第3章 地方大学経営における国際化の現状と課題
1 APUの事例
地域および地方大学に、外国人留学生が増えれば、どのような便益が地域や大学経営に もたらすことになるのであろうか。そのことを明らかにするために、大分県と別府市が学 校法人立命館と公私協力方式にて、大分県別府市に2000年4月に世界に通用する大学を コンセプトに開学したAPUに着目し、地方大学の国際化の効果について考察する。
大分県がAPUを誘致した背景には、つぎの3点がある。第1に東京を中心とした都市 部への人口の一極集中および特に若年層の人口流出および出生率の低下により、1985 年 に125万人であった人口の減少が続いていること、第2に人口減少により老齢人口比率が 高まり、過疎の解消が急務な状況であること、第3に定住人口増と交流人口の拡大のため には、企業誘致の促進による雇用創出と所得増が望まれることである4。
佐藤(2013)によれば、APUの開学にあたっては、当時の平松守彦知事が掲げた構想で ある「アジア・太平洋のリーダーを育てる」に基づいて大学誘致が行われ、つぎの3つの 目標を掲げている。学生構成比率として50%が外国人留学生、外国籍を有する教員が50%、
50カ国以上からの外国人留学生を獲得することである5。これまでわが国にはないコンセ プトの大学であるといえる。
APUの基本理念は、「自由・平和・ヒューマニティ」「国際相互理解」「アジア太平洋の 未来創造」である。その基本理念のもと「国際社会においてリーダーとして活躍できる人 材を育成するために必要なカリキュラムを提供」6している。カリキュラムの特徴として は、日本語と英語の両方による講義が行われて、約90%の学部講義が二言語で開講されて おり、国際的に通用性のある教育が行われている7。
そのAPUの2018年5月1日付現在の基本情報は、図表3-1のとおりである。APU
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の学生は、図表3-1にあるように、約半数が外国人留学生となっており、設立当初から外 国人留学生の獲得を念頭に置いた大学として、経営戦略と教学戦略を有しており十分な成 果があがっているといえる。そのAPUが大分県と別府市にもたらした効果について考察 していく。
図表3-1 APUの基本情報
入学定員
編入学 定員 2年次
編入学 定員 3年次
学部 収容定員
総学生数(2018年5月1日現在)
学部生 大学院 科目等履修
アジア太平洋学部 660 12 18 2,592
5,636 190 137
国際経営学部 660 22 31 2,648
計 1,320 34 49 5,240 5,963(内留学生数3,008)
(出所)立命館アジア太平洋大学「APUについて 大学基本情報」に記載のデータを基に筆
者作成
APUの誘致が大分県・別府市にもたらした効果は、つぎのとおりである8。
① 県内進学者……2005年から2009年までの統計データによると、毎年130名前後の 学生がAPUに進学している。
② 県内企業への就職……学生の多くが首都圏に就職するなか、これまで県内企業に就 職する学生が200名近くになっている。
③ 外国人留学生の県内企業への就職……海外進出や貿易拡大を図ろうとする県内企業、
ホテルや旅館といった観光業界に就職する外国人留学生が例年5名から10名となっ ている。
④ 地域との連携促進……現在、大分県をはじめ県内外の 21 におよぶ市町村と友好交 流協定を締結し、地域づくりや観光振興などの地域課題に取り組み、地域に貢献して いる。
⑤ 協働によるまちづくり……外国人留学生や大学が地域と協働して、地域が有する歴 史的資産の活用の検討や文化交流が促進されている。
⑥ 地域課題への貢献(共同研究)……地域が有する課題解決のために、研究者と学生が 自治体と協働している。
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⑦ 教育における貢献……小中学校に外国人留学生が講師として派遣されて、語学教育 や異文化理解を促進している。また、教員や学生が高校に出向いて模擬講義や英語研 修をしており、高校生のキャリア形成を支援している。
⑧ 地域住民との交流……学生による地域コミュニティとの交流が推進され、地域活性 化や郷土愛の醸成に寄与している。
