5.3.1 ASEANに進出している日系企業の状況
図表5-4 1995年度末地域別現地法人数
国・地域別
製造業 非製造業 全産業
社数 シェア(%) 社数 シェア(%) 社数 シェア(%)
北米 1,134 21.6 1,452 28.1 2,586 24.8
アジア 2,979 56.8 1,621 31.3 4,600 44.2
中国 746 14.2 162 3.1 908 8.7
ASEAN4 1,114 21.2 495 9.6 1,609 15.4
NIES 1,042 19.9 923 17.8 1,965 18.9
ヨーロッパ 752 14.3 1,206 23.3 1,958 18.8
その他 378 7.2 894 17.3 1,272 12.2
全地域 5,243 100 5,173 100 10,416 100
出所:『第26回我が国企業の海外事業活動』(通商産業省、1998年)、p.24。
すでに見たように、1986 年以降、日本企業の ASEAN 進出がさらに盛んになっ た。図表5-4によると、1995年度末にASEANにおける日系現地法人総数は1,609 社で、その中で製造業が約70%を占めている。いうまでもなく、ASEANで展開さ れている大規模な輸出型企業では、その製品は世界水準の品質とコストを求められ る。本節では、ASEAN における日系製造業は、これを実現するためにどのような 問題に直面し、それらをどのように解決したのかを見ることにする。
1995年12 月から1996年 1月にかけて実施したジェトロ『ASEAN日系製造業 の活動』の調査によれば、ASEAN5 カ国合計回答企業数の 977 社のうち業種別内 訳では、「電子・電気機器」が最も多く、シェアは24.3%(237社)であった。その他 では、「金属製品」が 10.7%(104 社)、「化学・医薬品」が 10.2%(100社)、「繊維・
同製品」8.8%(86社)、「輸送用機器」が8.5%(83社)であった。この時期の日本企業
の進出の特徴としては、業態では部品など中間材部門、規模では中小・中堅、操業 開始年が比較的新しいことが分かる。
「電子・電気機器」は、フィリピン、インドネシア以外の国で最大の業種となっ ており、マレーシアの 33.1%、シンガポールの 29.8%が目立つ。「輸送用機器」は フィリピンとタイのシェアがそれぞれ 19.3%、8.8%と他国に比べて高い。「繊維・
同製品」のシェアはインドネシアが 19.7%と他国よりも高い。「化学・医薬製品」
はシンガポールが16.3%、インドネシアが14.8%と他国に比べて高い。
一方、企業の業態を見ると、組立加工44.3%(398 社)、部品40.8%(367社)、素材 加工27.0%(243社)と組立加工と、部品メーカーのシェアがほぼ拮抗している(重複 回答有り)。
国別では、タイとフィリピンが組立加工にそれぞれ 52.2%、51.3%の回答があっ た。マレーシアとシンガポールは部品がそれぞれ 48.0%、46.3%で、組立加工の 38.7%、36.8%を 上 回 っ た 。 シ ン ガ ポ ー ル の 場 合 は 、 部 品 の 国 際 調 達 拠 点 (International Procurement Office: IPO)としての機能を有していることが、部品 メーカーの形成に寄与している。インドネシアは、組立加工 40.0%、部品 35.1%、
素材加工36.8%と各業態のバランスが取れていること、素材加工の比率が他国より
も相対的に高いことが特徴となっている。
自社の業態が部品あるいは素材加工に該当すると回答した企業に取引先の業種 を訪ねたところ、電子・電気機器が 47.6%(268 社)と半分近く占めた。国別ではマ レーシア(61.9%)とシンガポール(60.3%)の比率が高い。輸送用機器は20.2%(114社) と、電子・電子機器に納めている企業の半分以下であった。
輸送用機器の中で最も高い回答の多い自動車産業と電子・電気機器を比較した場 合、部品に求められる精度、品質基準などは自動車産業の方が高い。ASEAN では そうした高度な部品を作ることができる技術者(エンジニア)が不足しており、自動 車部品メーカーの進出が電子・電気機器に比べて遅れている一因となっていると考 えられる。
また、ASEAN 進出日系製造企業の営業収益状況を見ると、黒字が 68.0%(うち、
大幅な黒字は 10.3%)、収支均衡が 11.7%、赤字が 20.3%(うち、大幅赤字は 6.9%) であった。ジェトロが同時期に在米、在欧進出日系企業に行った同種の調査による と、営業黒字を計上している企業のシェアは、米国が66.5%、欧州が 57.5%であり、
ASEAN進出している日系企業の方が黒字経営の比率が高い。
ASEANで生産を行っている日系製造業の中には、操業の歴史が浅い企業も多く、
1990 年以前に ASEAN で操業を開始した企業に限定すると、営業収支の黒字計上
率は76.1%に達した。新規投資の場合、初期投資の回収に時間がかかるため、2~3
年で収益を黒字化することは難しい。現に1991 年以降に ASEAN で操業を開始し た企業で、収益が黒字を計上している企業のシェアは46.9%に過ぎなかった。
国別に見ると、シンガポールに進出している日系製造業が、最も多く営業黒字を 計上しているのに対し、フィリピンは48.0%にとどまった。ただし、フィリピンへ の日系製造業の進出は1990年代前半に集中しており、1990年以前に操業を開始し た企業だけを見ると黒字計上率は74.3%へと上昇している27。
図表5-5 ASEAN5における日系製造業の業種別内訳
