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第6章 地方大学国際化のための国際経営人材の育成

1 大学経営人材に求められる能力

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そして、大学全体を俯瞰することのできる広い視野と今後進むべき方向性を示唆する ことのできる力が必要である。

人材育成は、人的資源マネジメントにおける最も重要なパートである。また、人材育成 は、将来に回収できる「投資」と捉えるべきであり、事務職員の育成は組織としての競争 力の源泉となるものである。それゆえ、大学事務職員を育成するための学内外の研修に対 する考え方そのものから見直していく必要があろう。

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大学協会(以下「国立大学協会」という)がある。そして、公立大学には「公立大学の振興と 我が国の高等教育、学術研究の水準の向上及び均衡ある発展に寄与することを目的」16と して設置された一般社団法人公立大学協会(以下「公立大学協会」という)がある。これらの 組織別に、大学事務職員に求められる能力について概観する。

まず、私立大学における大学事務職員に求められる能力について概観する。風間(2017) は、わが国の私立大学を取り巻く厳しい経営環境を踏まえ、今後大学事務職員に求められ る能力は、「獲得した知識を課題解決につなげる『政策能力』である」17とし、「従来の思 考枠組み(パラダイム)にとらわれず、柔軟な発想をもって有効な解決策を生み出す政策能 力」18であるとしている。また、私立大学連盟では「研修を通じて育成を目指す人を『ア ドミニストレーター』」19と表現し、そのアドミニストレーターは、「大学を取り巻く複雑 かつ流動的な課題環境を読み解き、社会のニーズを的確に把握する力」「大学の建学理念を 課題環境の中で現実化する戦略を構想する能力」「大学の戦略をステークホルダーたちに わかりやすく説明し信頼関係を築くコミュニケーション力」の3つの能力を高いレベルで 融合させることが求められると指摘している20。これら3つの能力は、環境分析・把握能 力、戦略構想力、コミュニケーション力と言い換えることができよう。

私立大学協会は、私立大学の事務職員に求められる共通する普遍的な能力とは「各大学 の創設者の志を心に刻み、建学の精神の実現に向けて、教育研究組織を構築し経営してい く力である」21と指摘している。そして、大学経営者層への研修が必要であり、理事クラ ス向けの資質向上のための研修を「BD(Board Development)」22と呼んでいる。

そのBDには、つぎのような研修によって身につけるべき経営能力を示されている23

① 建学の精神の理解……建学の精神の深い意味をしっかりと理解しておくことが基本 的な前提となる。

② 政策動向の理解……関連する法省令や政策動向について把握し理解をしている。

③ 計画策定能力と実行力……中長期計画を策定する能力とPDCAサイクルを構築し て、確固たる強い意志のもと実行する。

④ 経営倫理観……私立大学は社会性と公共性を有することから、自主・自律した健全 な大学経営を目指さなければならない。

そして、このように厳しい社会情勢においては、理事自らが学習しながら経営者として 必要な知識と能力を身につけるべきであると指摘している24

国立大学について、木谷(2017)は、国立大学協会の取組を紹介するなかで、大学事務職

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員には「経営戦略の企画・立案、そのための諸情報の収集・分析、教育・研究改革の支援 と環境整備、学生のキャリア、産学・地域連携、知的財産管理、国際化・情報化の推進な ど、極めて幅広い分野で大きな役割を果たすことが期待されており、各分野の専門性のみ ならず、企画・提案力や学内外の関係者との交渉・調整力が求められている」25と指摘し ている。

公立大学の多くは小規模大学であり、その事務組織も小さいことから、公立大学協会が 実務研修とは別に大学職員の能力開発としていくつかの集合研修を実施している26。そし て、公立大学職員の人事マネジメントにおける課題について、公立大学の8割以上が法人 化している状況を踏まえ、つぎのように整理している27

① 人事マネジメントの困難性……設置自治体の事実上の許可や確認が必要なことなど から、設置自治体と協議しながら、研修を実施できる法人は多くない。

② 構成員間のギャップ……教員と事務職員、自治体職員とプロパー採用職員との間に、

公立大学そのものに対する考え方や理解にギャップがあり、深刻な課題となっている。

中田(2017)は、このような課題を踏まえ、公立大学の事務職員には、設置自治体との調 整力や粘り強い対話力が求められることを示している28

大学の設置形態別に大学事務職員に求められる知識や能力についてみてきたが、一部公 立大学において設置自治体との関係における課題解決のために必要な特有の能力が認めら れたものの、概ね設置形態の如何にかかわらず、大学事務職員の経営人材として必要な知 識や能力は共通しているといえる。

(2) 立命館学園の事例

私立大学の事務職員においては、建学の精神に基づいたミッションとビジョンへの共通 理解や共感が、組織人として働き、成長するうえで、欠かせない重要な要因となることか ら、共に「スーパーグローバル大学創成支援」事業採択校である立命館大学と立命館アジ ア太平洋大学を有する立命館学園の事例について概観する。

