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大学経営における戦略をマネジメントするBSCの有用性

第4章 地方大学経営における経営戦略とBSCの有用性

Ⅴ 大学経営における戦略をマネジメントするBSCの有用性

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図表4-5 企業と大学の戦略マップ(基本型)

(出所) Kaplan and Norton(2005、 62頁)に記載されている「図表2-1」に、大学の基本型

を加えて筆者作成

そして、「顧客の視点」における戦略目標を達成するためには、地方大学における経営人 材の育成と能力開発は必須の要件となることから、「学習と成長の視点」は重要な観点とな る。また、「業務プロセスの視点」は、教職員の意識改革と行動改革を行い、教職協働を実 現し、組織を変革していくうえで重要な視点となる。これら二つの視点は人と組織の関係 から相互に連動しており、並列に位置している。

114 5つの原則を示している84

つぎに、企業経営におけるBSCの有用性を踏まえ、海外の大学事例およびわが国にお ける大学事例を基に、大学経営におけるBSCの有用性について考察を行い、つぎの5点 の有用性について整理を行った。第1に戦略を志向する組織への変革を促すことができる こと、第2にすべての構成員に戦略目標の共有化を図ることができること、第3に「顧客 の視点」を有していることから学生を中心に据えた志向形成ができるとともに、経営基盤 となる財政の安定化を目標とする「財務の視点」を有しておりバランスがとれていること、

第4に「学習と成長の視点」と「業務プロセスの視点」を有しており、教員と事務職員が 共に学び合い協働を促進することができること、第5にコミュニケーション・ツールとし て大学経営と教学運営を連動する役割を果たすことができることを示した。

また、企業経営との比較から見た大学経営におけるBSCの4つの視点について、大学 の使命である教育、研究、地域貢献の観点を基に、つぎのように整理した。

教育においては、教育の質保証が学生満足度を高め、学生満足度が高まると教職員の満 足度が向上するという観点から「顧客の視点」および「業務プロセスの視点」が重要とな る。研究においては、地域に貢献できるよう、研究競争力を高めることで競争的外部資金 の獲得につなげ、同時に研究支援や広報戦略が必要となる。それゆえ、事務職員の能力の 高度化と専門化が必要となるとの観点から「学習と成長の視点」および「業務プロセスの 視点」が重要となる。地域貢献においては、大学を取り巻くアクターと学び合い協働する ことにより新たな価値を創造し、地域活性を促していく必要があることから「顧客の視点」

および「業務プロセスの視点」が重要となる。そして、大学経営における4つの視点を整 理する必要があることから、図表4-5に大学における戦略マップを示し、その関係性を明 らかにした。ただし、持続的経営のためには、財政基盤の安定化が前提条件となることか ら「財務の視点」が重要となることについても論じた。

本章において、明らかにした大学経営におけるBSCの有用性を踏まえ、第5章では地 方大学経営の基盤となる「財務の視点」、第6章では地方大学において持続的経営のために も必須となる経営人材を育成する「学習と成長の視点」、第7章では地方大学における教職 員の意識改革と行動改革、教職協働を促進する「業務プロセスの視点」、第8章では地方大 学を取り巻くさまざまなステークホルダーの満足の向上を図る「顧客の視点」について、

それぞれの視点から、地方大学経営における国際化のための経営戦略について考察する。

115 注

1 九州大学では、2004年の国立大学法人化を機に、BSCのフレームを活用し、第1期 中期計画・中期目標とは別に将来構想を策定すべく、九州大学の戦略目標をわかりやす く明示するために独自の戦略マップを作成した事例がある。しかしながら、総長の交代 により、継続運用に至っていない。また、九州大学の事例には、世界最高水準の大学に なるというビジョン達成のための国際化に関する戦略目標はあるものの、九州大学は

10,000人以上の大規模大学であり、本論文が想定している地方大学ではない(荒木利雄

著・石原俊彦監修『大学経営国際化の基礎』関西学院出版、2017年5月、71-74頁に 詳しい)。

2 本章では、荒木利雄著・石原俊彦監修『大学経営国際化の基礎』関西学院出版、 2017年5 月および荒木利雄「大学経営におけるバランス・スコアカードの有用性-企業経営と大学経 営の比較分析」『CIPFA Journal』第2号、2018年7月、109-122頁に基づいて、加筆・修正 を行っている。

