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地方大学の国際化による地域への貢献

第3章 地方大学経営における国際化の現状と課題

Ⅴ 地方大学の国際化による地域への貢献

本章では、まず地域社会や経済の活性化に向けたわが国の政策動向について概観したう えで、BSCにおける4つの視点を踏まえ、地方大学における先進的な取組事例を基に考 察した。まず、地方大学における国際化の意義を考察するために、大分県・別府市(2010)78 や佐藤(2013)79を基に、国際化した大学を念頭に開学したAPUの事例から、外国人留学 生の獲得が地域にもたらすさまざまな効果について論じた。APUの誘致が、大分県別府 市にもたらした効果として、県内進学者数増、外国人留学生の県内企業への就職、地域づ くりや観光振興などの地域との連携促進、外国人留学生と地域との協働によるまちづくり の促進、地域課題解決のための共同研究の推進および外国人留学生の小中学校への派遣や 教員・学生の高校への派遣による教育における貢献、地域住民との交流による地域活性化 や郷土愛醸成への寄与、外国人留学生が県内企業活動に協力することによる企業の業績向 上への寄与などがある。また、APUの開学によって、別府市の人口減少に一定程度では あるものの下げ止まり効果があったことも指摘しておきたい。

また、APUと地域のアクターが協働した「特定非営利活動法人コンソーシアムおおい た」における外国人留学生の就職支援をはじめとした、外国人留学生に対する総合的な支 援の仕組みは、人的資源や財源が限られている地方大学にとって、地域全体を巻き込んだ 取り組みとして参考となるものである。また、長崎留学生支援センターと佐世保地域留学

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生支援交流協議会が行っている地域活性化を含めた外国人留学生への総合支援的な取り組 み事例も、今後地方にある大学や地域住民、地元企業、地元経済団体、地方自治体などの アクターが一体となって協働すべき取り組みとして有用であることを示した。ただし、産 官学が連携した外国人留学生を対象とした就職支援については、厚生労働省の委託調査事 業80や高坂(2016)81から、いくつかの解決すべき課題点があることも明らかになった。そ れらの課題を整理すると、つぎのようになる。第1に、日本独自の雇用システムがあるこ とから低年次からのキャリア教育や就職支援プログラムにより、将来のキャリアや就職に 対する意欲を喚起する仕組みを構築する必要があること、第2に企業情報や採用情報とい った就職に関係する情報へのアクセス環境を整備する必要があること、第3に外国人留学 生の求職意向と企業とのマッチングが機能するよう地域における就職支援サービス体制を 整備する必要があることをあげることができる。これらの課題も、地域のアクターが一体 となって取り組むべき喫緊の課題である。志穂(2013)が指摘しているように、世界的な外 国人留学生の獲得競争が激化している状況において、優秀な外国人留学生を獲得ためには、

就職支援を支援する地域包括的な仕組みの構築が不可欠であろう82

さらに、本章では、地方大学が国際化することで地域に経済波及効果があることを、A PUおよび国際教養大学の事例を基に考察した。APUの諸活動は大分県に年間約211億 円の経済波及効果をもたらし、国際教養大学の諸活動は秋田県に年間約 40 億円の経済波 及効果をもたらしている。APUは、すでに紹介したように在学生の約半分が外国人留学 生であり、すべての講義が英語と日本語による二言語で開講されている国際化の進んだ大 学である。もう一方の国際教養大学は、わが国で最も国際化の進んだ大学であるといわれ ており、すべての授業が英語で行われている。このように、地方にある大学が国際化する ことによって経済波及効果をもたらすことを明らかにしている。先に述べた地域への貢献 は、APUと国際教養大学においても同様に行われており、地域になくてはならない存在 となっていることがわかる。

そして、国際化に成功した小規模な地方大学の事例として、会津大学と国際教養大学の 事例に着目し、理念や国際教育のあり方、外国人教員と外国人留学生の獲得、その支援体 制、ガバナンス改革および高い就職率などの成功要因の抽出を試みた。今後、地方にある 小規模大学が、このような成功要因を意識した経営戦略を実践できれば、地域社会にも評 価され、地方創生の核となって地域に貢献する大学となるのではないかと考える。

第1章では、地方創生における地方大学の役割、そして地方大学における国際化の必要

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性について論じ、地方大学の国際化の推進における課題について考察した。そして、第2 章では、世界的な高等教育の動向について概観し、世界大学ランキングやわが国の大学ラ ンキングから、国際化に必要なベンチマークとなる評価指標について考察した。そして本 章では、大学の先進事例を基に、地方大学経営における国際化がどのような便益を地域に もたらすのかについて考察した。次章では、これらのことを踏まえ、地方大学が経営戦略 として、国際化を推進していくためにも必要となる戦略的マネジメント・システムである BSCの大学経営における有用性について論じる。

1 本章では、荒木利雄「地方大学の経営戦略としての留学生獲得と就職支援-地方活性化 のための産官学連携の意義と役割-」『経営戦略研究』関西学院大学経営戦略研究会、

第11号、2017年9月、79-91頁を基に、一部加筆・修正を行っている。

2 日本経済新聞「東京の大学定員抑制 法成立 人口集中に歯止め(2018/5/25 12:00)」

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO30953150V20C18A5EAF000/、2018年 11 月25日閲覧。

3 厚生労働省「外国人雇用対策」http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou _roudou/koyou/gaikokujin/index.html、2018年6月26日閲覧。

