4.2.1 ASEAN進出の本格化
1980年代半ばまでにASEAN5への投資はどのような変化と到着点に達したのか、
ASEAN における立地条件はどのように日本の急速な海外直接投資に影響したのか
という点について明らかにしよう。
図表 4-5のように、1984年末累計(1951~1984年末)において、金額で日本の海 外投資額は668億8,800万ドルの水準に達した。その地域別内訳を見ると、ASEAN5 が 17%を占めている。個別に見ると、インドネシアが約 79 億 1,500 万ドルと ASEAN5全体の約64%を占め、以下シンガポールの18億7,800万ドル、マレーシ アの10億4,600万ドル、フィリピンの 8億3,000万ドル、タイの 6億9,100万ド ルという順であった。
では、ASEAN5の対内投資額の中で、占めている日本のウェイトはどれほどなの か、国別で見てみよう。
図表4-5 1984年末ASEAN5における日本の直接投資残高
(日本側統計、届出ベース)(単位:億ドル、%) 国別 インドネシア シンガポール マレーシア フィリピン タイ 小計 世界
金額 79.15 18.78 10.46 8.3 6.91 123,46 688,88
構成比 11.5 2.7 1.5 1.2 1 17.9 100
出所: 浅野孝夫『アジアと日本100年経済ドラマ』(東洋経済新報、1986年)、p.197。
及び『ARCレポート-マレーシア-』(財団法人世界情報サービス、1987年)、p.12より作成。
図表4-6 インドネシアの外資認可累計額(ネットの内訳)
1984年12月末現在(単位: 100万ドル、%)
国別 件 金額 構成比 業種 件 金額 構成比
米国 93 1,265.9 8 農業 47 302.1 1.9
西ドイツ 29 413.1 2.6 林業 46 182.6 1.2
英国 50 237 1.5 漁業 29 172.0 1.1
オランダ 50 527.9 3.3 鉱業 12 1,520.6 9.6
スイス 21 159.1 1 製造業 547 12,305.2 77.6
日本 203 4,737.2 29.9 繊維 77 982.1 6.2
香港 135 1,763.9 11.1 化学 149 2,671.9 16.8
シンガポール 27 155.7 1 金属製品 159 4,195.9 26.5
韓国 20 128.5 0.8 非金属 29 921.3 5.8
Aus+New 41 129.1 0.8 その他 137 3,534.0 22.2
その他諸国 103 2,199.5 13.9 建設 72 214.9 1.4 複数国の合弁 70 4,069.2 25.7 その他 89 1,161.8 7.4
総合 844 15,859.2 100 総合 844 15,859.0 100
注: Aus+Newは、オーストラリアとニュージーランド。
出所:『ARCレポート-インドネシア-』(財団法人世界経済情報サービス、1986年)、p.35。
まず、インドネシアの場合、インドネシア投資調整庁(BKPM)のデータで見ると、
1984年末時点の日本の対インドネシア投資残高累計は47 億3,700 万ドル(203 件) となっており、インドネシアの対内直接投資累計額の29.9%を占め、第一位の投資 国となった。それはアサハン・アルミ・プロジェクト、LNG開発案件などの大型投 資があったためである。
1984年の日本からの新規投資認可は、シームレス・パイプ、自動車クラッチ製造 の2件、3,110万ドルであった。ほかに、拡張投資が16件、8,116万ドル、増資が 11 件、4,537 万ドルであった。1985 年の動向を見ると、新規案件は横浜ゴムの産 業用ゴム943万ドル、日本精工の高精密ネジ244万ドル、新潟鉄工のディーゼル・
エンジン 1,075万ドル、前川製作所の冷凍用コンプレッサー123万ドル、日野トレ ーディングの180万ドルの合計5件、2,600万ドルで、拡張投資は自動車関連を中
心に8件4,100万ドルであった。ほかに、旭ガラスのオレフィン・プロジェクト 2 億ドル、日系5社の自動車用鋳物1億1,520万ドルなど5件が仮認可を受けた5。
このように、資源開発などの大型投資に加え、自動車関連の投資案件が増加して きたことが分かる。
図表4-7 業種別日本の対マレーシア直接投資額累計(1951~1984年) (単位: 100万ドル)
業種 件数 金額 業種 件数 金額
総計 879 1,046 非製造業合計 377 279
製造業 466 759 農・林業 47 28
食料 32 22 魚・水産業 7 1
繊維 47 137 鉱業 32 120
木材・パルプ 71 52 建設業 82 19
化学 46 180 商業 106 47
鉄・非鉄 52 138 金融 17 13
機械 20 11 サービス 30 21
電機 91 94 運輸 7 4
輸送機械 23 89 不動産業 6 4
その他 84 37 その他 43 22
出所:『ARCレポート-マレーシア-』(財団法人世界経済情報サービス、1987年)、p.12。
