第2章 大学経営における国際化
1 わが国における世界大学ランキングにかかる動向
ICTの急速な発展によって、社会のグローバル化が急速に進んでいる。ICTの発達 によるグローバル化は、世界の高等教育界における教育研究においても大きな変化をもた らしている。太田(2011)は、ネットワークで世界中が結ばれ、巨大なネットワークが構築 され、教育研究においても国際的な競争と協働が生じており、その表れのひとつとして世 界大学ランキングがある。また、学術交流が促進されるとともに、世界各国のトップ大学 による競争が激化しており、中長期的な大学戦略として国際化が重要な課題となっている と指摘している50。
こういった世界を取り巻く教育研究環境が変化しているなか、わが国においてもようや く国家戦略として国際競争力を確保するために、大学の国際化を推進するための戦略が打 ち出されるようになった。なかでも、第1章でふれた 2014 年から実施されている「スー パーグローバル大学創成支援」事業は、わが国として大学における国際化の一層の促進を 目的とした事業である。
「スーパーグローバル大学創成支援」事業は、わが国における大学の国際的な競争力の 強化と国際化を牽引するために実施されている支援事業であり、その背景には、つぎの経 緯がある。2013年1月に教育再生会議が発足し、同年6月に第2期教育振興基本計画が策 定された。本計画には、日本が直面する危機的な状況として、グローバル化への対応に必 要となる施策を体系的に整理していく旨が述べられた。また、同時に日本再興戦略が閣議 決定され、国立大学法人の目標として、個別の指定された世界大学ランキングはないもの の、世界大学ランキング100位以内に少なくとも10校をランクインする旨が盛り込まれ た。わが国における経済再生と教育再生の文脈における国家戦略として、はじめて世界大 学ランキングが取り上げられたことは着目しておく必要があろう。
これらのことを踏まえて、直近のわが国における世界大学ランキングの順位の推移につ いて概観していく。2019年のTHEでも 200位以内には、東京大学と京都大学の2校の みのランクインであった。同2校の直近6年のランク推移は図表2-2のとおりである。
このようにわが国を代表する東京大学の2019THEにおける順位は、42位と前年度か らその順位を上げている。また、京都大学の同THEは、65位と3年連続して順位を上げ ている。両大学ともにレピュテーションは高いランクを堅持している点が特徴である。し かしながら、他の評価指標が低いことから、シンガポールや中国の世界レベルの大学と比 べて順位が低くなっている。
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図表2-2 THE 東京大学と京都大学 ランク推移 東京大学 京都大学 world
rank
reputation rank
world rank
reputation rank
2013-2014 THE 23 11 52 19
2014-2015 THE 23 12 59 27
2015-2016 THE 43 12 88 27
2016-2017 THE 39 11 91 25
2018 THE 46 13 74 27
2019 THE 42 - 65 -
(出所)THE World University Rankingsウェブサイトを基に筆者作成。2019THE のレ
ピュテーション・ランキングは、同ウェブサイトではまだ掲載されていない(2018年11月14日現 在)。
シンガポールのNational University of Singapore(シンガポール国立大学)は、直近4ヶ 年で、26位から24位、22位と順位を上げていたものの、2019THEではその順位を一 つ下げ23位であった。そして、中国のPeking University(北京大学)もまた、42位から29 位、27 位と順位を上げていたが、2019THEでは 31 位に順位を下げた。一方、中国の
Tsinghua University(精華大学)は、47位から35位、30位とその順位を上げ、2019TH
Eでは22位へ躍進した。また、香港のUniversity of Hong Kong(香港大学)もまた、44位 から43位、40位と順調に順位を上げ、THE2019においても36位へと順位を上げた。
これらのことから、わが国の大学もランキングを上げるべく取り組んでいる一方で、他 のアジア各国においても国家戦略的な取り組みがなされていることから、世界大学ランキ ングを土俵とした国家間あるいは大学間における競争が激化していることがうかがえる。
つぎに、QSにおける両大学のランク推移を概観する。図表2-3のように、順位は順調 に推移しているといえる。このことは、THEとの評価指標の違いによるところが大きい といえる。図表2-1にあるように、QSの評判調査に関する評価指標は、研究者によるア カデミック・レピュテーションが40%、雇用者によるエンプロイヤー・レピュテーション
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が10%となっており、評判調査全体で50%となっている。図表2-2に示しているとおり
THEにおいても両大学のレピュテーションは安定して高いことが、QSの順位が順調な 要因であるといえる。
綿貫(2016)は「世界大学ランキングは大学生の国際流動性の増加と相関関係があり、そ の重要性は年々高まっている」51と指摘している。そして、留学生が大学を選ぶにあたっ て、世界大学ランキングの指標が重要となっており、それら大学ランキングが提供するラ ンキングや大学情報が、留学生が大学を選ぶにあたって大きな意味をもつようになったと 示唆している52。また、「ランキングは目的ではなく、あくまで手段である」53と指摘して いる。すなわち、大学の国際競争力の向上のために必要となる研究力や教育力を上げるこ とや社会で活躍し世界に貢献できるグローバル人材を育成するために、指標を活用して大 学改革を断行していくためのツールとして活用すべきであるということである。さらに、
綿貫(2016)は、ランキングは国内だけでなく世界における競合状況を理解するのに役立ち、
ランキングの上下は大学に緊張感をもたらすことになり、大学経営における経営管理のた めのツールとしても有用であると指摘している54。
このように世界大学ランキングは、研究や教育における国際競争力を高め、優秀な外国 人教員や外国人留学生を獲得していくためのツールとして活用されていくと考えられる。
