が最も高い不満を示す項目は、「看護師は患者ケアにおいて医師 と同じくらい発言する」、「看護師は患者に何を教えるかを決める」、「看護師はフィジカル アセスメントを始める」の順であることが示された。また、「看護師は疼痛管理を決定する」

および「看護師は健康問題についての患者の反応を判断する」(p.209-210) という項目で は、医師は看護師の権限を減らすことを望んでいることが明らかにされた。

Dempster (1990/1995) は、看護の専門性はその自律性あるいは自律的実践によって測

定できるとして、看護師の実践における自律的行動の範囲を測定する用具を開発した。デ ンプスター実践行動スケールDempster Practice Behavior Scale, DPBSは、実践状況に おける看護師の個人的autonomyの拡大に関する顕在的潜在的な行動、行為、遂行に焦点 を当てているが、バイアス的反応を避けるためautonomyという語をタイトルに含んでい ないとしている。Dempster は、看護内外の文献検討およびグラウンデッド・セオリー・

アプローチによる質的データから、実践におけるautonomy に関する側面として、自律的 実践行動に結びつく看護師のレディネス(準備性)、エンパワーメント(権限を与えること)、

行動の実現性、評価の4つを明らかにした。さらに、これらの概念に基づき開発した質問 紙へのナース・プラクティショナーおよび登録看護師569人の回答により、4つの側面を サブスケールとする30項目質問紙が開発された。これには、「私は、自分の実践とその行 為に責任をもつ」、「私は、実践すべきことに権威をもって役割を果たす」、「私は、実践に おいて独立して機能するための法的基盤を提供されている」(p.5)といった項目が含まれる。

Blegen、 GoodeとJohnson他 (1993) は、1990年代に、スタッフ看護師のautonomy を増加させるため、病棟管理およびケア提供理論に変化が起こっているが、これらの変化 は一般的な広いレベルで報告されているに過ぎず、スタッフ看護師による特定の意思決定 の変化については記述されていないと述べている。そして、スタッフ看護師が望む特定の 患者ケアおよびユニット(病棟)管理についての意思決定、スタッフ看護師が互いに同意 する関わりの範囲、スタッフ看護師とヘッドナースの知覚を比較することを目的として、

質問紙を開発した。患者ケアに関する21項目、ユニット管理に関する21項目を持つ質問 紙は、スタッフ看護師自律性質問紙Staff Nurse Autonomy Questionnaire, SNAQと呼ば れる。スタッフ看護師356 人とヘッドナース130人に対するSNAQによって、スタッフ 看護師はユニット管理に関する活動よりも患者ケア活動におけるautonomyのほうをより 高いレベルで好むことが明らかにされた。また、看護師が独自の決定を要求するのは、患 者ケア活動においては、「セルフケア活動」、「健康増進」、「薬剤について患者に教えること」、

「患者が落ち込むことを防ぐこと」「皮膚の破綻を防ぐこと」、「疼痛管理」などであり、ユ ニット管理活動においては、「交替時間の調整」、「自身の休憩と昼食時間の決定」、「受け持 ち患者の割り当て」、「部門の委員会に参加する」(p.341)、といった項目が明らかにされた。

BlanchfieldとBiordi (1996) は、スタッフ看護師が効果的な実践を行うためには、彼ら

の権限の承認と患者ケアを管理し提供するautonomyによって力づけられる必要があると 述べている。そして、Katzman の ANRI など既存スケールのサブスケール項目から、看 護の権限と自律性スケールNursing Authority and Autonomy Scale, NAASを開発した。

NAASは、スタッフ看護師の権限とautonomyについての看護師の知覚、autonomyの重 要性についての看護師の知覚を測定する。NAASのautonomyスケールには、「看護師は、

時々、自分たちのより良い専門的看護判断に反して事を行うよう要求される」、「看護師は、

管理者が自分たちを支援してくれることを適当と考えており、あてにすることができるの で、仕事における重要な決定をする自由がある」、「看護師は、非常に多くの責任はあるが、

