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国際的な視野と能力育成のための仕組み

第6章 地方大学国際化のための国際経営人材の育成

2 国際的な視野と能力育成のための仕組み

国際経営人材と共通する大学経営を担う人材に求められる知識や能力についてこれまで 述べてきた。本項では、それらに加え、国際的な視野を養成し、国際通用性のある経営人 材になるための観点から、海外における研修制度の意義について考察する。そこで、そう いった能力開発への示唆を得るために、3つの取り組みについて概観し考察する。第1は、

米国で開催されるNAFSA年次大会や欧州で開催されるEAIE年次大会(EAIE:

European Association for International Education )、アジアで開催されるAPAIE年 次大会(APAIE: Asia Pacific Association for International Education)で行われている 取り組みである。第2は、AUA(AUA: The Association of University Administrators)

という英国における大学行政管理学会での能力開発、そして第3は、福岡工業大学が実施 している海外研修制度の取り組みである。

(1) NAFSAなどの取り組み

NAFSAは、米国を拠点とした非営利団体で、国際教育交流を推進することを目的に 設置されている41。NAFSAの主な活動は「国際教育に携わる人々の専門性の向上や能 力開発、会員同士の情報交換やネットワーク、留学生交流の推進や政策への提言、海外留 学アドバイザー向けの助成金の授与などの活動」42である。

このNAFSAが開催する年次大会では、国や地域の枠組みを越えて高等教育に関連す るさまざまな課題や最新の情報等を学ぶことができるセミナーやワークショップが開催さ れている。米国で開催されるNAFSAの年次大会には、世界各地から毎年約 15,000 人 もの大学教員や事務職員が集まる。年次大会では、世界各国から、国ごとに相談ブースが 設けられるとともに、大学個別の相談ブースも設けられている。そして、大学間協定の締 結にかかる交渉の場の提供や派遣・受入留学プログラムなどについて相談する場ともなっ

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ている。また、こういったプログラムの他に、大学間あるいは個人間のネットワークを形 成する機会も創出されている。NAFSAではe-learningも推進されており、地理的な課 題を克服するための仕組みが整備されている。同じような国際教育交流を推進する機関と して、欧州におけるEAIE43やアジアにおけるAPAIE44があり、同じようにグロー バルな高等教育に関する課題や取り組み、世界の高等教育事情などを学ぶことができる機 会を提供している。

こういった機会に参加することで、国際的な感覚が身につくことは自明であろう。また、

今後自学の国際戦略を構築するうえで必要となる海外における高等教育事情や国際競争力 を確保するためのヒント、人的ネットワークを構築することができる。すなわち、国際経 営人材に必要となる国際的な視野と感覚、情報を得ることができるのである。

龍谷大学では、人事研修のひとつとして、上述した若手職員を対象として、今後必要と なる国際的な視野と感覚を身につけるために、APAIEに派遣する人事研修制度を2018 年から導入することとしている。これまで、このような会議やセミナー、ワークショップ に参加できる教員や事務職員は、大学の国際関連を担当する役務のある教員や国際関連部 署の大学事務職員などに限定的な面があったが、若手の大学事務職員の能力開発や内発的 動機づけとなる機会として、将来の経営人材育成に資することが期待される。

(2) AUAにおける能力開発

続いて、AUAの人材育成にかかる取り組みについて概観する。AUAでの人材育成に かかる取り組みは、海外高等教育事情や高等教育におけるグローバルな課題について学ぶ 機会となり、わが国における国際経営人材の育成にとって、多くの示唆を得ることができ る。また、国や地域の枠組みを越えて、世界の大学がそれぞれの大学における国際的な競 争力を確保するための戦略を練るための情報収集やネットワークを形成する場としても機 能している。

AUAは、高等教育の専門家に必要となる能力開発を支援し、そのための機会を提供す ることを目的としている45。主な対象は、英国やアイルランドの高等教育機関に所属する 行政職員や管理職クラスの職員である46

このAUAには「AUA CPD Framework(以下「CPD」という)」は、高等教育に お け る 専 門 的 な キ ャ リ ア 開 発 を 支 援 する た め の 多 面 的 な ツ ー ル が あ る 。 C PD (Continuing Professional Development)は、組織や個人を問わず、すべてのキャリア段階

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やすべての機関での役割に適用できるようになっている。そして、CPDはキャリア開発 のための新たな行動の観点を示している47。それは、9つの鍵となる行動のカテゴリーで 構成されている。そのカテゴリーは、つぎのとおりである48