図表2-3 QS 東京大学と京都大学 ランク推移
東京大学 rank
京都大学 rank
2016 QS 39 38
2017 QS 34 37
2018 QS 28 36
2019 QS 23 35
(出所)QS World University Rankingsウェブサイトを基に筆者作成
2 「スーパーグローバル大学創成支援」事業採択校の現状と課題
つぎに、わが国における大学の世界大学ランキングへのランクインを目指すとともに、
国際化を促進するために導入された「スーパーグローバル大学創成支援」事業に採択され
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た大学の国際化について、「スーパーグローバル大学創成支援」事業に共通の評価指標をも とに、進捗状況と課題について概観し考察する。
(1) 「スーパーグローバル大学創成支援」事業採択校
「スーパーグローバル大学創成支援」事業には、世界大学ランキングにおいてトップ100 位以内を目指すタイプAとして 13 大学、高等教育の国際競争力の向上を目指し、徹底し た国際化と大学改革を進め、わが国の大学のグローバル化を牽引していくタイプBとして 24大学が採択されている55。
わが国の大学数は、国立大学86校、公立大学90校、私立大学604校の計780校56と なっているなか、2014年度から創設されたこの「スーパーグローバル大学創成支援」事業 は、国家戦略としてわが国の大学の国際競争力の強化、グローバル化を先導するために37 校のみが選抜されている。採択校の割合は、わが国の大学総数のわずか約 4.7%ではある が、わが国の大学全体の学生数が約282万人、教職員数が約40万人であり、37大学の学 生総数約55万人、教職員総数約8万人は、それぞれ全体の約20%に相当している57。こ の割合を鑑みると、これら 37 校による取り組みのインパクトは大きく、他大学への影響 も大きいといえる。
(2) 数値目標に対する達成状況と課題
上述した「スーパーグローバル大学創成支援」事業の中間評価が、2018年2月に公表さ れた。この中間評価は、事業のPDCAサイクルを適切に回すための仕組みとして事業等 の達成状況を評価し助言を行うことによって、適切かつ効果的な事業実施を促すことを目 的としている58。
図表2-4は「スーパーグローバル大学創成支援」大学事業に採択された 37校に共通と なる24の指標ごとに、2013年度から、補助期間の最終年度までの達成状況および目標値 をまとめたものである59。2013から2017年度までは実績値であり、2019年度は目標値、
2023年度は最終達成目標値となっている。
図表2-4をみると、これら指標のうち、THEもしくはQSの評価指標と同じもしくは、
近い指標は、「教員に占める外国人及び外国の大学で学位を取得した専任教員等の割合」と
「全学生に占める外国人留学生の割合」のみであるが、他のすべての指標が、大学の国際 化に必要となる教職員や学生の流動性を高めるための指標となっている。
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図表2-4 「スーパーグローバル大学創成支援」事業 全37大学指標別割合一覧
評価指標 2013 2014 2015 2016 2017 2019 2023 教員に占める外国人及び外国の大学で学位を取得し
た専任教員等の割合
27.6 28.5 29.4 31.4 33.0 39.6 47.1
職員に占める外国人及び外国の大学で学位を取得し た専任職員等の割合
5.0 5.5 6.0 6.6 6.7 8.8 12.3
教職員に占める女性の比率(教員) 15.6 16.2 16.8 17.1 17.4 20.3 23.8 教職員に占める女性の比率(職員) 42.2 43.8 45.1 45.9 46.5 45.4 46.9 全学生に占める外国人留学生の割合(5月1日時点) 6.5 6.7 7.1 7.7 8.4 10.4 13.0 全学生に占める外国人留学生の割合(通年) 8.8 9.7 10.7 12.2 14.5 18.1 大学間協定に基づく交流数(派遣日本人学生) 2.6 3.1 3.4 4.1 5.8 8.4 大学間協定に基づく交流数(受入外国人留学生) 1.5 1.8 2.3 2.9 3.8 5.5 日本人学生に占める留学経験者の割合 3.1 3.6 3.9 4.5 8.2 12.6 外国語による授業科目数・割合 7.2 8.1 9.7 11.7 15.2 21.9 外国語のみで卒業出来るコースの数 18.9 19.5 20.2 22.1 24.5 27.6 32.0 外国語のみで卒業出来るコースの在籍者数 3.9 4.1 4.4 5.5 6.0 7.2 9.4 学生の語学レベルの測定・把握、向上のための取組 13.9 15.3 17.0 18.4 33.8 46.8 ナンバリング実施状況・割合 11.2 16.9 38.5 61.9 78.3 93.6 100.0 シラバスの英語化の状況・割合 11.8 16.4 22.0 32.1 38.2 63.9 70.6 奨学金支給の入学許可時の伝達 41.8 45.7 50.5 55.2 56.0 64.4 混住型学生宿舎に入居している外国人留学生数、留学
生宿舎に入居している外国人留学生数に占める割合
53.2 58.2 63.7 70.0 73.2 78.4 83.4
混住型学生宿舎に入居している日本人学生数、全日本 人学生数に占める割合
2.2 2.3 2.4 2.7 3.0 3.5 4.3
年俸制の導入(教員) 17.1 18.0 23.1 26.4 28.7 31.2 35.9 年俸制の導入(職員) 9.2 10.6 11.5 12.3 12.9 12.2 15.1 テニュアトラック制の導入 7.1 10.8 12.0 13.7 13.6 16.1 事務職員の高度化への取組 8.6 9.9 11.2 14.1 15.1 19.9 27.5 学生の主体的参加と大学運営への反映の促進 48.1 50.7 51.4 64.8 75.6 81.0
TOEFL等外部試験の学部入試への活用 7.8 8.7 12.1 16.8 26.9 35.0
(出所)文部科学省(2018a、122-125頁)の各図表に記載されている数値を基に筆者作成。下
線部分は、当該年度の目標値を上回った割合を示している値に下線を引いている。また、