⑨ 地元企業への貢献……語学力や現地商習慣の知識を有する外国人留学生が、県内企 業活動に協力することによって、その結果、取引額が飛躍的に増大した例がある。
しかしながら、2点目および3点目にあげた県内企業への就職については、まだ十分と はいえないのではないだろうか。APUにおける 2016年度の就職・進路状況から課題の 抽出を試みる。
2016年度の就職率の実績は96.7%9、そして、国内だけでなく、海外における就職が増 えており、特にアジアでの就職支援に注力しているという。また、国内における地域別の 就職率では、2016年度実績で、関東61%、中部・北陸・近畿18%、中国・四国3%、大分 を除く九州・沖縄12%、大分5%、その他1%となっている10。本データからは、大分県 内への就職割合はわずか 5%にすぎず、学生が希望する就職先がないことや就職情報の不 足といった要因が考えられる。
これら就職を支援するために、学生の進路指導と社会ニーズとのマッチングが図れるよ う、初年次から卒業年次にかけて、年次ごとにキャリア開発のためのプログラムが提供さ れている11。特にインターンシップは、学生の職業観の醸成や地元企業の良さを知る機会 としても有用であることから、地元企業への就職状況や地域への定着率を改善するための 方策として、さらなる充実が期待される。
また、大分県には、これら外国人留学生を総合的に支援する仕組みとして「特定非営利 法人大学コンソーシアムおおいた」がある。2003年10年に発足しているこのコンソーシ アムは、県内の大学や短期大学、専門学校、大分県と別府市、大分県経済同友会や商工会 議所などの経済団体、地元企業などの会員で構成されている。その主な事業内容は、外国 人留学生の生活支援、外国人留学生の地域活動の支援、外国人留学生と地域との交流支援、
外国人留学生の就職・起業支援および国際的人材育成事業などがある。なかでも、外国人 留学生の就職支援では、インターンシップを推進するとともに、外国人留学生人材バンク を形成して、無償のインターンシップから有償のアルバイトまでサポートしている12。こ のコンソーシアム設置の背景には、APU誘致後も継続して大分県の国際教育政策が行わ
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れるよう、財政負担を小さくして継続的な仕組みを構築したいという大分県の意向があっ たという13。
このような外国人留学生に対する総合的な支援は、地方の1大学だけでは、財政的にも 人的にも負担が大きく、困難な支援であるといえる。それゆえ、複数の大学と地方自治体、
地元経済団体、地元企業などによる連携・協働した取り組みは、総合的な地域活性化の取 り組みとして、成果が期待されるところである。
つぎに、大学誘致後に期待される効果として、県内人口減少の抑制効果と経済波及効果 が考えられる。経済波及効果についは、第Ⅳ節にて後述することとして、本節では、県内 人口にどのように影響を与えているかについて考察する。
APU誘致後の別府市における人口動態について、概観する。別府市の人口は、1980年 以降減少を続けていたが、2000年のAPU開学を機に一時下げ止まった。APUに関連す る人口は、2009年当時で、学生6,005人、教職員447人、教職員の家族283人、関連会 社の従業員と家族127人の合計6,862人である。この6,862人は、別府市の総人口の5.4%14 であり、かなりの割合を構成しているといえる。また、2009年度データではあるが、人口 1万人あたりの外国人留学生数は、東京都を抜いて全国1位となっており15、いかに外国 人留学生が重要な構成要素となっているかがうかがえる。
しかしながら、ピーク時の1980年9月末には134,419人であった別府市の人口は、A PU開学によって一時下げ止まったものの、その後減少が続き2018年9月末には118,197 人となっており、ピーク時と比較すると87.9%と約16,000人も減少している16。
別府市にとってAPUの開学は、地域社会や経済の活性化に資するものであるが、1大 学だけで、地方の大都市への人口流出に歯止めをかけることは難しいようである。やはり、
地方にある大学の国際化とともに、地域産業が発展し、若者にとって魅力ある企業が集ま り、地域に定着していくという循環が求められることがわかる。