4 大分県・別府市『大学誘致に伴う波及効果の検証 : 立命館アジア太平洋大学(APU)開 学10周年を迎えて』2010年4月、1頁。

5 佐藤由利子「地方留学の利点と課題-大分、秋田、鳥取の留学生の交流状況と意識に関 する調査から-」『広島大学高等教育研究開発センター 大学論集)』第44集、2013年 3月、291頁。

6 立命館アジア太平洋大学「人材育成目的」http://www.apu.ac.jp/home/about/content6/、

2018年6月27日閲覧。

7 立命館アジア太平洋大学「APUについて 大学基本情報」http://www.apu.ac.jp/home/

about/content55/、2018年6月28日閲覧。

8 大分県・別府市『前掲書』3-6頁。

9 この就職決定率は、就職希望者を分母、就職決定報告者を分子として計算されている

(立命館アジア太平洋大学「進路・就職」http://www.apu.ac.jp/home/career/content1/、

2018年6月28日閲覧)。

87 10 「同上ウェブサイト」。

11 「同上ウェブサイト」。

12 立命館アジア太平洋大学「進路・就職 キャリア開発プログラム」http://www.apu.ac.

jp/home/career/content1/、2018年6月29日閲覧。

13 大学コンソーシアムおおいた「大学コンソーシアムおおいたについて」http;//www.

http://www.ucon-oita.jp/about、2018年6月29日閲覧。

14 大分県・別府市『前掲書』12頁。

15 『同上書』14-15頁。

16 別府市「別府市の人口」https://www.city.beppu.oita.jp/sisei/sinogaiyou/detail11.html, 2018年10月16日閲覧。

17 三菱UFJリサーチ&コンサルティング『平成 25 年度 大学における留学生の就職支 援の取り組みに関する調査 報告書』平成25年度 厚生労働省委託事業、2014年3月、

27頁。アンケート調査は、大学へのアンケートと留学生へのアンケートを行っている。

大学へのアンケート調査概要は、実施期間2014年2月4日から3月7日、郵送による 配布・回収、配布数630大学、回収数537件、回収率85.2%である。留学生へのアン ケート概要は、実施期間2014年2月4日から3月14日、大学留学生担当課および就 職担当課を通じた手渡し配布・回収またはウェブアンケート、配布数約20,000通、回

収件数5,443件(紙:4,122件、ウェブ1,321件)である(『同上書』6頁)。

18 高坂晶子「外国人留学生の地域への定着に向けて─就職支援を中心に─」『Japan Research Institute review』第10号、2015年、59-60頁。

19 「同上稿」60-61頁。

20 山田樹一郎「留学生支援の新しいかたち-長崎留学生支援センターの設立を通して」

『日本学生支援機構ウェブマガジン』2015年7月号 Vol.52、38頁。

21 長崎県国際交流協会「長崎留学生支援コンソーシアム」http://www.nia.or.jp/record/

index.php/view/50、2018年6月29日閲覧。

22 「同上ウェブサイト」。

23 山田樹一郎「前掲稿」2015年、39頁。

24 佐世保地域留学生支援交流推進協議会「当協議会について」https://www1.niu.ac.jp/

sisse/about/、2018年7月1日閲覧。

25 荒木利雄「前掲稿」2017年、84-89頁のヒアリング結果を参照、引用しながら、加筆・

88 修正を行っている。

26 志甫啓「地域経済的課題を踏まえた外国人留学生のキャリア支援の意義」『日本学生支 援機構ウェブマガジン』2013年1月号 Vol. 22、2頁。

27 「同上稿」10頁。

28 大分県・別府市『前掲書』7-11 頁。経済波及効果の集計にあたっては、産業連関表を 用いている(『同上書』7頁)。

29 『同上書』8頁。付加価値誘発額を算出するにあたっては、別府市内を対象とした産業

連関表がないことから、市内供給率を大まかに仮定し、県平均の部門別付加価値率を適 用して算出している。詳しくは、『同上書』8頁を参照されたい。

30 国際教養大学「国際教養学部とは」https://web.aiu.ac.jp/undergraduate/outline/、2018 年7月1日閲覧。

31 一般財団法人秋田経済研究所「国際教養大学が地域に及ぼす経済波及効果」http://www.

akitakeizai.or.jp/journal/20131102_topics.html、2018年9月4日閲覧。本調査の推計 方法は、文部科学省が財団法人日本経済研究所に委託し作成された『地方大学が地域に 及ぼす経済効果分析報告書』(2007年3月)を参考に作成されている。

32 一般財団法人秋田経済研究所『国際教養大学が地域に及ぼす経済波及効果』2013年8 月、7頁、15頁、19頁、22頁。

33 「教育・研究活動による効果」は、国際教養大学の2012年度財務諸表をもとに経常費

用と科学研究費補助金等の競争的資金から算出されている。『同上書』2-7頁に詳しい。

34 「教職員・学生の消費による効果」は、教職員等の人件費に総務省「家計調査」にある 秋田市消費転換率を乗じた年間消費額と学生による年間消費額により算出している。

『同上書』8-11頁に詳しい。

35 「その他の活動による効果」とは、来訪者による消費額のことであり、視察や入試、学 会などの来訪者数を基に、交通費や宿泊費、土産費、滞在費の消費単価に来訪者数を乗 じて算出している。『同上書』16-17頁に詳しい。

36 「施設設備による効果」は、2008年度から2012年度における契約工事実績の年度平 均に基づいて算出されている。『同上書』20-22頁に詳しい。

37 一般財団法人秋田経済研究所「前掲ウェブサイト」。 38 「同上ウェブサイト」。

39 「同上ウェブサイト」。