3 福田哲也「業績評価およびバランスド・スコアカード導入の実態調査」関東学院『経済 経営研究所年報』第27集、2005年3月、111頁。

4 Kaplan, S. R. and D. P. Norton, The Balanced Scorecard -Translating Strategy into Action, Harvard Business School Press. 1996. 吉川武男訳『バランス・スコアカード

-新しい経営指標による企業変革』生産性出版、2001年2月、33-43頁。

5 Kaplan, S. R. and D. P. Norton, The Strategy-Focused Organization, Harvard

Business School Publishing, 2001. 櫻井通春監訳『戦略バランスト・スコアカード』東洋経

済新報社、2001年9月、15-38頁。

6 『同上書』25頁。

7 『同上書』25-28頁。

8 『同上書』29頁。

9 『同上書』29-30頁。

10 『同上書』30頁。

11 『同上書』30-32頁。

12 『同上書』32頁。

13 『同上書』32-35頁。

14 『同上書』35頁。

116 15 『同上書』35-38頁。

16 吉川武男『バランス・スコアカードの知識』日本経済新聞出版社、2007年2月、31頁。

17 『同上書』。

18 Kaplan, S. R. and D. P. Norton, Strategy Map, Harvard Business School Press, 2004.

櫻井通春他監訳『戦略マップ バランスト・スコアカードの新・戦略実行フレームワー ク』ランダムハウス講談社、2005年12月、33頁。

19 『同上書』34-39頁。

20 『同上書』34頁。

21 『同上書』。 22 『同上書』35頁。

23 『同上書』。 24 『同上書』36頁。

25 『同上書』。 26 『同上書』37頁。

27 『同上書』。 28 『同上書』38頁。

29 『同上書』。

30 Kaplan, S. R. and D. P. Norton『前掲書』2001年9月。

31 Kaplan, S. R. and D. P. Norton『前掲書』2005年。

32 Exxon Mobil「History」https://corporate.exxonmobil.com/en/company/about- us/history/overview、2018年10月14日閲覧。

33 Kaplan, S. R. and D. P. Norton『前掲書』2001年9月、52頁。

34 『同上書』51-52頁。詳細は『同上書』51-93頁を参照されたい。

35 Kaplan, S. R. and D. P. Norton『前掲書』2005年、492-493頁。

36 『同上書』496-497頁。

37 乙政佐吉「わが国企業における業績評価指標の利用方法に関する研究-バランス・スコ アカードとの比較 において」『六甲台論集 経営学編』第49巻第4号、2003年3月、

39頁。

38 青木章通・櫻井通晴「戦略、業績評価および経営品質に関する日本企業の経営行動-バラ ンスト・スコアカードに関する郵送調査の分析」東京経済大学経営学会『東京経済大学 経営

117 学』第236号、2003年10月、115頁。

39 福田哲也「前掲稿」121頁。

40 森口毅彦「わが国企業におけるバランスト・スコアカードの導入目的と期待役割-バラ ンスト・スコアカードの導入実態に関する調査研究」中央大学経営研究所『経理研究』

第53号、2010年、129頁。

41 金紅花「日本企業におけるBSC(Balanced Scorecard)と目標管理・方針管理との「補 完性」-製造業企業におけるアンケート調査と事例調査をもとに」新潟大学大学院現代 社会文化研究科『現代社会文化研究』第57号、2013年12月、37頁。

42 目標管理は、1954年にDrucker氏が『現代と経営』のなかで提唱したことにはじまる といわれており、わが国においては1960年代から導入が進み、多くの企業で採用され ている伝統的なマネジメント・システムである(森口毅彦「わが国企業における戦略マ ネジメント・システムと目標管理制度の実施」『富山大学経済学部富大経済学論集』第 57巻第3号、2012年3月、46頁)。

43 方針管理とは「方針を、全部門・全階層の参画のもとで、ベクトルを合わせて重点指向 で達成していく活動。注記 方針には中長期方針、年度方針などがある」(日本品質管理 学会「方針管理の指針」、2016年5月、6頁)

44 金紅花「前掲稿」37-38頁。

45 TQCは、製品やサービスを対象とする品質について、全社で経営全般にわたる活動と して、わが国の産業の発展に大きな貢献を果たしてきた。TQCの特徴として、全員参 加・方針管理・改善活動・小集団活動等をあげることができる(田中宏「品質に於ける 概念の変遷と日本的品質管理のパラダイムシフト-TQCから経営各品を目指すTQ Mへ」『四国大学経営情報研究所年報』第3巻第3号、1997年12月、44-49頁)。

