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東アジアにおける FTA などによる経済統合の進展

ドキュメント内 博士論文 (ページ 182-191)

第七章 グローバル金融危機、自然災害と新たな展開(2008 年以降)

7.4 東アジアにおける FTA などによる経済統合の進展

7.4.1 AEC、ASEAN+1 FTAの確立と日本企業の経営戦略

GATT/WTO では、地域統合に関する制度として地域貿易協定(RTA) が認められ ているが、RTA にはFTAと関税同盟が含まれている。東アジアにおいて設立されつ つあるRTA の全てがFTAであるということから、FTAとRTAを同義語として用い ると指摘している53

また、日本外務省の定義によれば、FTA(Free Trade Agreement)は、幅広い経済 関係の強化を目指し、貿易や投資の自由化・円滑化を進める協定である。日本はよ り幅広い分野を含むEPA(Economic Partnership Agreement)を推進してきた。し かし、近年世界で締結されているFTAの中には、日本のEPA同様、関税撤廃・削 減やサービス貿易の自由化にとどまらず、様々な新しい分野を含むものも見受けら れている54

日本貿易振興機構の『2014年版ジェトロ世界貿易投資報告』によると、世界の自 由貿易協定(FTA、発効済み)の数は、2014年7月25日現在で264件に達した55

浦田秀次郎(2005)は次のように言う。「現状ではWTOではなくFTA が選択され る理由が、いくつかある。例えば、FTA の動機として海外市場の確保及び国内規制改 革だけでなく、WTO の下での貿易自由化と比べて FTA での合意がより短期間に 行われるというスピード面での優位性である。そして、参加国数が少ないということ とも関連するが、ルールが必要であると認識されていても、未だWTOではルール化 されていない分野でのルール作りができることなどである56。」

経済統合が進んだ代表的な地域は、EU、NAFTA、東アジアである。さらに浦田は、

「地域統合の進展のスピードに関しては、EU では 1980 年代において、急速に地域 統合が進んだのに対して、東アジアや NAFTA では、1990 年代において地域統合の 進展スピードが加速した」と指摘する。

東アジアにおいては、貿易と直接投資の活発化によって地域統合が進んでいる。

53 浦田秀次郎「東アジアにおける経済統合の進展とFTA 形成への動き: 日本の役割」『グ ローバリゼーション下のアジアと日本の役割』(JICA研究所: 2005年度報告書)pp.

52-53。

54 日本外務省「EPA(経済連携協定)・FTA(自由貿易協定)」パンフレット・改訂版(2012 3月)(http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/pr/pub/pamph/epa_fta.html)(2015/1/12)。

55『2014年版ジェトロ世界貿易投資報告』、p.36。

56 浦田秀次郎「東アジアにおける経済統合の進展とFTA 形成への動き: 日本の役割」pp.

53-54。

同時に、東アジアにおいて多数の二国間・複数国間のFTAが併存することによって、

関連するルールが複雑にならないようにしなくてはならない。日本企業の経営に大 きなインパクトを与えると考えられるFTAとしては、前述AFTA(AEC)、ASEAN プ ラス1 FTA(ASEAN+1 FTA)、RCEP、TPPなどが挙げられる。

特に、2015年末までにASEAN経済共同体(ASEAN Economic Community: AEC) が計画通り確立されれば、ASEAN域内のCEPT適用品目の関税が原則 0%となる。

そ し て 、 現 在 、 交 渉 が 進 ん で い る RCEP (Regional Comprehensive Economic Partnership)と TPPの相互補完により、将来的にはアジア太平洋自由貿易圏(Free Trade Area of the Asia-Pacific: FTAAP)が実現されると予想される。

さらに、AECへの関心が急速に高まっている。ASEAN は2015年末までに「政 治安全保障共同体」、「経済共同体」(AEC)、「社会文化共同体」の三つの共同体から 構成される「ASEAN 共同体」の創設を目指している。ASEAN 共同体の基盤とな るのがAECである。

ASEAN は 2007年に AEC 構築を目指して『AEC ブループリント』を発表して いる。そのブループリントによると、AECの四つの戦略特徴は、①単一の市場と生 産拠点(市場統合)、②競争力のある地域(情報・輸送・エネルギー関連インフラ整備、

