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ドキュメント内 博士論文 (ページ 191-194)

第七章 グローバル金融危機、自然災害と新たな展開(2008 年以降)

7.5 小括

2008年から 2014年の時期において、国内において日本経済と日本企業の事業活 動に大きな打撃を与えたのは、2011年の東日本大震災である。サプライチェーン途 絶を通じる被災地域以外の生産活動への波及は、自然災害に伴うリスクの一つとし

77 同上、p.8。

78 馬田啓一「TPPRCEP-ASEANの遠心力と求心力-」『季刊国際貿易と投資』第91 (20133月)。

79 しかし、20155月現在、交渉は未だ妥結されていない。

て再認識されることになった。東日本大震災と、2011年のタイの大洪水はリスク分 散及びサプライチェーンの重要性を気付かせる契機になったといってよい。

2008年のリーマン・ショックは、世界的な金融危機を引き起こし、アメリカ及び EU の金融システムの混乱に伴い、消費、投資など実物部門の活動も停滞し、外需 主導で経済成長を継続してきた日本経済の輸出が大幅に落ち込んだ。また、リーマ ン・ショック以降、ドル・ユーロに対する円の独歩高となり、アメリカとヨーロッ パへの輸出とそれに連動した設備投資に支えられた日本経済は、混迷を極めること となった。このように、急速な円高の進行は、サプライチェーンの中核を担う素材・

部品分野のASEANや中国などのへ海外移転を加速した。

そのリーマン・ショックによる世界経済危機は、ASEAN においてもシンガポー ル、タイなどが大幅な成長の落ち込みを記録した。しかし、ASEAN ではシンガポ ール、インドネシア、タイなどがいち早く回復を示した。日本企業の対タイ投資額 は、洪水の影響で2012年に落ち込んだが、2013年には洪水関連の一時的な変動要 因が解消され、輸送機器分野を中心に先送りしていた投資案件が実行され、タイへ の投資額が急増を遂げた。

この結果、2013年、タイが中国を上回り、日本企業にとってアジア域内で最大の 投資受入国となった。中国において人件費など生産コストが上昇したため、日本企 業の間では、中国からASEAN へと投資先を移す動きが見られた。中国では生産コ ストの上昇に加え、政治的なリスクなども大きいとはいうものの、市場規模は巨大 であり、目を離すことはできない。

そして、これまで自動車分野を中心に、ASEAN と中国との拠点間の取引は限ら れていたようで、多くの企業はASAENと中国拠点の間では、仕向先を分担するな ど事業戦略上異なる役割を担わせてきた。しかし、FTAが進展するおかげで、リス ク回避・分散を念頭において、緊急的に両国・地域間で原材料や部品、完成品の相 互供給ができるような体制を整備する企業が増えている。それによって、現在、日 本、ASEAN、中国に拠点のある日本企業は、代替生産・供給体制を持つことにな り、とりわけ、ASEAN と中国をお互いに代替生産国として位置づけるようになっ た。そのため、万が一の事態に即座に対応出来るよう両地域の円滑な取引を阻害す る関税障壁・非関税障壁の削減・撤廃が必要とされるであろうと考えられる。

日本企業が五つの「ASEAN+1 FTA」を活かし、ASEANと対話国・地域間で調

達・供給機能強化のため、「ASEAN」を戦略拠点としての役割を果たすことが期待 されている。つまり、ASEANは主な原材料・部品の調達先である日本のみならず、

今後、世界経済を牽引していくことが期待される中国やインドなど「アジア新興市 場」と FTAを通じてつながっている。また、ASEANは FTAを挺子にした「新興 市場開拓の最前線」として戦略的な役割が期待されている。これらの動きは、日系 企業にとってASEANが戦略的役割を担う重要な調達と生産拠点になったことを示 しているのである。

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