マレーシアの場合は、図表 4-7 のように、1951~1984 年度累計では総件数 879 件、金額10億4,600万ドルである。業種別で見ると製造業が466件で、7億5,900 万ドルで最も多かった。その中で、化学の1億8,000万ドル、鉄・非鉄金属の1億 3,800万ドル、繊維の1 億3,700万ドルの順になっており、日本企業の対マレーシ アの投資が繊維に代わって化学、電機などウェイトが次第に上昇してきたことが分 かる6。
図表4-8 日本の対シンガポール直接投資推移(1972~1985年)
(単位: 100万ドル、件)
年度 1972 1973 1974 1975 1976 1977 1978 1979 1980 1981 1982 1983 1984 1985 累計
件数 72 82 55 64 83 89 161 166 132 164 154 184 108 110 1,624
金額 42 81 51 52 27 66 174 255 140 266 180 322 225 339 1,930
注: 件数の累計は1972~1985年。金額の累計は1951~1985年3月末。
出所: 日本貿易振興会(ジェトロ)『海外投資白書』各年版、及び「直接投資統計」
(http://www.jetro.go.jp)より作成。
日本のシンガポールに対する直接投資は、1985年3月末までの累計で19億3,000
5『ARCレポート-インドネシア-』(財団法人世界経済情報サービス、1986年)、p.34。
6『ARCレポート-マレーシア-』(財団法人世界経済情報サービス、1987年)、p.12。
万ドルであり、日本の対外直接投資全体の2.7%を占め、第九位の投資先となった。
1980年代前半で見ると、1982年度に 1 億 8,000 万ドル、1983 年度に 3 億 2,200 万ドル、そして1985年度には3億3,900万ドルが投資された。
シンガポール側から見ると、製造業における日本の投資残高は、1983年12月末 に22億3,600万シンガポール(S)ドルで、米国に次ぎ第二位となっている。各年の 投資契約額(石油化学関連を除く)は、1979年の3億1,937万S ドルを最高記録に、
1980年の1億3,966万Sドル、1981年の2億2,532万Sドルとなり、1982年に は石油業界不況の影響で7,373 万S ドルに落ち込んだ。しかし、1983年には 1 億 6,654万S ドルと回復し、1984年も 1億 6,755 万S ドルと前年並みのペースを保 った7。日本企業のシンガポール進出の動機については、次項でさらに議論する。
図表4-9 日本の対タイ直接投資推移(1972~1985年)
(単位: 100万ドル、件)
年度 1972 1973 1974 1975 1976 1977 1978 1979 1980 1981 1982 1983 1984 1985 累計 件数 62 76 60 26 27 38 50 68 58 52 66 73 76 51 783 金額 30 34 31 14 19 49 32 55 33 31 94 72 119 48 760
注: 件数の累計は1972~1985年。金額の累計は1951~1985年3月末。
出所: 日本貿易振興会(ジェトロ)『海外投資白書』各年版、及び「直接投資統計」
(http://www.jetro.go.jp)より作成。
一方、タイの場合、1985年末現在における日本のタイ国への直接投資累計は、7 億6,000万ドル、年別推移を見ると1981年までは停滞気味であったが、1982年に 急増しその後高水準の投資が続いている。1960年代に輸入代替産業への投資が中心 であったが、1980年代には輸出志向型産業への投資が活発となり、増加の主因とな った。
業種別に見ると、製造業への進出が圧倒的であるが、消費市場の発展とともに 1984~1985 年にはデパートやスーパーなどの進出が目立っている。1985 年現在、
日系企業は製造業を筆頭に約470社が活動しており、タイ人の雇用は7万2,143人 に達した。
輸出型産業への投資は、繊維、ベアリング、ファン・モーター、コンピュータ、
プリンター、PVC(ポリ塩化ビニルまたは塩化ビニル樹脂)、プラスチック・レンズ、
衛生陶器、自動車・トラック、電子機器用ケーブルなど、1984年に入ると多岐の製 造業分野におよんでいる。また、流通部門においてもジャスコ(現イオン)など次々
7『ARCレポート-シンガポール-』、p.15。
と進出していることが分かる8。
さらに、日本の対フィリピン投資は1972年までは微々たるものであったが、1973 年以降に急増し、特に1974年には前年度比73.2%増の5,900万ドル、1975年には 同152.5%増の1億4,900万ドルとピークに達した。これは、1973年以降の同国の 開放的外資政策によることが大きな要因だと考えられる。
しかし、第二次オイル・ショック後、日本の対フィリピン投資は、それまで主流 になりつつあった労働集約型輸出産業への投資が低迷し、大型工業プロジェクトが らみの投資が散見された程度で、全般的に日本企業の進出は鈍化した。
