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日本企業の戦略転換

ドキュメント内 博士論文 (ページ 113-117)

縮小・撤退」及び「投資先地域の変更」といった対応を挙げる企業もある29。 こうした点は、現地法人の設立に当たり、現地労働者の状況など現地の事情やパ ートナーについて事前によく調べておくことはもとより、社内での国際的活動を行 いうる人材の育成など長期的、計画的な対応が必要であることを示しているものと 考えられる。

また、離職率の高い国では、適当に従業員の賃金を上げる方法の他に、現地労働 者・人材を育成するために、労務管理上の工夫としては、従業員にインセンティブ を与える方法として、現地従業員を選抜して、10日~2週間程度、日本に研修旅行 に出すということを行っている企業もある。

それによって、その研修の参加者に抜擢されるよう従業員が皆よく頑張り、日本 での研修から帰ってきた時には、技術の習得だけでなく、日本人の考え方や日本と いう国や製品の品質への理解が深まるという成果もあると考えられる。

韓国、台湾などにおける一部の生産工程と事業活動がASEANに移転され、東アジ ア域内において包括的な生産・販売ネットワークが形成されてきたのである。

また、日本企業の ASEANに生産拠点の移転によって、ASEAN から日本への製 品の逆輸入、あるいは欧米などの第三国輸出、ASEANでのM&A、研究所(R&D)・

地域本社・地域本部の設立などの事業活動が多様になっている。このような状況の 中で、この時期における日本企業にとってASEANの役割が次第に大きくなってき たのである。

図表 5-6 及び図表 5-7 から分かるように、中小企業の対 ASEAN 投資は、1988 年以降に増加し、1989年及び1990年にはピークに達した。中小企業のASEAN諸 国への投資案件は、1985年以降の円高局面を契機に急激に増加した。1980年代以 前は海外直接投資の中心は大企業であったが、この時期に中小企業の数が急激に増 加した。特に、中小製造業によるASEANへの生産拠点確立・拡充のための投資の 増加が特徴である。

上述のように、立地コストの安価、豊富で低廉な労働力などのすぐれた投資条件 を有する ASEAN は、1980 年代後半以降、日本企業の生産拠点として非常に重要 になっている。ASEAN 各国で生産した製品が国内販売だけでなく欧米輸出、特に 日本向け(逆輸入)が増加傾向にあることが注目されている。

図表5-6 中小製造企業における地域別海外直接投資推移(1987~1997年) (単位: 件数) 年度 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 北米 521 590 573 444 349 287 241 172 200 226 236 ヨーロッパ 159 188 275 248 212 206 135 68 80 105 87

ASEAN4 242 398 495 467 383 256 247 262 375 369 308

NIES4 301 266 289 154 141 101 112 86 125 86 146

中国 58 116 85 113 178 381 579 558 675 303 187 出所:『中小企業白書』(中小企業庁、2002年)、p.38。

図表5-7 海外投資件数の投資先地域別構成比(中小企業)

(単位: %)

年度 NIES ASEAN 中国 北米 欧州 その他 全体

1991 11.2 17.8 6.9 44.5 8.8 10.8 100

1992 12 21.6 14.1 30.5 14.4 7.4 100

出所:『中小企業白書』(中小企業庁、1994)p.28

図表 5-8によると、1995年には ASEAN4 から日本向けに輸出額(逆輸入額)がわ ずか9,680億円であったのに対し、1996年には前年度比43%増の 1兆 6,890億円

と急増した。部門別に見ると、例えば、ラジオ・テレビ受信機・電気音響器具の場 合、総売上の3,272億8,600万ドルの中、日本逆輸入が 51.42%の1,683億600万 ドル、第三国輸出が31.88%の1,043億5,700万ドル、現地販売が16.69%の546億 2,300万ドルである。

