第6章 地方大学国際化のための国際経営人材の育成
2 OJTによる能力開発-目標管理制度による人材育成
本節では、これまで述べてきた人的資源の重要性と大学経営人材、国際経営人材に必要 なる知識や能力について、研修というOff-JTではなく、いわゆるOJTとして現場 における日常業務のなかで身につけ、大学事務職員の個人の成長が、組織の発展につなが ることができるよう目標管理制度について考察する。
目標管理は、組織における個人の目標と組織の目標とを総合することができるマネジメ ント・システムであり、産業能率大学が 2000年に実施した調査した結果によると、目標 管理を導入している企業は79.9%となっており、導入を検討している企業も含めると約9 割となっている60。また、目標管理は、行政や病院といった組織においても活用がなされ ており、公立小学校61、公立高等学校62における教員評価でも用いられている。
(1) 目標管理制度
まず、目標管理制度の考え方と特徴について整理したうえで、目標管理による人材育成 について考察する。目標管理は、1954年にPeter F. Druckerが『現代と経営』のなかで 提唱したことにはじまるといわれており、わが国においては1960 年代から導入が進み、
多くの企業で採用されている伝統的なマネジメント・システムである63。
そのDrucker(1993)は「組織はチームをつくりあげ、一人ひとりの人の働きを一つにま
とめて共同の働きとする。組織に働く者は共通の目標のために貢献する。彼らの働きは同 じ方向に向けられ、その貢献は隙間なく、摩擦なく、重複なく、1つの全体を生み出すよ う統合される」64と指摘している。すなわち、目標管理は「目標と自己統制による管理」
であり「企業が必要としているものは、個人の強みと責任を十二分に働かせ、同時にその 考え方と努力に共通の方向を与え、チームワークを確立し個人の目標と会社全体の利益を 調和させるような経営管理の原理」であると指摘し「自己管理による目標管理こそ、まさ にマネジメントの『哲学』と呼ぶべきものである」65と強調している。
奥野(1996)もまた「目標管理は単なる流行の管理手法ではなく、確固とした管理哲学に 基づいた全般管理システムを具体化するひとつの管理手法である」66と指摘している。
また、今野・佐藤(2009)は、「目標管理の基本的な考え方は、『組織の目標と個人の目標 を統合して目標を設定し、個人はそれにむかって自立的に仕事を進める』」67ことであると 指摘している。そして結果として「目標の連鎖によって組織の統合がはかれるとともに、
部下を管理統制するのではなく、部下の自主性を引き出すことによって効率的な組織が形
165 成できる」68と指摘している。
このように、目標管理制度は、経営管理における哲学に基づいたシステムという理解が まず重要である。そして、上からの管理統制ではなく、個人の主体的かつ自律的な目標を 設定するための行動を促し、組織目標と個人目標との統合を図ることができる統合的なマ ネジメント・システムに進化してきているといえるだろう。
また、森口(2012)は、奥野(1996)が指摘している「1 管理過程であること、2 全般管理 システムであること、3 コミュニケーションを形成し定着させるものであること」69とい う目標管理の理論上の特徴を基に、わが国における目標管理の特徴について、つぎのよう に整理している70。
① Plan–Do–See の管理過程……目標管理は、Plan–Do–See を基礎とした管理過程に
そって行われる。
② 組織の連結……目標管理は、個人と上司、上司と経営者といったように、組織にお ける上下関係を順番につなぐ役割を果たし、全体目標を達成する。
③ 全般管理システム……目標管理は、当初は人事部管理システムとして導入されてき たが、現在では組織のトップが主導する全般的な管理システムとなっている。
④ コミュニケーション……目標管理においては、組織と個人の目標の連鎖を図るため にコミュニケーションが重要である。
このように目標管理は、全体的な管理システムであり、目標管理におけるPlan-Do-See を回し、組織目標と個人目標の連鎖のためのコミュニケーション・ツールとして組織内に おける人と人をつなぐ機能を有している。
(2) セルフ・コントロールと目標管理
五十嵐(2006)は、目標管理による能力開発について、労働形態を定型労働と専門知識活 用労働の2つに大別したうえで、専門知識活用労働の特性として、その業務は非定型業務 であり、直接的な命令による統制が難しいものであると指摘している71。すなわち、非定 型業務は、標準化しにくい性質を有しており、能力開発として教え込み型の教育訓練は困 難であり個人の自己啓発に依存すると指摘している72。
本節では、現在大学事務職員に求められている業務は、定型業務だけではなく、創造的 な業務である非定型業務の遂行に必要な能力も求められるようになったことから、目標管 理による能力開発とは親和性が高いことに着目している。そこで、五十嵐(2006)は、直接
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的および間接的にも統制が困難である労働特性を踏まえ、労働の質的変化のための能力開 発には、セルフ・コントロール(自己統制)が重要であると指摘している73。
図表6-1 能力開発のためのセルフ・コントロールと目標管理との関係
(出所)五十嵐(2006、41頁)に記載の「図表3」の非定型業務における「内発的動機づけ」
によるセルフ・コントロールを基盤とした非定型業務のモデル図表および五十嵐(2006、
43-46頁)の記述内容を基に筆者作成
これらのことを踏まえて、図表6-1は、専門知識活用労働タイプの能力開発を整理して いる。このタイプの能力開発の中心となるのは「『チャレンジ目標の設定』と『その達成プ ロセスにおける関係者との問題創造的・問題解決的コミュニケーション』の継続努力」74 である。それに加えて、業務外において自己啓発における新たな情報獲得とその情報活用 の能力開発サイクルを構築することが必要となる。そのサイクル構築にあたっては、組織 も能力開発のための支援を継続して行わなければならない。さらに、「内発的動機づけ」に よるセルフ・コントロールが重要となる75。
「達成感」と「仕事の面白さの実感」による 好循環サイクル
目標管理 知恵の創造
「内発的動機づけ」によるセルフ・コントロール
組 織 と 個 人 の 目 標 の 達 成
・ 仕 事 の 成 果
「外発的動機付け」
他者からの励ましや承認 金銭的インセンティブ
チャレンジ目標の設定 組織目標
個人目標
個人の意欲を喚起
頭脳行動
外部からの刺激による 思考頻度の増加 金銭的インセンティブ 統
合
〇目標管理を通じたセルフ・コントロール的能力開発
=「チャレンジ目標」の達成プロセスを通した能力開発
・業務ではない自己啓発の継続と組織の能力開発支援
「組織と個人の目標達成」による好循環サイクル
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また、図表6-1は、能力開発のためのセルフ・コントロールと目標管理との関係も整理 している。目標管理を通じたセルフ・コントロールによる能力の開発は、少しストレッチ したチェレンジ目標を達成するためのプロセスのなかで行われる。個人の目標を達成する ために、金銭的インセンティブや他者からの励ましなど、一定の外発的動機づけによって、
個人の意欲を喚起することができるが、それだけでは人の行動は継続して変容しない。知 恵を創造し組織と個人の目標を達成するためには、内発的動機づけとして、本人が仕事を やり遂げたという達成感が必要であり、達成することによって仕事に対する面白さを実感 することで、自己成長を感じることが重要となる。その結果として、組織と個人の目標が 達成される。組織においては、組織目標達成という成果を上げることができるサイクルの 構築に寄与し、個人としては自己成長を促進するサイクルが構築できることになる。
地方大学にとって国際化の推進は、少しストレッチした挑戦的な目標ともいえる。それ ゆえ、国際化の推進という目標を達成するために、事務職員は国際経営人材になるために 求められる先述した知識や能力を身につけ、図表6-1にある好循環サイクルを構築しなけ ればならない。