① 自己統制と個人技能の向上(Managing self and personal skills)……自分の態度を意 識するとともに、それが他者にどのように影響するのかを意識する。そして、専門的 知見が必要となる場に適応できるよう、個人の技能を高める。

② 優れたサービスの提供(Delivering excellent service)……内外のクライエントに優 れたサービスを提供する。また、サービス基準を向上するために必要となる信頼関係 で結ばれた、広いオープンな関係を形成する。

③ 実行可能な解決方法の発見(Finding solutions)……俯瞰的なものの見方をし、熱意 をもって問題解決にあたり、実行可能な解決方法を見つける。そして、イノベーショ ンの機会を見極める。

④ 環境変化への適応(Embracing change)……働くにあたって、新たな考え方や方法を 積極的に取り入れる。また、これまでになかったような環境の変化に応じて適応する。

⑤ 最も効果的な資源活用(Using resources effectively)……ヒト、時間、情報、ネット ワークおよび予算といった資源を最も生産的に活用する。

⑥ より広い文脈での貢献(Engaging with the wider context)……より大きな観点での 理解と組織価値へのコミットメントを示すことによって、組織への貢献度を高める。

⑦ 自己と他者の能力開発(Developing self and others)……継続して自身が能力開発し 貢献していることを示す。また、他者の潜在的な能力を引き出すために、知識や技能、

態度を開発できるよう支援するとともに、奨励する。

⑧ 目的達成のための他者との協働(Working together) ……目標や目的を達成するた めに他者と協働する。そして、他者と協働するプロセスが、さまざまな貢献を促進す ることを認知するとともに、高く評価する。

⑨ 目標の達成(Achieving results)……首尾一貫して合意された目標と達成基準を満た す。また、物事を達成するために個人的責任を担う。

このような9つの行動の観点を念頭におきながら、業務に臨むとともに、自己啓発によ る能力開発を行うことで、自己成長につなげていく。こういったAUAの取り組みもまた、

国際経営を担う大学事務職員の能力開発に参考となるものである。いい換えれば、外部環 境の変化に適応できる大学経営人材の育成に資することになるといえるであろう。

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大学行政管理学会は、2005年9月にAUAと「教育をめぐる課題および大学行政の管理 運営に関する実践的研究を推進することを目的」として覚書を締結し、AUA年次総会に 会員派遣を行っている49。2014年4月に大学行政管理学会から派遣された一人として、英 国のマンチェスター大学にて開催されたAUA年次総会に出席し、セミナーやワークショ ップ、ネットワーキングの機会に参加した。この経験から、AUAでのこういった機会が、

非常に価値ある能力開発の機会となっていることを実感している。

(3) 福岡工業大学の事例

グローバル化が進展しているなか、大学事務職員が高度な経営を担っていくためには、

国際的な視野と感覚を身につけ、大きな時代の流れや世界の高等教育事情にも精通してお く必要がある。そこで、福岡工業大学が実施している海外における研修制度を概観する。

大谷・米田(2017)もまた、大学が置かれている外部環境の変化に対応するためには、大 学運営の高度化が必要であり、職員の職能開発の重要性が高まっているという認識のもと、

所属する福岡工業大学が 2009 年度から実施している海外派遣研修の設定にあたっての目 的と設定プロセスについて述べている50

まず、大学事務職員の能力の向上を図る機会として設定する海外研修の主目的について、

組織経営における視点から「組織が持続的に改善・改革を越える変革を起こす力を備える こと」51としている。

そこで、大谷・米田(2017)は、教職員が中心となる学習する組織に変革するために、海 外研修設定のプロセスについて、つぎの留意すべき事項も含めた手順を示している52

① 理事間での価値観の共有……「組織内での変革を進める上での革新は、組織を構成 する教職員の行動を変えていくことにある」53という共通価値をすべての理事が共有 する。

② 専門性を有したプロフェッショナルという位置づけの共有……研修の立案部署であ る総務部門に対して、海外派遣研修を「本学を離職した場合でも通用するスペシャリ ティを有したプロフェッショナル」54という考え方を福岡工業大学のキャリアとして 位置づけるよう依頼し、かつ「職員の機動性と柔軟性を高める研修立案を図る」55こ とを前提として共有する。

③ 職員への動機づけ……研修後において、主体的な学習を行うことができるよう動機 づけるために、実践的かつ相互交流が行えるプログラムとする。