もちろん、ASEAN 各国経済の拡大あるいは国民の購買能力の上昇とともに現地 市場を狙う日本企業も少なくない。例えば、代表的な部門としては輸送機械の乗用 四輪自動車で、総売上2,592億9,900万ドルの中、現地販売が約97%の2,530億7,500 万ドルで最も多く、以下第三国輸出が2.4%の61億1,100万ドルで、日本向けある いは逆輸入がわずか0.044%の1億1,300万ドルしかなかった30

図表5-8 日本のアジアからの逆輸入額推移

また、M&A については、例を挙げてみると、前述のように、大手の三洋電機も 米国ITTの西独子会社の在マレーシア子会社の工場を買収して、ラジカセなどの音 響機器を生産している。

ASEANにおけるR&Dに触れると、前述のように、1979年伊藤忠商事がシンガ ポール石油化学と合弁でオクタン価向上剤の生産を開始した。高砂香料がサイエン スパーク内に香料研究所を設立するなど化学産業での進出も見られた。また、アイ ワはオーディオ生産の主力を日本からシンガポールに移転し、国内の統廃合を計画、

さらにR&D活動を1987年にはシンガポールで開始し、米系多国籍企業に追随する 動きを見せた。

シャープ・エレクトロニクスは、シャープ・エレクトロニクス・マレーシア (SEM)

30『第26回我が国企業の海外事業活動』(通商産業省、1998年)、p.282。

によるシャー・アラムの新営業本部コンプレックスが1996年に完成するのに伴い、

同グループの世界 15 カ所の製造拠点の研究開発(R&D)センターの役割を担う。

SEMの竹内重役(MD)によると、マレーシア政府から地域営業本部(OHQ)ステータ スを認められた SEM はシャープ・グループのために消費用電子製品の R&D 業務 を集中的に手掛け、特にアジア市場のニーズに応じる製品の開発に力を入れる。

目下のところ CTV、VCR、オーディオ機器関係の R&D が中心となっているが、

よりハイテク領域にまで拡大され、将来は事務機器やコンピューターの研究開発も 手掛ける可能性も見られた。しかし、それはステップ・バイ・ステップで進められ る。現在この種の製品の R&D 業務は米国と日本で手掛けられているが、アジア市 場の需要は向こう5年間に倍増するものと見られた。

この新 OHQ は、またグループの資材調達業務も引き受ける。現在同社の OHQ は、シンガポールに置かれているが、同業務をマレーシアに移転することにより、

コストを一段と削減できると言う。

また、ASEAN 総括本部の設立については、例えば、本田技研工業は、市場の変 化に合わせて商品開発、生産計画などを迅速に組み直し、実行する「アジアカー」

の戦略地点で、ASEAN 広域をにらんだ効率的な部品調達も重要な役目であるタイ に(1995年)「ASEAN総括本部」を設置したと、同社の原田実取取締役アジア・太 平洋州本部長が述べている31

アジア・カー構想について、1992年トヨタは海外生産による新興工業国向け専用 の乗用車を開発することを決定し、タイがその対象国に選ばれた。こうして、トヨ タ本社と現地タイトヨタとによるアジア・カー(ソルーナ)の共同開発が始まった。

1994 年 1 月、本社からタイトヨタに、ターセルをベースにしたアジア向けの新型 車を導入するので、20万台体制を作ってほしいという話があった32

そして、前述の通り、松下電器部品も「汎用品はASEANで製造する」を基本方 針に、トランス、抵抗器などについて、次第に日本国内生産分をシフトし、「品目ご とに集中生産する工場を決めてスケール・メリットを追う」ために、部品生産拠点 の再編が行われている。また、ASEAN での生産拡大に伴って、同グループの製品 を総合的に扱う販売会社をシンガポールに設立することが発表された。

31「共生へ域内水平分業」『日本経済新聞』(朝刊、1996427日)。

32 川邉信雄『タイトヨタの経営史-海外子会社の自立と途上国産業の自立-』(有斐閣、

2011年)、p.122。

このように、日本企業各社はASEAN諸国における地域本社、地域本部などを次々 設立した。それは、この時期に一つの特徴であると思われる。

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