志摩(2017)は、自身が所属する立命館学園の職員組織マネジメントにおいて、立命館学 園の建学の精神と「立命館憲章」を基とした「ミッションを全構成員が理解し、その理念 に則った将来のビジョン形成を、私学として自律的かつ組織的に行う過程を、立命館では 重要視している」29ことと示している。そして、そのことが立命館アジア太平洋大学を成 功に導き、2015年には「大阪いばらきキャンパス」の設置が実現できたと指摘している30

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こういったことを踏まえ、志摩(2017)は職員組織をマネジメントするために必要となる 意識と対応能力について、つぎの3点を指摘している31

① 共創するという意識の共有……「『ともに創る』意識の共有:組織としてミッション やビジョンで構成員をつなぎ、それを前進・発展の力とする」32。具体的には、組織マ ネジメントとして、教職員だけではなく学生も巻き込んだ参加・参画を必須として中 期計画を策定するといった事例がある。

② 環境変化への適用……「社会環境への変化への対応力:社会環境の変化を素早く捉 え、過去に確立してきた制度を基盤としてのミッションに照らし柔軟に変化、改善し ていく」33

③ 高度化への対応……「専門性との総合性:高度化する職員業務に対応するためには 専門性のほかに、私学である立命館固有のミッションを理解し、組織力を成果に結び つけるための組織内調整や協働で実現に導く力、つまり総合性も重要である」34。 上述したように、組織をマネジメントしていくうえで、重要なキーワードとしては「共 創」「参画」「変化への対応力」「専門性」「総合性」をあげることができる。

また、志摩(2017)は、あるべき大学事務職員像として、変革期にあるわが国の大学を取 り巻く環境の変化に対応するために、今後のあるべき大学事務職員に求められるものとし て、大学事務職員は、前例に捉われることなく、専門性や日常業務の見直しを行うなど、

自ら自己変革しなければならない。時代が変化したとしても変わらざるべきものとしての 大学のミッションとしての「建学の精神」と「立命館憲章」への共感をあげている。その うえで、ミッションを基にした創造力、学生を中心に考えるという目的を明確に自覚する こと、教員と職員とが協働して共に創るという姿勢が必要であると指摘している35。 すなわち、建学の精神や理念を形成する構造として「変わらない部分」と「変わるべき 部分」の二重構造があることを理解し、理念型経営の重要性とその理念の浸透がいかに重 要であるかを指摘するとともに、学生を最も重要な顧客として捉え、学生を常に念頭にお いた施策としなければならないことを明示しているといえよう。大学の建学の精神や理念 については、第7章にて詳細に論じる。

(3) 大学院における能力育成

大学事務職員が、大学経営の一翼を担い、経営管理を行っていくためには、時代の変化 に伴う高等教育政策や経済界などの社会的動向に関する情報をいち早く収集・分析し、政

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策を立案し実行していかなければならない。そのためには、高度な専門知識を背景とした、

マネジメント能力が求められる。そこで、大学経営に必要となる高度な知識や能力を養成 するための機会と課題について論じた事例を概観する。

両角(2017)は、大学経営の高度化と複雑化が求められているが、その高度化の内容は、

それぞれの大学を取り巻く環境によって異なる。それゆえ、各大学の適切な判断が必要で あり、高度化した大学経営人材としての大学事務職員への役割が重要であると指摘してい る36

そして、そういった経営人材育成の需要に応えるために設置された、大学事務職員等を 対象とした東京大学大学院での大学経営・政策コースが開設 10 年を迎えたこと期に、修 了生を対象としたアンケートを実施した結果、修了生は高い満足度を示していることがわ かった37

そのアンケート結果による満足度の高い順は「高等教育の制度・政策」「大学の歴史」「海 外事情」「大学の組織・ガバナンス」「各論(入試や学術研究等)」38である。また、職場での 有用性が高い学びの内容は「高等教育の制度・政策」「大学の組織・ガバナンス」「各論(入 試や学術研究等)」となっており、「大学の歴史」「海外事情」は授業の満足度は高いが、職 場での有用性は高くないという興味深い結果を示している39

また、両角(2017)は、上述したアンケート結果からも明らかなように、こういった大学 院での学びが、大学事務職員にとって有用な学びを得る機会となっていることを踏まえ、

コースが取り組むべき課題として、現在は 30代の大学事務職員が多いが、今後は大学事 務職員だけでなく教員も含めた経営者層の開拓をあげている。また、大学という職場に求 める変化として、つぎの指摘をしている40

① キャリアアップ……大学院での学びが、本人のキャリアアップに必ずしもつながっ ていない。

② 処遇……大学院を終了後、相応しい処遇や活躍できる場が必ずしも与えられていな い。

③ 職場の理解……大学院で学ぶことに対して、職場の理解やサポートを得ることがで きない場合がよくある。

④ 金銭的支援……大学院での授業料について、職場からの金銭的補助も限定的である。

⑤ 立地……地方にある小規模大学の事務職員は、関心があっても通学できないという 声がある。