タイ マレーシア フィリピン インドネシア シンガポール 全体 繊維・同製品 30(9.5) 10(3.7) 6(7.2) 40(19.7) 0 86(8.8) 化学・衣料品 31(9.8) 15(5.6) 7(8.4) 30(14.8) 17(16.3) 100(10.2)
金属製品 39(12.3) 21(7.8) 12(14.5) 18(8.9) 14(13.5) 104(10.2)
電子・電機機器 74(23.3) 89(33.1) 13(15.7) 30(14.8) 31(29.8) 237(24.3) 輸送用機器 28(8.8) 19(7.1) 16(19.3) 16(7.9) 4(3.8) 83(8.5)
その他 132(41.6) 124(46.1) 36(43.4) 36(43.4) 46(44.2) 416(40.5)
合計 317 269 84 203 104 977
注: ①その他は、「食品・農水産加工」「木材・パルプ・紙」「石油製品」「鉄鋼・非鉄金属」「一般 機械」「精密機械」「その他の製造業」からなる。
②複数業種に回答した企業があるため、各業種の和は製造業の数と必ずしも一致しない。フィ リピンは無回答一件含む。③シェアの分母は有効 回答を用いている。
出所:『ASEAN日系製造業の活動状況』(ジェトロ、1996年)、p.10。
5.3.2 ASEANにおける経営上の問題とその対応
続いて、ASEAN 進出日系製造業の抱える問題について見よう。また、ジェトロ の同上の調査によると、ASEAN各国における経営上の問題点としては、「労務問題」
を挙げた企業が最も多く、64.1%(610社)に及んだ。続く第二位は「従業員の賃金上 昇」が62.6%(596社)で、第三位は「為替不安定」の 48.4%(461社)であった。
タイは、「従業員の賃金上昇」が 65.4%と最多回答であった。次いで多かったの は「ジョブ・ホッピング」、「労働組合との賃上げ交渉」といった「労務問題」で、
61.9%を占めた。「為替不安定」を挙げているのは、現地通貨バーツがドルにほぼ連
動しているため、円に対して大幅に切下がり(プラザ合意以降の円高・バーツ安)、
27『ASEAN日系製造業の活動状況』(ジェトロ、1996年)、p.10参照。
設備投資、部品などの日本からの輸入(価格)コストが上昇したことによる現地日系 企業の負担が多くなっている。第五位には「品質管理」が42.3%で入った。
マレーシアは「労務問題」を挙げた企業が最も多く、88.6%に達した。第二位は
「従業員の賃金上昇」の 72.0%であったが、欧米系、NIES 系企業の高い賃上げの 影響を受けて毎年10%以上の賃上げを迫られる企業もあるという。第五位に「他社 との競合」が35.2%で登場したが、競合の対象は国内同業他社が生産する製品ばか りでなく、タイなどの近隣アジア諸国で生産される製品を挙げる企業も見られた。
フィリピンで最多回答だったのは「労務問題」と「従業員の賃金上昇」で、51.9%
に上った。労務問題は、ジョブ・ホッピング、労働組合対策などを具体的内容とし て挙げている。賃金上昇は、工場労働者など一般ワーカークラスではほとんどみら れず、管理職クラスで深刻化している。企業の進出ラッシュが見られるようになっ た 1990 年代初期に人事、経理など管理部門の人材不足が顕在化し、よりよい職場 環境を求めて転職するケースが増えており、同クラスの賃金上昇をもたらしている。
インドネシアは現地政府の努力を評価しつつも、「行政手続きの煩雑さ」が53.8%
で最も多く、次いで「関税・関税手続き」の49.2%、「国内諸税」の 41.5%である。
シンガポールの場合、「従業員の賃金上昇」が83.3%、「労務問題」が77.5%に達 した。「労務問題」は、ジョブ・ホッピングの多さに加え、外国人労働者を採用する 際の制約が多すぎる、外国人労働者の労働許可が下りにくい、といったシンガポー ルの労働市場を巡る特有の問題が指摘された28。
このように、ASEANにおいて、様々な経営上の問題が指摘された。特に、「管理 部門の人材の確保が困難・賃金水準の上昇」や「労務管理が難しい」という問題が 多い。したがって、この時期に、ASEAN などのアジア地域の投資の主要目的が豊 富で低廉な労働力の確保にあることを併せて考えても、現地労働者、派遣社員など の人材問題の成否が投資の成否のカギとなっていると考えられる。
そのASEANにおける現地法人の経営上の問題点に対する解決策としては、中小
企業庁の「中小企業国際化実態調査」によると、「現地労働者・派遣人材の育成」が よく挙げられている。また、「製品の高付加価値化」及び「生産コストの削減」など 当然かつ前向きの対応が挙げられるとともに、「現地情報収集の強化」、「現地法人の
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縮小・撤退」及び「投資先地域の変更」といった対応を挙げる企業もある29。 こうした点は、現地法人の設立に当たり、現地労働者の状況など現地の事情やパ ートナーについて事前によく調べておくことはもとより、社内での国際的活動を行 いうる人材の育成など長期的、計画的な対応が必要であることを示しているものと 考えられる。
また、離職率の高い国では、適当に従業員の賃金を上げる方法の他に、現地労働 者・人材を育成するために、労務管理上の工夫としては、従業員にインセンティブ を与える方法として、現地従業員を選抜して、10日~2週間程度、日本に研修旅行 に出すということを行っている企業もある。
それによって、その研修の参加者に抜擢されるよう従業員が皆よく頑張り、日本 での研修から帰ってきた時には、技術の習得だけでなく、日本人の考え方や日本と いう国や製品の品質への理解が深まるという成果もあると考えられる。