競争政策など)、③衡平な(equitable)経済発展(格差是正と中小企業育成)、④グロー バル経済への統合(域外との FTA)となっている。

実施スケジュールは、2008 年から2015年を対象とし、2年ごとの四つのフェー ズに時期区分されている。AEC における四つの戦略的特徴の中で、最も重要な特 徴は、「単一の市場と生産拠点(市場統合)」である。そして、単一の市場と生産拠点 (市場統合)は、①物品の自由な移動、②サービスの自由な移動、③投資の自由な移 動、④資本のより自由な移動、⑤熟練労働者の自由な移動、⑥優先統合分野及び食 品・農林業での統合を実現することである57

「モノ、サービス、人、資本が自由に移動する」のは、「共同市場」と呼ばれる が、ASEANが目指しているのは、ASEAN自由貿易地域(AFTA)を核にサービス、

人の移動で部分的自由化を目指す緩やかな経済共同体であり、いわゆる「FTAプラ ス」である58。その「物品、サービス、資本、人の自由な移動」が行われるのは、

57 優先12分野には、自動車、ゴム製品、繊維・アパレル、農産物加工、水産業、エレク トニクス、e-ASEAN、ヘルスケア、航空、観光、物流などが掲げられている。

58 深沢淳一・助川成也『ASEAN大市場統合と日本-TPP時代を日本企業が生き抜くには

EUのような共同市場であるが、AECはEUとは異なり、市場統合のレベルと範囲は、

FTAと共同市場の中間であり、日本政府が推進しているEPA(経済連携協定)に類似 しているとした59

さらに、ASEANはAECにより域内経済の統合を進めると同時に、周辺パートナ ー国との貿易自由化も進めてきた。2010年までに日本、中国、韓国、インド、オー ストラリア・ニュージーランド 5 カ国(ASEAN では「対話国」と呼ばれる)との、

いわゆる「ASEANプラス1 FTA」(ASEAN+1 FTA)がすべて発効しており、これ らのFTAの利用を促進する取り組みも進められている。

例えば、2010年10月には、ASEAN 中国FTA(ACFTA)でリインボイスによる仲 介貿易を正式に認める第二修正議定書が署名され、各国での国内手続きを経て、す べての国で発効した。それまでは仲介貿易が認められていなかったため、ACFTA を 利用できない日系企業も多かった。また、2012年1月には、ACFTAで猶予されて いた一部のノーマルトラック品目(いわゆるノーマルトラック 2)の関税が撤廃され、

センシティブ品目の関税も20%以下に引き下げられている60

次に、日本企業が AEC と「ASEAN+1 FTA」を活かして、どのような動きを行 なっているのかを見る。

深沢淳一・助川成也は、次のように分析する。「これまで日本企業は、ASEANを、

豊富で安価な労働力などを活用し労働集約的工程を担う拠点もしくは普及品の製造 拠点と見做してきた。しかし、日本側では労働力の減少、技術者の絶対的不足、そ して市場自体の縮小などが避けられない中、ASEAN 側は豊富な労働力に加え、技 術の蓄積が進展していること、FTAの実現などから、ASEANに対しより戦略的な 役割を付加する企業が出ている。AFTA(AEC)を活用し ASEAN でより効率的な生 産・供給体制を構築することが出来ると考えられる61。」

例えば、トヨタは日本から独立した調達・供給体制を構築し、IMV(革新的国際多 目的車)プロジェクトのマザー工場として、タイではピックアップトラック「ハイラ ックス・ヴィーゴ」を、またインドネシアではミニバン「キジャン・イノーバ」の

-』、p.241

59 石川幸一「ASEAN 経済共同体(AEC)創設と日本企業の戦略」『グローバル経営』(2013 10月号)(http://www.joea.or.jp/wp-content/uploads/pdf/2013_10_008.pdf)

60 大泉啓一「中国市場の開拓・確保にASEANを活用する」『環太平洋ビジネス情報RIM』

Vol.12, No.47(2012年)、p.20参照。

61 深沢淳一・助川成也『ASEAN大市場統合と日本-TPP時代を日本企業が生き抜くには

-』、p.158。

生産を開始した。IMVは完成車としてASEAN域内をはじめ世界に輸出されるのみ ならず、KD(Knock-Down)部品キットとして他国・地域のトヨタ工場に供給体制を 構築した。

また日産も小型車の「マーチ」で、タイをマザー工場に位置付け、日本から独立 した調達・供給体制を構築し、タイ国内、ASEAN のみならず、日本を含めた世界 各国に供給体制を構築した。