46 青木章通・櫻井通晴「前掲稿」129頁。

47 「同上稿」127-129頁。

48 「同上稿」127頁。

49 「同上稿」129頁。

50 森口毅彦「前掲稿」139頁。

51 「同上稿」。

52 今野浩一郎・佐藤博樹『人事管理入門(第2版)』日本経済出版社、2009年12月、34 頁。

118 53 『同上書』34-35頁。

54 Current Charlotte, North Carolina Population Information and Statistics From Every City, State and County in the US , Population Demographics for Charlotte, North Carolina in 2017, 2018 , https://suburbanstats.org/population/north-carolina/how-many-people-live-in-charlotte, 2018年10月14日閲覧。

55 Kaplan, S. R. and D. P. Norton『前掲書』2001年9月、179頁。シャーロット市の事

例は『同上書』179-183頁に詳しい。

56 『同上書』。 57 『同上書』。

58 『同上書』180頁。

59 櫻井道晴『バランスト・スコアカード-理論とケース・スタディ』同文館出版、2008 年3月、127-130頁。

60 Kaplan, S. R. and D. P. Norton『前掲書』2005年、524-529頁。

61 『同上書』525頁。本事例の詳細については『同上書』524-529頁に詳しい。

62 『同上書』527頁。

63 Taylor,J. and C. Baines, “Performance management in UK universities : implementing the Balanced Scorecard”, Journal of Higher Education Policy and Management, Vol. 34, No. 2, 2012, pp. 111-124.

64 Ibid., p. 114.

65 Ibid., pp. 113-114.

66 Kettunen, J., “Stakeholder relationships in higher education”, Tertiary Education and Management, Vol. 21, No. 1, 2015, pp. 56-65.

67 Ibid ., pp. 57-64.

68 Ibid ., p. 60.

69 SWOT分析とは、企業の強み、弱み、機会、驚異の全体的な評価を行うことである。

SWOT分析では、外部環境分析として機会と驚異の分析を行い、内部環境分析として 強みと弱みの分析を行う(Kotler P., A Framework for Marketing, First Edition,

Prentce-Hall, Inc. 2001. 恩蔵直人監修、月谷真紀訳『コトラーのマーケティング・マ

ネジメント 基本編』ピアソン・エデュケーション、2004年7月、58-59頁)。

70 学校法人鎮西学院 長崎ウエスレヤン大学『2015(平成27)年度 自己点検評価書』2015

119 年6月、10-14頁。

71 『同上書』18頁。

72 裵瑢俊・南慎郎・菅原良子・有門恵・永石美穂・佐藤快信「長崎ウエスレヤン大学にお ける戦略マネジメント・システムの導入(1)」『長崎ウエスレヤン大学現代社会学部紀要』

第10巻1号、2012年3月、81-84頁。

73 九州共立大学『平成 28 年度 大学機関別認証評価 自己点検評価書』2016年6月、16 頁。

74 経済学部BSCマネジメント委員会「大学におけるバランスト・スコアカード経営の可 能性-九州共立大学経済学部の取組みを事例に」『九州共立大学研究紀要』第2巻第2 号、2012年3月、46頁。

75 九州共立大学経済学部「教育活動マップ」の詳細については、「同上稿」 59頁を参照 されたい。

76 「同上稿」50-57頁。

77 奧居正樹「バランスト・スコアカードを用いた大学評価指標の策定とそれを支援する情 報システムの構築」『大学教育実践ジャーナル』第3号、2005年3月、4-5頁。

78 「同上稿」4-5頁。

79 中嶋教夫「明星大学におけるバランスト・スコアカード(BSC)への取組み」『企業会 計』第61巻第6号、2009年6月、158-159頁。

80 「同上稿」159頁。

81 Niven, R. P., Balanced Scorecard Step-By-Step for Government and Nonprofit Agencies, John Wiley & Sons, 2003. 吉川武雄監訳・柿崎平訳『行政・非営利組織のバラ ンス・スコアカード』生産性出版、2006年4月、371-383頁

82 『同上書』378-380頁。

83 Kaplan, S. R. and D. P. Norton『前掲書』2005年、60-63頁。

84 ここに示した5つの原則は、それぞれKaplan, S. R. and D. P. Norton『前掲書』

2001年9月、25頁-38頁に詳しい。