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海外の大学におけるBSCの活用

第4章 地方大学経営における経営戦略とBSCの有用性

1 海外の大学におけるBSCの活用

(1) 英国の大学

市場化が進み、厳しい競争環境下にある英国の高等教育界では、アカウンタビリティが 求められ業績管理への関心が高まっている。このことを受けて、John Taylor と Claire

Bainesは、英国の4大学に対してBSCの適用に関する質的調査と経営層へのインタビュ

ーを行い、大学経営戦略と政策形成、およびモニタリングや評価に関して考察している63。 そこでまず、高等教育機関における業績を測定するためのシステムとして、BSC、欧 州品質枠組みモデル、統合された重要業績評価指標、ダッシュボードの4つのシステムに ついて、図表4-3のようにそれぞれの特徴と長所、そして留意しなければならない制約事 項について整理している64

図表4-3 高等教育機関における業績測定アプローチの分析

業績測定アプローチ フォーマットと特徴 長所 制約

BSC 4つの視点において目標を バランスよく設定するシン プルなフレームワークであ る。

・顧客の視点

・内部の視点

・財務の視点

・人材の視点

・組織目標と計画に直接的に 結びついている。・テンプレ ートは、すべてのレベルの組 織戦略にカスケードするこ とができる。・明確でわかり やすい。・先行指標と遅行指 標が含まれたバランスのと れたアプローチである。

・組織のすべてのレベルで適 用するために、かなり綿密な 仕事が要求される。・4つの 戦略のそれぞれを測定する ための指標の使用にあたっ ては詳細な解説をするとい った支援が必要となる。・そ れゆえ一人で実行すること はできない。

品質管理のための 欧州ファンデーシ ョン

9つの基準を用いたビジネス・エ クセレンスのためのフレームワ ークを提供。イネーブラーに基づ くもの(リーダーシップ、人材、政 策と戦略、パートナーシップと資 源、進捗状況)・成果に基づくもの (人材、顧客、社会、重要業績評価)

・より複雑ではあるが、形を 変えたBSCである。

・ビジネスでの成功を期待す る経営層に対して訴求力が ある。

・BSCよりも、社会的な成 果を保証する。

欧州品質賞の品質保証「ル ーツ」から発展しており、

品質保証メカニズムにおい て負担が大きい要素を保持 している。

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統合された重要業 績評価指標

・複合的な定量指標を集める ことができる。

・これらの定量指標は、ビジ ネス活動とその成果の両方 を反映している。

・異なるレベルの業績につい て、わかりやすく表示され、

理解しやすい交通信号(赤・

黄・緑色)のようなフォーマッ トとなっている。

・高等教育機関全体(構成要 素であるサービスや活動で はなく)に容易に適用できな い可能性がある。・遅行情報 を優先的に表示する。・企業 戦略に対して明示的なリン クはない。

ダッシュボード ・組織における業績について 多様なデータを示すことが できる。・これらは、しばしば メーターのように動き、現在 のトレンドや流行の方向性 を示す管理情報システムと なる。

可視化された評価指標によ って、今後の方向性を示し、

広い範囲の状況を表す。

・企業戦略に対して明示的に は関連しない。・質の高い管 理情報システムが求められ る。

・管理情報システムとの連携 にかなり依存する(コストが 高い)。

(出所)Taylor, J. and C. Baines(2012, p. 114)の「Table.1」を筆者翻訳

図表4-3では、4つのマネジメント・システムの長所と制約事項をそれぞれ比較するこ とができる。そして、図表4-3からは、これらマネジメント・システムには、2つの類似 点が見て取れる。第1は、いずれも業績を評価するための指標を有していることである。

そして、第2は、戦略について何らかの手法で可視化することにより、戦略について理解 が促進するよう工夫がなされていることである。このことは、戦略目標やその達成のため のアクションプラン、そしてその状況を測定するための評価指標等について、組織構成員 すべてに共有できるようコミュニケーション・ツールとしても用いられていることを示唆 している。

これらのマネジメント・システムは、そのままでは高等教育機関が抱える諸課題を解決 するツールとして使用することは難しく、それぞれの高等教育機関の置かれている環境や 独自のミッションを踏まえて、修正しなければならないことに留意する必要がある65

