• 検索結果がありません。

大学事務職員の特質と育成に関する課題

第6章 地方大学国際化のための国際経営人材の育成

2 大学事務職員の特質と育成に関する課題

このような外部環境の変化を踏まえて、大学事務職員という職種の特質について概観し たうえで、大学事務職員の育成にかかる課題について考察する。

(1) 大学事務職員の特質

金子(2017)は、大学事務職員にはつぎの3つの特質があると指摘している4

① 職務の保守性……元来、大学組織を維持していくためには、組織的な意思決定とそ の手続きが守られる必要があることから、大学事務職員はそれらの仕組みを維持管理 する立場として、保守的に業務を遂行する必要があった。

② 職務領域の多面性……大学の発展に伴い、大学事務職員の役割も大きくなり、業務 が多様になっている。また、部局によって専門領域や職性が異なり、求められる知識 や技能も多様である。

③ 個々の職員評価の困難性……大学事務職員の職務は、大学の組織維持、教育研究の 組織的支援であり、個々の貢献を評価することが困難である。また、職務が多様であ り、職務上の達成度についての評価の標準化、体系化も困難である。

そして、こういった特質が「大学職員の処遇や人事管理、あるいは大学職員の文化に大 きな影響を与えてきた」5としている。

これまでの事務職員は、こういった特質が特段問題になることはなかったが、先述した ように、大学を取り巻く環境が大きく変化しており、大学事務職員には、こういった特質 の変化が求められているといえる。

また、金子(2017)は、そういった状況のなか、大学事務職員の能力開発であるSD(SD:

Staff Development、スタッフ・ディベロップメント)として、大学事務職員には「専門職

149

化と「教職協同」が求められたが、それぞれにつぎの意味があると指摘している。「専門職 化」とは「限定的な職域での専門職化ではなく、大学職員としての職務の高度化を意味す る」6。「教職協同」は「職員と教員が同じ仕事を行うのではなく、職員としての知識・能 力を高めることによって、教員と有機的な協力を行うことが本来の意味である」7としてい る。

一方で、「専門職」としての職制で採用されている事務職員も多い。金子(2017)は「技術 職員、図書館職員、学生カウンセラーなど」が増えていると指摘したうえで、さらに、外 部環境の変化である「国際化や情報化、外部資金の導入などの新しい要求に対応してUR A8、IR9担当者など新しいタイプの職員」10も増えていることを指摘している。それら に加えて、スポーツ振興などに対応するために専門的な知識や技能を有するスポーツ・ア ドミニストレーターという専門職も新たにでてきている。

このように「大学事務職員の専門職化」と「専門職」とは同義ではい。本章では、金子 が指摘している大学事務職員の「専門職化」である「高度化」を意図して、地方大学の国 際化に必要となる事務職員の知識や能力、その能力開発としての育成について論じていく。

(2) 大学事務職員の育成に関する課題

大学事務職員の高度化を図っていく必要があることを述べてきたが、地方大学国際化に 必要となる育成すべき知識や能力について具体的に論じる前に、大学事務職員の育成にあ たっての課題を整理する。

金子(2017)は、外部環境の変化に対応するために必要となる大学事務職員に関する質的 な変化を必要とする人事管理の問題として、つぎの3つを指摘している11

① 外部環境に対応できる専門的な知識や能力の高度化とキャリア形成……外的環境の 変化に応じて大学事務職員に求められる知識や能力は拡大し、高度化している。これ らに対応するためには、一定の専門分野に関してキャリアを積めるよう、大学事務職 員の人事体系を見直す必要がある。

② 特定分野のスペシャリストとしての専門職の位置づけ……こういった職種の大学事 務職員のキャリアとして、個々の仕事の責任と評価、そして昇格のあり方について検 討していく必要がある。

③ 個人の目標と大学全体の目標との整合……職場における定型的な業務に関する知識 や能力の修得、ジョブ・ローテーションを通じた昇格に向けてのインセンティブ、硬

150

直的な権威的上下関係といった従来型の人事体制が続くなかで、大学全体の目標と個 人の目標とをどのように関連づけるかについて検討する必要がある。

確かに、このような変化に対応するために、大学事務職員における特性の質的変化とし ての人事マネジメントを行っていく必要があろう。まず、大学は大学事務職員に新たな知 識や能力を求めるだけでなく、大学経営にとっての最も重要な人的資源として捉える必要 がある。そして、その人的資源を生かし活用するためには、どのような人的資源マネジメ ントを行っていくべきなのかについて、大学の経営者である理事長や学長をはじめとした 経営者層が、人的資源の重要性に気づき、人的資源における諸課題解決に取り組む必要が あろう。

金子(2017)は、指摘した課題に対して、大学事務職員の質的変化を促し、知識や能力の 高度化を図るために「投資」が必要であるとし、「投資」といえる「育成」にかかる論点を つぎのように整理している12

① 研修のタイプ……大学事務職を育成するために必要となる研修については、さまざ まな形態の研修がある。しかしながら、与えられた受動的な研修についての大学事務 職の評価は低い。能動的に自らが選択した研修や、研修のなかで受動的ではなく積極 的な役割を果たした研修は、評価が高い。従来型の知識を与えるタイプの研修ではな く、主体的な参画が可能なタイプの研修が求められている。

② 研修費の自己負担と獲得した知識や能力に対する処遇……これまでの研修では、受 講生である大学事務職の個人的負担はない場合がほとんどである。しかしながら、大 学が金銭的負担を行ってでも、大学経営を学ぶことができる大学院修士課程や経営全 般について学べるビジネス・スクールといった課程で学び得る知識や能力は、長期的 に大学経営にとって有用である。今後は、こういった制度への理解と学位を取得した 者へのキャリア形成について整備する必要がある。

③ 研修で育成すべき能力……研修は、実際の現場で活用できる知識や能力が獲得でき るよう専門的かつ実用的な内容の研修となる。それに加えて、共通として獲得すべき 知識や能力として、データ処理能力、海外大学との交渉や外国人教員等との対応がで きる語学力および会議などで説明が説得的なものとなるようプレゼンテーション能力 などを育成すべきである。

④ 役割に対する理解……大学事務職員は、大学が組織として描くビジョンや目標の達 成に向けて、自分がどのような役割を果たすべきなのかを認識しなければならない。

151

そして、大学全体を俯瞰することのできる広い視野と今後進むべき方向性を示唆する ことのできる力が必要である。

人材育成は、人的資源マネジメントにおける最も重要なパートである。また、人材育成 は、将来に回収できる「投資」と捉えるべきであり、事務職員の育成は組織としての競争 力の源泉となるものである。それゆえ、大学事務職員を育成するための学内外の研修に対 する考え方そのものから見直していく必要があろう。