権限は不十分である」(p.44) といった項目が含まれる。看護管理者 88 人とスタッフ看護 師511 人に対するこの50項目質問紙により、スタッフ看護師のautonomyの知覚は、看 護管理者のそれより有意に高く、夜勤看護管理者は、スタッフ看護師の権威と autonomy の重要性をより高く評価しており、集中治療室または救急ユニットで働く看護師は、他の 専門ユニットで働く看護師に比べて権威の知覚が有意に高く、看護師の権限と autonomy の知覚は、所属する病院によって大きく影響を受けることなどが明らかにされた。

この他に、モラル実行の側面に焦点を当て、ルールに自律的に従うことを測定する

Kurtines’ Autonomy Scale (Kurtines, 1978) や、看護学生のautonomyに関連する特性と

行動を測定するAutonomy, the Caring perspective Instrument , ACP (Tranmer, 2005)、

集中治療室看護師の仕事遂行と意思決定に関する項目を測定するThe Hellenic intensive care nursing autonomy scale (Papathanassoglo, Tseroni, Karydaki et al., 2005) などが

ある。また、Varjus他 (2011) は、1966年から2009年の間に公刊された病院看護師の専 門的自律性についての経験的研究に焦点を当てて文献レビューを行った。その結果、専門 的自律性の測定用具については、以前に開発された仕事特性や看護師の職務満足度、仕事 環境あるいはautonomyの測定用具が用いられたり、それらの修正版が用いられていたこ とを明らかにしている。

わが国におけるautonomy測定のための用具は、これまでのところ2つ存在するが、看 護職により開発されたものは、菊池と原田 (1977) の「看護の専門職的自律性測定尺度」

に限られている。この尺度は、基礎看護教育における看護技能の到達目標を取り上げた書 籍、指導の手引きを参考にして、看護師の専門職的自律性を構成する状況の認知、判断、

実践の側面を測定する項目を導き、作成された。看護師370名の回答から最終的に、認知 能力、実践能力、具体的判断能力、抽象的判断能力、自立的判断能力の 5 サブスケール、

47項目の質問紙とされた。しかしながら、ここでは「専門職的自律性」の定義づけは明確 にされていなかった。また、その質問項目は「私は治療が患者に及ぼす心理的影響を予測 することができる(認知能力項目)」、「私は緊急時にも落ち着いて看護を行うことができる

(実践能力)」、「私は患者の多くの情報から必要な看護を選択することができる(具体的判 断能力)」、「私はモデルを用いて看護方法を決定することができる(抽象的判断能力)」

(p.247) といった設問となっており、これらは、看護師の自律性というより看護アセスメ

ントや患者との関わり方といった看護実践の仕方に関する設問陳述と言わざるを得ない。

また、「自立的判断能力」として、「私は患者が心情を表現してこないと精神的援助を計画 できない」、「私は患者の言動に惑わされて適切な看護方法を選択できない」、「私は他者の 助言を受けなければ看護方法を選択することができない」、「私は患者の意志を尊重せずに 看護方法を選択してしまう」、「私は患者の訴えがないと何を看護すべきかわからない」

(p.247) の 5 設問が置かれており、これも看護師の専門的自律性の側面というより、患者

把握と看護アセスメントに関する設問陳述と言わざるを得ない。そして尺度としての検討 については因子分析が行われているが、むしろ内容的妥当性や構成概念妥当性については 触れられておらず、看護師の専門的自律性を測定する用具としては疑問が残る。

また、応用心理学の領域において、田尾 (1979) による「自律性の測定尺度-看護師の 場合-」が開発されている。この尺度は、サブスケールに地位、専門的技能、個人特性を 下位概念として置く36項目の質問紙で、自律性調査項目には、「困ったことがおきても自 分で始末している」、「自分のしている仕事は専門的な知識をもった人以外には分からない」、

「たいていの仕事は自分の判断に任せられている」(p.10) などが置かれている。このよう に設問項目は、専門職一般に共通するものと言わざるを得ず、看護職に特有の自律的側面 を測定するとは考えにくく、この意味で内容的妥当性に疑問が残る。