図表4-3に示された3つの制約要件である「組織のすべてのレベルで適用するために、

かなり綿密な仕事が要求される」「4つの戦略のそれぞれを測るための指標の使用にあた っては、詳細な解説をするといった支援が必要となる」「それゆえ、一人で実行することは

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できない」ことをBSC導入にあたっての課題として踏まえておく必要がある。言い換え れば、BSCを組織で活用していくためには、大学全体で取り組む必要があり、組織構成 員一人ひとりがBSCを用いることの意義を共通に理解し、一人ではなくチームとして、

大学一丸となって取り組まなければならないと考えられる。

BSCを導入するにあたっては、組織全体を巻き込んで取り組む必要があることから、

大きな組織では、すべての構成員が参加して取り組むということが制約要件となって、B SCの導入を阻害している可能性があることに留意する必要がある。

(2) フィンランドの大学

フィンランドには、地域の発展を支援することをミッションとし、地域やコミュニティ、

地域住民を重要なステークホルダーとしている応用科学大学があり、BSCの活用方法と して、ステークホルダーとの関係性に着目した研究が存在する。

Kettunen(2015)は、フィンランドの高等教育における最も重要なステークホルダーとの 関係性を示すためにステークホルダーマップを提唱している。そのステークホルダーマッ プは、BSCの考え方に基づいて、4つの視点からステークホルダーを分類し、その関係 性を明確にして、戦略的マネジメントのなかに、ステークホルダーを統合している66

そして、ステークホルダーから得られるフィードバックを大学経営における監査や品質 保証、経営戦略のプロセス管理に役立てることが重要であることを指摘し、ステークホル ダーマップの有用性について、つぎのように整理している67

① ステークホルダーの明確化……ステークホルダーから正しいフィードバックを得る ことができるよう、ステークホルダーを明確化することができる。

② フィードバックのチェック機能……すべての関係するステークホルダーから得たフ ィードバックをチェックする機能を有している。

③ 関係性の可視化……ステークホルダーとの関係性について、可視化することができ、

ステークホルダーとのコミュニケーションが円滑になる。

④ 関係性のマネジメント……カスタマーとの関係性をマネジメントする情報システム として使用することができる。

そして、Kettunen(2015)は、トゥルク応用科学大学(the Turku University of Applied Sciences : TUAS)を例にあげ、大学経営へのフィードバックが可能となるよう、大学とス テークホルダーおよびカスタマーとの関係性を表したステークホルダーマップを図表 4-4

104 のとおり作成している68

図表4-4は、学生を中心に据えて「ファイナンス」「組織学習」「外部へのインパクト」

「プロセスと連携」という4つの視点から大学のステークホルダーとの関係性に着目して 整理された戦略マップを応用したものと考えることができる。地方大学の使命である地域 活性化のためには、地方大学は大学を取り巻くステークホルダーと連携・協働して、新た な価値を創造していく必要があることから、関係性をマネジメントすることがますます重 要な観点となってくるであろう。また、大学ではなく学生を中心に据えてステークホルダ ーマップを整理しており「顧客の視点」を重要視していると解釈することができる。

図表4-4 TUASのステークホルダーマップ(パートナーシップ)

(出所)Juha Kettunen(2015, p. 60)の「Figure.1」を筆者翻訳

注1 FINEECは、The Finnish Education Evaluation Centreの略称である。フ ィンランドの高等教育機関は、定期的に監査を受けなければならいという規定に基 づいてFINEECと協力している。

注2 CARPEは、The Consortium of Applied Research and Professional Education 学生

パートナーシップ アドバイザリーボード

事務職員

コミュニティ

・個々の住民 プロセスと連携

ファイナンス 組織学習

外部へのインパクト

資金調達機関 企業等

メディア 同窓会

コミュニティ

・個々の住民

地方

研究機関

コンサルタント 教員養成大学

学生自治組織 開発会社

FINEEC(注1) )1

CARPE(注2) 2

顧客とのパートナーシップ

高等教育界

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の略称である。CARPEは、応用研究と専門教育のコンソーシアムである。