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第4章 地方大学経営における経営戦略とBSCの有用性

2 予算編成からの整理

持続的な大学経営は、財政基盤の確立なくしてはありえない。安定的な財政基盤があっ

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てこそ、教育研究を充実することができ、地域に貢献するという使命を果たすことができ ることに留意しなければならず、「財務の視点」は重要な視点であるこのことを認識してお く必要がある。

大学は、収容定員が定められており、学生の募集力があって定員をしっかりと確保する ことができれば、帰属収入は企業のように年度単位で極端に増減することはなく、固定的 である。支出は、主に人件費、教育研究経費、管理経費等からなっており、その使途は制 約され固定的である。企業の場合は業績によって、当該年度内においても柔軟に資金を運 用・投資することができる。大学は、企業と違い業績による影響は受けにくいものの、予 算編成と予算執行管理に重きを置いている。「財務の視点」から戦略目標、重要成功要因お よび評価指標を検討するにあたっての留意点であるといえる。

Niven(2006)は、BSCと予算編成を関連づける必要があることをつぎのように指摘し ている。アクションプランを実行するには予算が必要となることから、限られた予算をバ ランスよく配分しなければならない。予算配分にあたっては、経常的予算と戦略的予算と に分けて考える必要があり、そのバランスが求められる81

また、バランスのとれた予算配分を実現するために、事業部署と予算管理部署との予算 折衝時にBSCを用いることによって、説得性や納得性のある交渉を行うことができる。

その交渉のなかで、双方が戦略とアクションプランの重要性を理解することが可能となり、

結果として必要な予算を獲得することにつながる。また、アクションプランの実行にあた って、コストに対する意識を高めることができる82

これらのことから、BSCは予算に関わってもコミュニケーション・ツールとして機能 することがわかる。また、各部署および事務職員一人ひとりがコスト意識を持つことは、

経営にかかる当事者意識を育むことになる。この点においても、BSCは有用であるとい える。

3 4つの視点の関係性からの整理

このように大学の使命を果たすにあたっては、財政基盤の確保を前提としながらも、さ まざまな角度からのアプロ―が必要である。

営利組織である企業と非営利組織である大学について比較し、BSCの有用性について

「顧客の視点」「財務の視点」における違いを明らかにしながら、BSCの有用性に差がな いことを整理することができた。

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大学は、厳しい競争的環境から商業主義に陥る傾向があるものの、非営利である組織と して、大学を取り巻くステークホルダーである学生や地域住民、地元企業、地元経済団体 などを中心に戦略を志向することができる「顧客の視点」を有するとともに、組織で働く 教職員のことを念頭に置いた戦略を形成することができる「学習と成長の視点」を有した BSCは、大学の経営戦略マネジメント・システムとして有用である。

運用においては、外部環境の変化が大きいことに留意しながら、単年度ではなく中期的 に3年から5年程度の先を見据え、柔軟に戦略目標やKPIなどを変更して対応すること が必要である。また、大学は予算編成に重点を置く組織であることから、BSCによる戦 略的な計画の立案と予算編成プロセスとを統合した運用が求められる。

BSCにおいては「財務の視点」「顧客の視点」「業務プロセスの視点」「学習と成長の視 点」のそれぞれの視点から、戦略目標を策定し、その戦略目標を達成するために必要とな る評価指標を作成し、PDCAサイクルを機能させていく必要がある。

これまでの考察を踏まえて、企業における一般的な戦略マップと大学において基本型と 考えられる戦略マップについて整理する。図表4-5は、企業における戦略マップの基本型 と大学における戦略マップの基本型を表している。Kaplan and Norton(2005)を基に企業 の基本型を説明すると、企業は長期の株主利益の最大化が最大の目標であることから「財 務の視点」が最上位に位置している。また、その長期の株主利益の最大化を図るために、

人的資本、情報資本、組織資本で構成される「学習と成長の視点」は、業務管理、顧客管 理、イノベーションの管理、規制と社会のプロセスの管理などの「業務プロセスの視点」

を支援する。そして、それらがターゲットとなる顧客に価値を提供するなどして顧客満足 度を高め、顧客との関係性が強化される「顧客の視点」がある。結果として、戦略目標で ある長期の株主利益が最大化される「財務の視点」がある83

大学の基本型は、最上位に「顧客の視点」が位置している。なぜなら、大学を取り巻く 日本人学生、外国人留学生、地域住民、地元企業および地元経済団体などを顧客として位 置づけたうえで、大学の使命である社会に有意な学生を育成することが最大の目標となる とともに、地方創生における地方大学の役割である地域貢献・活性化を図るために、地域 住民や地元企業、地元経済団体などの満足度の向上を図ることが必要だからである。ただ し、非営利組織である大学であっても、安定した財政基盤なしに大学の営みである教育・

研究・地域貢献はできないことから「財務の視点」が重要である。財政基盤の安定化は、

地方大学の持続的経営のための前提条件となることに留意する必要がある。

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図表4-5 企業と大学の戦略マップ(基本型)

(出所) Kaplan and Norton(2005、 62頁)に記載されている「図表2-1」に、大学の基本型

を加えて筆者作成

そして、「顧客の視点」における戦略目標を達成するためには、地方大学における経営人 材の育成と能力開発は必須の要件となることから、「学習と成長の視点」は重要な観点とな る。また、「業務プロセスの視点」は、教職員の意識改革と行動改革を行い、教職協働を実 現し、組織を変革していくうえで重要な視点となる。これら二つの視点は人と組織の関係 から相互に連動しており、並列に位置している。