1980年9月時点の日本貿易振興会(現日本貿易振興機構)の集計によると、日系企 業は約 740 社、日本側出資比率は 30~40%に集中し、約 7 万 4,000 人の新規雇用 を創出した。製造業投資分野では、化学品の 40 社、電気機器 36 社、輸送機器 23 社、繊維20社、衣類はきもの(14社)、木材加工(14社)が主なものであった9。
図表4-10 日本の対フィリピン直接投資推移(1972~1985年)
(単位: 100万ドル、件)
年度 1972 1973 1974 1975 1976 1977 1978 1979 1980 1981 1982 1983 1984 1985 累計 件数 23 74 55 64 50 58 44 43 36 28 19 20 12 9 535 金額 10 43 59 149 15 27 53 102 78 72 34 65 46 61 814
注: 件数の累計は1972~1985年。金額の累計は1951~1985年3月末。
出所: 日本貿易振興会(ジェトロ)『海外投資白書』各年版。及びhttp://www.jetro.go.jpより作成。
図表4-11 ASEAN5における外国企業の投資残高シェア
マレーシア(1985年度、%) インドネシア外国投資認可(ネット)の内訳、1984年12月末 1 イギリス 28.9 主要国別 件数 金額(100万ドル) 構成比(%)
2 日本 27.3 1. 日本 203 47,373.20 29.9
3 シンガポール 18.4 2. 香港 135 1,763.90 11.0
4 香港 5.1 3. アメリカ 93 1,265.90 8.0
5 アメリカ 6.6 4, オランダ 50 527.9 3.3
シンガポール(1983年、%) フィリピン(1983年末、%) タイ(1983末、%)
1 アメリカ 33.0 1. アメリカ 52.0 1. 日本 24.3
2 日本 20.0 2. 日本 17.0 2. アメリカ 10.2
3 イギリス 16.0 3, 香港 6.0 3. イギリス 7.8
出所: 浅野孝夫『アジアと日本100年経済ドラマ』(東洋経済新報、1986年)、p.198。
及び『ARCレポート』(財団法人世界経済情報サービス)、1986~1987年国別より作成。
図表4-11は、1985年までのASEAN各国への投資国別残高構成をまとめたもの である。同表によると、日本の割合は、インドネシアが29.9%と最も高く、以下マ
8『ARCレポート-タイ-』、p.15。
9『ARCレポート-フィリピン-』、p.15。
レーシアの27.3%、タイの24.3%、シンガポールの20%、フィリピンの17%の順に なっており、日本のウェイトは急に上昇しているのが分かる。
さらに、これを個別国の外資受入順位を見ると日本のシェアは、タイ、インドネ シアでトップの地位を占め、フィリピン、シンガポール、マレーシアでも第二位の 地位を占めるまでに至っている。日本はアメリカに代わり、単に貿易の分野だけで なく、海外直接投資の分野においても、ASEAN に対する最大の投資国となったの である。これは、日本企業によるASEANへの生産拠点のシフトが急速に進んだこ とを示している10。
また、地域別従業員数の分布を見ても1984年度にアジアが48万8,074人で全体 の53%を占め、最も多かった。その中で、ASEAN4が26万8,243人でアジア全体 の約55%に達し、世界全地域の28.98%を占めた。
図表4-12 地域別従業員数推移(1983~1984年)
(単位: 人)
年度 北米 中南米 アジア ヨーロッパ その他 全地域
アメリカ アセアン EC
1983 94,521 82,588 101,120 363,835 194,980 50,363 33,777 62,768 672,609 1984 156,959 142,220 131,103 488,074 267,243 73,091 53,674 76,527 925,753 出所:『第15回我が国企業の海外事業活動』(通商産業省、1988年)、p.103。
このように、ASEANに対する日本企業の投資は、日本の海外投資額全体の17.9%
を占めているのに対し、現地法人の割合と従業員の割合はそれぞれ21.2%と28.98%
に達している。これは、1970年代以降、製造業を中心に多数の日本企業が付加価値 が低く、投資額の比較的小さな投資を行い、労働集約的な活動を行ってきたことを 示している。
しかし、すでに見たように、ASEAN5における日本企業の進出の状況は、製造業 においては、1980年代に入ると、とりわけ繊維は脱落し、これに代わって電機、輸 送機械、化学が中心となった。
これは、日本企業が日本国内の投資制約要因の増加、欧米との通商摩擦の回避な どに対応し、同時に、ASEAN 諸国の立地条件の改善、安価な賃金を求めた労働力 志 向 型 や 最 適 地 立 地 を 求 め た 立 地 志 向 型 投 資 と 国 際 分 業 を 展 開 す る た め に 、
ASEAN への投資が本格化させたことによるものと考えられる。これについては、
10 小林英夫『東南アジアの日系企業』(日本評論社、1992年)、p.27。