また、五つの「ASEAN+1 FTA」は、戦略拠点としての「ASEAN」の調達・供 給機能強化のインフラの役割を果たすことが期待されている。さらに、ASEAN は 主な原材料・部品の調達先である日本のみならず、今後、世界経済を牽引していく ことが期待される中国やインドなど「アジア新興市場」とFTAを通じてつながって いる。ASEANはFTAを挺子にした「新興市場開拓の最前線」として戦略的な役割 が期待されている。

注目すべきは、五つの「ASEAN+1 FTA」による関税削減・撤廃の進展によって、

ASEAN と五つの対話国との間で「集中生産・相互補完体制」への移行、またドラ

スチックな拠点の統廃合などの動きが起きるかどうかである。通関円滑化を通じた 総合的な物流効率化により、相互補完や完成品供給が考えられる程度まで物流リー ドタイムが短縮できれば、一部の品目でASEANと五つの対話国・地域間での生産・

調達体制の見直しの動きが出る可能性がある。

すでに ASEAN を越えた再編の動きが出ている。例えば、ソニーは、2000 年代 前半、中国を除くアジアでは、マレーシア、タイ、ベトナム、インドの4カ国でテ レビを生産していた。しかし、AFTA の実現によって、ASEAN 域内拠点を統廃合 したため、ベトナムでの製造が中止された。また、ASEAN 域外でもドラスチック に拠点再編に乗り出した。タイとインドとの間で2004年9月からFTA早期関税引 き下げ(Early Harvest: EH)措置により、テレビの関税削減が開始されると、翌月 10月にはインドでの生産を中止し、タイからの輸出に切り替えた62

それ以降、タイ製造工場は国内供給のみならず、ASEAN、インドへの供給拠点 の役割を担っているが、さらに、『日本経済新聞』(2009年10月13日付)は、ソニ ーがタイでの液晶テレビ生産を2010 年3 月まで修了し、代わって同拠点ではデジ タル一眼レフカメラ部品を生産すると報じていた。

62 同上、p.159。

これは、2010年1月に ASEAN・インド FTA(AIFTA)が発効することを踏まえ、

ソニーは薄型テレビの生産を主力工場であるマレーシアに集約し、同拠点から液晶 テレビを、中国を除くアジア市場全体に供給する体制の構築を図ったためである。

AIFTAの下、インド側でテレビの関税削減は、2010年1 月に始まったものの、撤 廃は2013年末であった。一方、タイから輸入する場合は、EHにより、すでに関税 は撤廃されている。そのため、ソニーは AIFTA の関税撤廃を待つことなく、経営 全体の効率化・最適化を目的に、マレーシアからの供給を決めたといえる63

また、深沢淳一・助川成也は、これまで自動車分野を中心に、ASEAN と中国と の拠点間の取引は限られる傾向にあり、多くの企業では ASAEN と中国拠点間は、

仕向先を分担するなど事業戦略上異なる役割を担わせてきた。しかし、FTAの進展 により、リスク回避・分散を念頭に、緊急的に両国・地域間で原材料や部品、完成 品の相互供給ができるよう体制を整備する企業が増えている。

ジェトロの調査によると、在ASEAN企業の53.4%は、代替生産・供給体制を持 っており、その中で、30.3%は中国を代替生産国としている。そのため、万が一の 事態に即座に対応出来るよう、両地域の円滑な取引を阻害する関税障壁・非関税障 壁の削減・撤廃が必要となるであろうと指摘している64

7.4.2 RCEPTPPによる東アジア経済統合とその対応

上述のように、ASEAN はAEC により域内経済の統合を進めると同時に、周辺 パートナー国との貿易自由化も進めている。2010年までに日本、中国、韓国、イン ド、オーストラリア・ニュージーランドとの五つの「ASEAN+1 FTA」がすべて発 効しており、これらのFTAの利用を促進する取り組みも進められている。

2011年にはASEANを中心とした東アジアの経済統合でも大きな前進があった。

東アジアでは、AEC を抱き込むように RCEP、TPP の二つの地域統合交渉が、同 時並行で進み始めた。同年 11 月に開催された東アジア首脳会議(EAS)において、

ASEAN 側により東アジアの包括的経済連携(RCEP)構想が提示され、物品貿易、

サービス貿易、投資ルールの3分野で政府間の作業部会を設置することが合意され た。

RCEP は、五つの「ASEAN+1 FTA」を統合させた FTA を目指す広域経済連携 構想である。日本貿易振興機構(2012)は、「日本が推進するCEPEA(東アジア包括的

63 同上、p.159。

64 同上。

ドキュメント内 博士論文 (ページ 182-191)